「雨のにおいがするな。」
森を出るなり彰人は海の向こうをみつめ、そうつぶやいた。
確かに森に入る前より風は強くなっていたが
直哉には彰人の言う【雨のにおい】というものがよくわからなかった。
雨水を確保するため二人は
一端機内に戻るとペットボトルやら金属の破片やらをかき集めた。
そうして空き缶やベットボトルを砂浜に並べると
それを待っていたように
海の向こうから雨雲が風に乗ってきた。
こんな風に雨が来る瞬間をみたのは直哉は初めてだった。
彰人は直哉の手を引くと砂浜にたった。
「彰人どうするの?」
「こうするんだ。」
そういうと彰人は上着を脱ぎはじめた。
直哉が目をぱちくりしている間に 彰人はスラックスまで脱いで・・。
「ひょっとして雨のシャワーでも浴びるつもり?」
「どうせ濡れるならな。直哉も付き合えよ。」
トランクスにまで手をかけた彰人に直哉は
しかめっ面した。
「別に誰もいないんだしいいだろ。」
「目の前に俺がいるだろ!!」
彰人は苦笑したが直哉の抗議を聞き流して、
さっさと下着も脱いでしまった。
そんな彰人に呆れながらも直哉は服に手をかけたが
流石に彰人のように下着まで脱ぐ気にはなれなかった。
「ほら・・・恵みの雨が来る。」
彰人が言い終わらぬうちに高い空から雨が降り
だした。
空を見上げていた彰人の顔に髪に雨が
つたい頬に流れ落ちる。
それが直哉には彰人が泣いてるように見えて、
直哉はぎゅっと彰人の手を握り締めた。
触れた指先から雨の雫が伝っては落ちていく。
「直哉・・・」
縛りだすような彰人の声に驚いて彰人をみると真摯なまなざしが
直哉を見つめていた。
さっき好きだと言われた時よりももっと直哉の心の中に入って
くるような視線・・。
「あき・・ 」
「しゃべるな・・」
唇が塞がれる。
「ん・・」
雨で体温が奪われているはずなのに触れた素肌は
どこも熱くて心臓はこれ以上ないほど脈うってる。
オレ・・・彰人とキスしてる・・・おかしいよな。
おかしいことなのに・・・。なのにどうしてこんなに・・・。
唇が離れて直哉は我に返る。
「あ 彰人・・・」
どうしていいかわからず戸惑う直哉の顎に彰人がもう一度手を掛ける。
直哉は彰人の胸を押しのけようとしたがそれと同時になにかを期待
する自分がいることに気づいたのだ。
「直哉・・・」
耳元でささやかれた熱を帯びた声に直哉の体が震える。
「ダメだ・・・」
抵抗した声は自分でも驚くほどか弱くて泣きたい気持ちになる。
「オレを男として意識しただろう?」
「何言って・・・」
先ほどとは違い激しく唇がふさがれた。
それと同時にざらったした彰人の舌が口内に入り込み直哉の舌を
絡めとる。
「ん。」
「ふうん・・・」
長く激しいキスが直哉を翻弄する。
口内で交換される息が唾液が雨が直哉を溶かしていく。
このまま二人本当に溶けてしまうんじゃないかと思うほど
の甘いに直哉がのまれそうになった時彰人の腕が
直哉の腰をきつく抱き寄せた。
瞬間熱く触れたものに直哉の体が慄いた。
残っていた理性で逃れようと身をよじった
が彰人はそれを許してはくれなかった。
直哉の下肢に手が伸びて・・・。
「いやだ。彰人・・・」
泣きそうになりながら直哉はのこった理性を搾り出し
おもいっきり彰人を突き飛ばした。
その拍子で横転した彰人を見ることもできず
直哉はその場を逃げるように機内に走った。
機内に入るないなや手近にあったシーツを素肌に
巻きつけた。
体はまだ震えてる。雨が冷たかったから震えてるんじゃない。
彰人に触れた熱が逃げ場に困って震えてるんだ。
体にこもった熱のやり場に耐えるように直哉はシーツに包まると
椅子に転がるように倒れこんだ。
壊れた窓からぽつんと雨の中にいる彰人が見えた。
彰人は遥か高い空を見上げてた。
その瞳は遠くて胸が痛くなる。
彰人・・・なんであんなこと・・・。
彰人は雨が止むまでずっと砂浜でそうして空を見上げてた。
|