ウェディング狂奏曲 1

 





カン カン カン カン カン・・・・。

躍場にある階段は夜になるとやたら安っぽい音が響くような気がする。
オレは同じテンポの足音を聞きながらマンションの階段を駆け上がった。

マンションにはエレベーターもあるんだけど
こうやって階段の上り下りぐれえしねえと研究所とマンションの
往復ぐれえじゃ体がなまっちまうんだよな。

階段を駆け上がるオレの後を芥がそう慌てるでもなくついてきてる。
本当はこんなこと芥はどうでもいいんだろうけどオレに付き合ってくれてるんだ。

悔しいのはオレたちの部屋がある6階まで上りきる頃にはオレの息は上がりきっているのに
芥はいつも涼しい顔をしてるってこと。

兄弟なのにこの差はなんなんだっと思いながらオレは
ようやく到着した部屋の前で大きく深呼吸をした。

それから鍵を差し込んだんだけど・・。



「あれ?おかしいな。確かにオレ朝閉めたはずなんだけど・・。」

扉の鍵が開いてたんだ。
まさか空き巣とか・・?

繭を潜めた芥が用心深く部屋の中に入ろうとしたら
奥から声がした。

「帰ったのか!?」

親父(相沢教授)の声だ。

オレと芥の親父は世界的に有名な化学者であっちこっちの
研究機関に呼ばれては開発、新薬の研究に携わってる。

そんなで海外赴任の長い親父と俺たちは一緒に住んでねえんだ。

「親父来てたのか?」

オレは靴も鞄も放り投げてリビングに入ると親父に飛びついた。

「ガク久しぶりだな。また大きくなったんじゃないか?」

「ん〜この間会った時より2cmぐれえな。けど芥の背には
全然追いつきそうにねえんだよな。」

そういうと親父の手がいきなりオレの股間に伸びてそこを擦ってきたんだ。

「なっ・・・・なにすんだよ!?」

「こっちも成長したのではないかと思ってな。」

親父はにやりと笑ったまま今度はお尻に手を伸ばしてきた。

「バっ・・んな所はいいんだって!!」

顔を真っ赤にしたら後ろから冷たい視線を感じたんだ。
オレ親父に久しぶりに会えたのが嬉しくてすっかり芥のことを忘れてたんだ。

「何をしている。」

冷ややかな声が背後からしてオレはすっと熱が冷めてく気がした。

「なんだ。芥お前もいたのか?」

2人の絡み合う視線がなんかすげえ怖くて慌てて親父から離れたら
口端だけでせせら笑うように親父がいったんだ。

「芥、ヤキモチを焼いているのか?だったらお前も私の胸に
飛び込んでくればいいだろう。」

オレはそれを聞いてなんだ〜とほっと胸を撫で下ろした。

「芥うらやましかっただけなのか?だったら芥も親父に甘えたらいいのに。」

オレがそういうと芥はあからさまに顔をしかめてため息をついた。
しかも頭を手に当ててだぜ。
オレそんなにヘンな事いったのか?

「それで、お前はなぜここにいる?」

芥の言い方はまるで「ここには来るな。」と言ってるみてえに聞こえて
オレは親父のかわりに芥に言ってやった。

「芥、いいだろ。親父が日本にいる時ぐらいここに来ても。」

オレが親父を弁護すると芥が鋭い視線でにらみつけてきた。

「ガクお前は黙ってろ。」

そう言われて黙ってるのはシャクな気がしたけど芥がすげえ怒ってるのが
わかってオレは「う〜」って唸ったまま芥をにらみ付けた。

「芥、ガクが大事なのはわかるがそんなことをしていては嫌われるぞ。
ガクもこんな我侭の芥のどこがよいのだ?
私と一緒にくれば好きなだけ研究をさせてやるのに。」

親父に言われてオレはうな垂れた。
確かに親父の言い分はもっともだし誘いはすげえ魅力的だと思う。

けどオレは芥を一人にすることができねえんだ。
親父の周りにはいろいろな人がいるけど芥にはオレしかいねえから。
ほっとけねえだろ?
それに親父といるといつまでたっても親父を越えられそうな気がしねってのもある
んだ。それはたぶん芥も感じてることだ。

「うん・・ありがとうな。けどオレ今のままがいいんだ。
それより親父はどうしたんだ?アメリカの仕事長引きそうだっていってた
じゃねえか?」

「そのことなんだがな。・・・」
親父はそういいながらポケットから封筒を取り出してオレと芥に差し出した。





オレは封筒から二つ折りにされたカードを取り出した。

「えっと何々・・・このたび、羽柴夜と藤守らんは結婚することになりました・・・つきましては
結婚式に・・・ってなんだよこれ??」

「見てのとおりだろう。夜くんとらんくんの結婚式の招待状だ。
芥とガクの招待状もあるだろう。」

日付を見て俺はますます驚いた。
だって結婚式は明日だったんだ。

「けど男同士って結婚できるのか?」

オレが聞くと芥はなんともいえない顔をして大きなため息をついた。
かわりにオレの素朴な疑問にこたえてくれたのは親父だった。

「そういう考えは古いものの考え方だろう。お前は化学者なのだから
常に視野を大きく新しいものの考えを取り入れていかなければな。
アメリカでは同性で結婚できる州もあることだし。
そのうち兄弟でもできるかもしれんぞ。」


それはさすがにありえないだろうと思いながらもオレは顔が真っ赤になってくのを
感じた。
親父はつまりそれはオレと芥の事をいってるんだよな?

「もっとも芥にガクはそうかんたんにやらんがな。」

「親父・・・。あのさ・・。」

それになんと応えてよいのかわからなくてオレが困っていたら芥が
バカバカしいとばかりに立ち上がった。

「付き合ってられんな。オレは部屋に戻る。
お前も用が済んだのならさっさと帰れ。」

芥はそれだけ言うと自室にいこうとしたんでオレは芥を呼び止めた。

「芥、それはないだろ!!」

オレがそういったけど芥は振り向きもせず寝室へと入っていった。

せっかく来てくれた親父をむげに追い返すなんて。
オレは久しぶりにあった親父ともっともっといろいろな話がしてえのに。


「親父、芥の言ったことなんて気にすんなよ。泊まっていけばいいんだからな。
オレちょっと芥と話してくっから。」


オレは芥を追いかけて寝室に飛び込んだんだ。


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あとがき

サイトがまもなく2歳になります(笑)
こうしてサイトを続けてこられたのも
『こんな私の拙いお話(もとい妄想小説;)でも読んで下さるお客様がいる』という事に
尽きます(笑)
自身の世界を表現できて、読んでくださるお客様がいるのは嬉しいし事で言葉に
出来ないほど感謝しています。

この感謝の気持ちはこれからもすきしょ!の世界を描くという形でお返しできれば
いいな〜と思ってます。<m(__)m>