雨がやむと直哉はシーツを掴んで機内を降りた。
日の光が雲の隙間から顔をだし穏やかに
海を照らしてる。
砂浜を踏みしめるように彰人に近づいて
直哉は足を止めた。
彰人の背中が直哉を拒んでいたからだ。
だが戻ることも出来ずたたずんでいると直哉に気づいた
彰人が自嘲するように笑った。
そんな彰人を見たのははじめてで直哉は胸がぎゅっと痛くなる。
「彰人これ。」
彰人の体を見ないようにシーツを手渡す。
「ありがとう・・・。」
「彰人あのな・・・」
直哉が何か言おうとする前に彰人がそれを遮った。
「・・・・・少し一人にしてくれないか」
彰人の表情は見えない。
「彰人あの 俺・・。」
口について出た言葉に直哉は渇きを覚える。
言葉がみつからない。
直哉はぽかりとあいた胸を押さえるように砂浜に広げられたボトルを
拾い集めた。
彰人が戻ってきたのは日も傾いた夕刻のことだった。
戻るなり「腹が減った〜。」
なんていいながら機内を物色しはじめた彰人は
もうきちんと服も着込んで普段と変わりなくて直哉はそれに
少なからずほっとしたのだった。
この島は夜が早い。
日が傾いたと思ったらもすぐに夜の闇に包まれてる。
彰人は普段を装ってるけど見えない距離を
感じながら直哉は毛布をかぶると目を閉じた。
だが今夜もいつまでたっても眠気は訪れてくれそうにはなかった。
これからオレたちどうなるのだろう?
助けはくるのだろうか?
そして・・・・。
一番考えないようにしていた彰人のことが思考にこびりつく。
切羽詰った声 表情・・・そして
思い出しただけで直哉は顔が真っ赤になってそれを振る払う
ように頭を振った。
「なんで彰人あんなこと・・。」
声に出した途端しまったと思って口を押さえたが彰人はもう眠ってしまっ
たらしい。
それにほっとした時左指に触れる濡れた感触にびくっと反応した。
彰人の指?心臓がドクンと音を上げる。
触れた感触にドキマギしながらそっと払おうとしたらその濡れた感触が
突然移動して・・・。
「ぎゃあああ!!!」
大声をあげた直哉に彰人が飛び起きた。
「なに?どうした直哉」
「彰人背中に・・ 背中になんか入った!」
「えええ!?どこ」
「あっ・・」
背中で這い回る物体に妙な声を上げた直哉に
彰人が直哉の体に触れてきた。
「ちょっ彰人どこ触ってんだよ。」
「だって服の中に何かいるんだろ?」
「だから背中だって!!」
背中を向けて早く!と即す直哉に彰人は苦笑しながら
手探りで服の中に手を入れた。
「もっと上の方・・」
じめっとしめった気持ち悪い感触に
こんなものを彰人と間違えた自分がひどく
恥ずかった。
捕まえた物体を彰人がライターの火で確認する。
「ヤモリみたいだな・・。」
窓からそれをぽいっと逃がした彰人にほっとして
直哉はへたへたと椅子に座り込んだ。
「それにしても随分スケベなヤモリだな。」
彰人の言葉に直哉は噴出した。
「お前には負けるって。」
「かもな。」
その途端二人は見合わせて笑い転げた。
ひとしきり笑うと直哉は何かが吹っ切れたような気がした。
「彰人・・・俺今夜も眠れそうにない。」
「ヤモリのせいだろ?」
彰人はヤモリのせいにしたいのだろうか。
「違うよ。」
「・・・・・。」
彰人からの返事はない。
直哉は大きくため息をつくと、毛布をがばっと
かぶってつぶやいた。
考えないといけない事だらけだってぼやいた台詞は彰人に届いたか
直哉にはわからなかった。