直哉はのどの渇きと暑いけだるさで目を覚ました。
日はすっかり昇ってる。
隣で寝てるはずの彰人はいない。
オレ少しは寝たんだ。
あきと・・・。
名を呼んだはずなのにその声は蚊が鳴くほどに
弱かった。
あれ?
立ち上がろうとした途端ぐらりと体が傾いて
がしゃんと大きな音を立てた。
いてええ・・・。
「どうかしたのか?」
彰人が駆け寄ってきたが頭が重くて
上がらない。
「直哉寝ぼけたのか?」
笑いながら直哉に手をかした彰人は直哉に触れるなり
その異常な暑さに気がついた。
「直哉どうした?熱があるのか。」
彰人に抱きかかえられて起き上がると
彰人の手が服の中に滑りこんできた。
その手はひんやりしていた。
触れた指に驚いてぴくりと体が震えたが
それはすぐに離れた。
「すごい熱じゃないか。脈も速いし・・
何でいわなかったんだ!」
攻めるように言ったあと彰人は言ってしまったあと
しまったという表情をした。
「俺のせいだな。雨の中あんなこと・・。」
違うと首を振ると彰人の顔が揺れた。
「今朝も直哉の顔見ないようにしてたから、もっと
早く気づくべきだった。」
彰人は自分を責めるようにそういって
直哉を横たわらせるとペットボトルを手渡した。
「昨日確保した水は?」
直哉がそうたずねるとそのまま飲むのはまずいんだ
と貴重な水をくれた。
生ぬるい水だったがひりひりと渇いたのどには
それでも潤った。
彰人は機内をいろいろ探しまわったが流石に調べつくしていたし
薬らしきものはみつかる様子はなかった。
「彰人・・・」
熱の苦しさと心細さで彰人をよんだ。
震えながら毛布に包まる直哉に彰人はもう1枚毛布をかけると
手の甲に手を重ねた。
温かいぬくもりが心の中まで伝わってくる。
「彰人の手、温かいや。」
彰人の表情がゆれる。なんでさっきからそんな悲しそうな表情
をするのだろう。
「なあ 彰人もし俺がここで死んでもさ。彰人は絶対諦めんなよ。」
弱音を吐いた事に直哉は後悔したが予想に
反し彰人はそれに頷いた。
「わかった。だからお前も約束しろ。もしオレがここで死んでも
最後まで諦めないって。」
「そんなこと・・。」
反論しようとすると彰人が心配を吹き飛ばすように笑った。
「直哉がそういったんだぜ?」
なぜだろう胸が痛くなる。
涙が出そうになるのを抑えて直哉は壊れた窓から
高い空を見上げた。
「なあ、彰人何かうたってくれよ。」
「ああ。」
悲しいのはきっと今だけだから、
時が過ぎるまで君の傍にいよう
いつかこの空のむこうにある君の笑顔に
出会うために
この歌を君の為にうたうよ
澄んだ彰人の優しい歌が胸に響く。
「いい曲だな・・・彰人が作ったの?」
「ああ 昨日雨の中で作った。」
直哉が返事に困ると彰人は苦笑した。
「この曲のタイトルは?」
「考えてなかったな。」
「それじゃあ この空の向こうには?」
「わるくないな。」
「だろ?」
いつかこの空のむこうにある君の笑顔に会うために・・・。
直哉は荒い呼吸も忘れて先ほどのメロディを追うと
彰人がそれを咎めた。
「直哉今はおとなしく寝てろ。付いててやるから。」
「うん。なあ彰人帰ったら歌おうな。」
「ああ。」
直哉はもう1度高い空を見上げた。
瞳をとじると両親に事務所の先輩や後輩たち
先に渡米したマネージャーやスタッフの姿があった。
みんな心配してる。
彰人と一緒に帰るんだ。
この空のむこうに・・・。