ドタバタ・バレンタイン





     
今日は2月14日
化学室の中はチョコレートの甘く香ばしい匂いが充満していた。

「よっしゃ!!完成、やっぱオレって天才かも!!」

自画自賛しながら学は出来上がったばかりのクッキーを一つ
摘み上げた。
熱々ほこほこのクッキー。ココアとチョコレートの程よい香りが手の中で
広がった。

「う〜ん、すげえうまそう〜。」

学は危うく誘惑に負けそうになりながらもそれを用意していた紙袋に慎重に
つめていく。

このクッキーを食べるわけにはいかないのだ。
何よりこのクッキーには・・・。

学はクッキーを紙袋に詰め込みながら自然と湧き上がる笑みを隠す
ことが出来なかった。

「絶対芥に食べてもらわねえと。」

学は逸る気持ちを抑えて化学室を手早く片付けると廊下へと思いっきり
飛び出した。その瞬間学は目の奥で火花が散った。

「痛え〜!!」

前方不注意!!

「ご、ごめん、市川くん大丈夫!?」

この声って?
聞き覚えのある声が頭の上からして学はぶつけたおでこをさすりながら
顔を上げた。
思ったとおりそこにいたのは藤守先輩だった。

「えへへ、オレの方こそごめん。急ぐとついてねえよな。
それにしても藤守先輩はどうしてこんな所に?」

先輩はちょっと困った顔をしていた。

化学室のある特別校舎は別棟で特別室ばかりだから一般の
学生が来る事はまずない。

「化学室からいいにおいがしたから気になって。」

「なんだ。そんなことか。」

学はこの時つい出来心で悪戯してみたくなったのだ。

「へへ、そういえば先輩甘いもんすきだったよな。」

学はさっきぶつかった時に落としたクッキーの袋を
ひろうとその中からクッキを一つ差し出した。

「先輩よかったら食べてみねえ、」

「えっでもこれは市川くんが・・?」

「うん。オレが芥の為に作ったものだぜ。」

躊躇う事なくそういうと先輩は苦笑した。

「それならなお更貰うわけにいかないよ。」

「いいって、芥そんなに甘いもん好きじゃねえしそれに
藤守先輩に毒見してもらいてえし。」

「毒見って・・」

顔を引きつらせた先輩に学は「冗談だって。」笑い飛ばしたが
まんざら冗談ではなかったりするのだ。

「ほら、藤守先輩、せっかく匂いにつられてここまで来たんだろ?」

先輩の目の前にクッキーを差し出すとさすがに
誘惑に負けたか先輩はそれを受け取った。

「ありがとう。それじゃあ一つだけ。」

クッキーを口の中に入れると先輩は頬をおさえた。
まさに頬が落ちるって感じ?

「先輩どう?」

「うん。市川くんすごく美味しいよ。甘すぎなくてそれにこのクッキー
中のチョコが解けてるんだね。こんなのはじめて食べたよ。」

「うんうん、」

直に絶賛されて学は満足そうに頷いた。

「よかった。先輩にそういってもらえて。ごめんな。先輩にもっとクッキー
上げたかったんだけど。」

「いいって。永瀬くんにあげるんでしょう?市川くんがんばってね。」

「うん。ありがとな、」

学はそれだけ言うと急いで走り始めたが廊下の端まできて思い出したように
振り返った。
化学室の前にはまだ先輩がいて学は大声を上げた。

「なあ、藤守先輩は空先輩にチョコあげねえのか?」

しばらくの間のあと廊下の端にいてもわかるぐれえ先輩は赤面した。

「何で、オレがあんなやつにチョコレートあげなきゃいけないんだよ。」

先輩の声も学に負けず劣らず大きな声だった。

ふふ、いつまでそんな事言っていられるのか、楽しみだよな。
そんな事を考えて学はにやりと笑った。

「まあ先輩もがんばってな!!」


チョコはあげないと言ったのに何をがんばるんだとは思ったが
直は笑って学を見送ったのだった。



                                          続く

     
                            



学の作ったクッキーには本当の気持ちを打ち明ける(自白剤つうのかな;)
薬が入ってます。原作ではちょっと痛い薬でしたがこんな使い方だといいかな〜
と思って書いてみました。
さて3月14日までこのクッキーをすきしょ!キャラに食べさせてみようと
思います。まずは直くんからです。