ドタバタ・バレンタイン



3



     
オレが化学室を覗くと芥は一人で黙々と実験の準備を
進めていた。
オレはそれについぼっと見惚れた。

見慣れてるはずの白衣の背中がすげえカッコいいって
思ったんだ。
けど芥の独特のオーラーは誰も寄せ付けねえ冷たさを放ってる。

それはいつもの事なんだけど。

オレはそんな近づきがたい芥のバリアを取り除きてえんだ。
芥の本質は優しいだぜ。周りは誤解してるやつが多いけど。

けど・・・
本当の芥を知ってるのはオレだけでもいいかななんて
・・・・オレ矛盾してる・・!?

ぼけっとオレが化学室の前で考え耽っているといきなり化学室の
扉が開いて。
しかも扉を開けた芥はオレの事を腕を組んで睨みつけてる。
ひょっとしてオレがここにいるの気づいてた?

「芥!!」

「そんなところで何をしている?」

「えへへ、あのな・・。」

芥は明らかに不機嫌な声でオレを睨んでた。

「大方遅刻した言い訳でも考えていたのだろう。
さっさと中に入れ。」

ぴしゃりと言われてオレは一瞬躊躇したがこのタイミングを逃す事
はしなかった。

「あのな・・芥・・今日バレンタインだろ?だからこれ作ってきたんだ。
食ってくれるか?」

オレはなるべく芥の顔を見ないように紙袋を差し出した。
芥がそれを受け取ったのでオレはそっと芥の表情を伺った。

「甘そうな匂いだな。学が作ったのか?」

「うん。オレが芥の為に作ったんだぜ。食ってくれるよな?」

芥は紙袋からクッキーをつまみ上げると氷のように冷たい笑みを
浮かべた。

オレは何だか背中に冷たいものが流れたような気がした。
その芥の笑みが教授のそれに似ていたんだ。
もっとも教授と芥は親子だから仕草が似ていてもおかしくはね
えんだけ、あの冷笑は・・・?

「学、お前はこれを食ったのか?」

「ううん、オレは食ってねえけど。」

「だったらお前が先に食ってみろ。」

「えっ?」

まさか芥はオレが薬を仕込んでることに、その薬の効果に気づいてる?
これは見た目もさることながら薬品の匂いだってしねえんだぜ。
それどころか人の嗅覚をくすぐって食欲をそそるような
匂い(人が好むハーブや香辛料)を香料としてブレンドしたオレの
傑作品で・・。。


「どうした、学、食わないのか?」

「そうじゃねえけど・・せっかく芥の為に作ってきたのに
芥は食べてくれねえのかなって思って。」

「お前が食ったらオレも食おう。一人では食べづらいだろう?」

そういわれちまうとオレは断る言葉がみつからなかった。
けどまあオレは大丈夫だよな。オレは自分に正直だし。

「う・・・うん。だったらオレも食ってみようかな。」

少し戸惑いながらクッキーを紙袋から取ると芥に確かめるように
聞いた。

「なあ、オレが食ったら芥も食ってくれるよな?」

「ああ、勿論だ。」

オレは覚悟を決めるとそれを口に放り込んだ。
放り込んだ瞬間甘いチョコレートの香りが口の中に広がった。

「うん。すげえ美味しいぜ。か・・いも・・?」

オレが言い終わる前に芥の顔が近づいてきて
突然すぎるほどいきなり芥に口付けられていた。

「か・・・い!!」

オレの次の台詞は芥の唇に飲み込まれてかわりに
芥の舌がオレの舌を絡め取っていった。

「甘いな。」

唇が離された瞬間耳元で芥がそうつぶやいた。

「な・・・・いきなり何すんだよ!!」

芥はそのままオレを壁に縫い付けた。

「か・・芥!?」

「学・・クッキーに何を仕込んだ?」

ズキリと胸に芥の声が響く。

「何も入れてねえよ。」

オレはそういったけど自分の舌がひりひりとするのを感じた。

「本当か?」

芥に耳元で囁かれてオレは体がぶるっと震えた。
自分の感情とは違う所で何かが湧きあがろうとしている。

ダメだ・・これ以上自分をコントロールできない。

オレは自分でも気づかないうちに瞳に涙を浮かべていた。
どうして自分が泣いてるんだかわからなかったけどいろんな
感情がいっぺんに沸き上げってきてそれをどうすることも
できなかったんだ。

「学・・?」

「芥・・芥・・・オレ・・・不安なんだ。芥の気持ちがわかんなくて
それでクッキーに「好きな人に正直になる」薬を入れた・・・。ごめんな・・芥・・
オレ・・・オレは・・。」

芥は小さくため息をつくと学をぎゅっと抱きしめた。

「オレの気持ちはお前が一番知ってるはずだろう。」

「そんなことない。芥はいつもいつだってオレに何も言ってくれねえから・・。」

「だったら学はどうなんだ?お前はオレにオレだけだと言えるのか?」

逆にそう問いつけられて学は胸を鷲づかまれたような気がした。

「・・・言ってみろ。学、お前の気持ちはどこにある?」

芥の辛そうな顔が目の前にある。こんなに芥のことが好きなのに
オレはまだ選べないでいる。けど・・しょうがねえだろ。
本当に選べねえんだから。

「ごめんな。芥・・芥ごめん。オレ芥の事すげえ好き!!好き!!
なのに芥だけを選べなくてごめん。ごめんな・・。
オレ怖えんだ。いつか見放されるんじぇえかって、こんなオレなんて
芥に嫌われちまうんじゃねえかって思うと。」

「学!!」

芥はぎゅっとオレを閉じ込めるように壁に押し付けつけると
オレから言葉も何もかもを奪うように激しく口付けた。

「オレはお前が誰を愛そうとオレの気持ちはかわらない。
だから心配するな・・学・・愛してる。」

「芥・・?」

学は芥が口にした台詞に驚いていた。


そっか、口移しで芥にも薬の効果が行ったんだ。

今でも薬の力に頼らないと本当の気持ちもいえないオレと芥。
それでもオレたち少しづつは進んでるんだよな?

オレはぎゅっとその大きな背にしがみつくと痛いほどに湧き上がってくる
想いを口にした。


「オレも芥を愛してる。」






                                          続く
     
                            





ほのぼのギャグのつもりがなんかシリアスになってしまいましたが・・。
次回最終話はギャグ(?)相沢教授登場です。なるだけ沢山のキャラを登場
させられたらいいな〜と思ってます。