この空のむこうに



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壊れた機内の窓から少しづつ日の光が差し込んできていた。
 


結局朝まで眠ることができなかった直哉は隣で眠る彰人を起こさ
ないようにそっと機内を出た。







眼前はどこまでも広がる海。
 



一晩明けるとこの状況が変わってるんじゃ
ないだろうかなんてどこかで思ってた。
 
これは夢なんだと思いたかったのかもしれない。

でも現実は何一つかわっちゃいなくて・・・・。



直哉は大きく背伸びをして
潮のにおいと少し冷たい空気を体いっぱいに吸い込んで目を閉じた。



背後からがさがさと砂の音が聞こえて直哉は慌てて振りむいた。


「ごめん。彰人起こした?」

「いや。それより直哉大丈夫なのか?目はれてるぜ。」
 
直哉が慌てて目をこすると彰人がそれじゃあ余計にはれるだろ
って笑った。
 
「眠れなくてももう少し横になったほうがいい。」
 
彰人は心配してくれてるのがわかったが直哉は首を振った

「ありがとう。でもあそこにいるよりやっぱこっちの方がまだ
落ち着くって言うか。なんか。」
 
口ごもった直哉に彰人は腰をかけるよう勧めて自分も
その隣に座った。
 
「直哉 今はゆっくり考えよう。考えるなっていっても、
無理だろう。だからさ。
助けがきても事実や心の傷がなくなるわけじゃないし。
俺でよかったらなんでも聞いてやるから。
今ここには俺たちしかいないんだしな。」


普段の体裁なんかくそくらいだ!って彰人は笑った。
 


 
ふたりでしばらくそうして、彰人は直哉が落ち着くのを見計らって
立ち上がった。


「直哉今何時?」

「えっと。」



時刻は9月X日 早朝4時 を回ったところをさしていた。
日本じゃまだ日もあけてない時刻だ。

「直哉悪いが少し時計をかしてくれないか。」

「べつにいいけど・・。」

直哉は時計を外すと彰人に手渡した。

「でも時計なんてどうするの?」

「今から島の中に入ってみようと思うんだ。」

「何がいるかわからないのに?!」

「だから俺一人で行ってくる。共倒れになるとまずいしな。」

食い物だってみつかれかもしれないだろ?と彰人はおどけた口調
で言うけれどそんな事勝手に決めないで欲しい。

「だからって何で一人で行くなんていうんだよ。」

直哉が抗議すると彰人はかなり驚いたようだった。

「共倒れってなんだよ。それじゃあもう彰人は帰ってこないみたい
じゃないか・・・
そんなの俺やだから・・・絶対いやなんだからな・・・」

いつの間にか自分が泣き声になってることに気づいて直哉はごしごし
腕をこすりつけた。

ますます貼れた瞳に彰人が小さく息をついた。

「バカだな。直哉は・・・」

彰人は直哉の隣に立つとぽんぽんと肩を叩いた。

こういった何げないしぐさが今の直哉を落ち着かせてる。


「大丈夫だって。」

「大丈夫だったら俺も一緒に行く。」

彰人は直哉の返事に苦笑した。

「そういえば、お前合宿の時、夜中俺のトイレに付いていくって
きかなかった事あったよな。」

「それっていつの話だよ。小学生の頃の話じゃん!」


彰人はその時のことを思い出すように遠い目をしていた。



「そうそうあれは・・・確か6年の時だ。
肝だめしのあと俺がトイレに行こうと
したら、『彰人一人でいくの怖いだろ?』ってお前勝手に決め
込んで、いいって言ってんのに結局トイレまで付いて来たん
だよな。」

思い出した直哉は赤面して口ごもった。

「もういいじゃん。そんな話・・・」

直哉がむきになると彰人はいかにもおかしそうに笑った。

「変わってないよな、お前って。怖がりで臆病でそれでいて強情
なところとか。」

「悪かったな。」

「でも・・・直哉は人一倍優しくて思いやりがあって
涙もろくて かわいくて・・・俺お前のそういうとこも好きだぜ。」


好きだと言われた瞬間直哉の心臓はドクンとなった。
彰人の真摯な眼差しが直哉の心を射抜くようにみつめていた
からだ。


それを誤魔化すように何言ってんだよっと抗議すると彰人が
ぐりぐりと頭を撫で回してきた。

「ホント 直哉はかわいいよな〜。」

かわいいなんていわれて喜ぶのは女だけだって文句を
いいながらも直哉は心が温かくなるのを感じていた。
 
 





二人は森に探検に行くため適当に機内で見繕ったものを
シーツに
くるんだ。



そうして時計を見ながら彰人は方位を測った。

日の位置で東を割り出しそれを時計の
短針にあてて方位を割り出してるようだった。

直哉には全くちんぷんかんぷんでとにかくこうなると
彰人が頼もしい。




森と言ってもジャングル状態で人が歩けるような道なんてないし
シダ科の植物らしい背の高い木々がどこまでも覆いしげっていて
二人の行く道を拒んでるようだった。


彰人は落ちていた長い棒切れで草むらを用心深く確認しながら
前に進んだがそう歩かぬうちに足をとめた。
 


「まずいな。これ以上は進まない方がいい。」

「どうして?」

「日が差し込まなくなってるだろ?これじゃあ方位が測れない。
それに目印になるように何か木にしるしをつけていこうと思ったんだが
この背の高いシダ植物じゃな。しるしのつけようもない。」

「そっか・・」

言われてみればたしかにその通りだった。
俺たちの姿でさえ植物に隠れて見えないのだ。
今じゃかろうじて自分たちが来た方向がわかる程度で
海も全くみあたらない。

それでも直哉はあたりをぐるっと見渡すと小さな赤い実のなってる
植物をみつけた。

「なあ彰人あれって食べれると思う?」

「ああ。あれな。たぶんアケビだとおもうんだが・・。」

「アケビ・・?」

「アケビだったら食えるんだけどな・・。」

自信がない。という彰人にとりあえず直哉はそのおいしそうに
実る赤い実をもぎ取って口に小さく含んでみたのだが・・・・

「ううううう・・・」

渋くて不味い・・。
吐き出した直哉を見て彰人は苦笑した。

「無用心だな。」

そういいながら彰人は何か見つけたように別の木を観察していた。
その木の上には確かに何か実のようなものがなっていた。

「俺この木に登って実を落とすから直哉下で受け止めてくれ。」

直哉が止める間もなく彰人は上りだして実のところまでつくと彰人が
大声でさけんだ。

「直哉、この実ならいけそうだ。頼むぜ。」

直哉は持ってきていたシーツを広げるとそれを受け止めた。

ってなんだよ。これ。ひでえ虫食いじゃん。
見た感じはざくろのような赤い果実は確かに熟して甘い香りをしていたが
小さな虫がうじょうじょたかっていた。

マジでこれ食うつもりなのだろうか?

直哉がこの果実を前に絶句しているといつの間にか降りてきた
彰人が一つつまんで口に入れた。

「ん・・・やっぱうまいな!直哉も食ってみろよ?」

彰人に勧められて直哉はそれを手でさえぎった。

「俺はちょっと・・・いい。」

「アリが食ってるもんは
人間も食えるってことだぜ。ほら大丈夫だから。」

虫が食ってるから食うのやなんだけど・・・とはさすがに
いえず。

仕方なしに一口含むと確かにそれは甘くておいしかった。

「うん。おいしい。」

「だろ?」

うれしそうに笑う彰人に釣られて直哉も笑った。
取り合えず今日の食料はなんとかGETしたといえるんだろうか。


彰人と直哉は歩きながらその実をほおばった。

砂浜に戻る頃には直哉は虫のことなんてどうでもよくなっていた。
 
 


 

 
ちょっと一服
 
むか〜しバリ島に行った時に母が市で買ってきたざくろ?にアリが
わいていて(汗)これが洗っても洗っても出てくるんですよ〜。うじょうじょと。
 
それを母は「美味い〜」といってうまそうに食べておりまして、まさしく
かあちゃんは逞しい!!と思ったわけです(笑)



     
     


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