彰人は直哉を置いて一人機内へ向かった。
しばらくして戻ってきた彰人の表情は曇っていた。
「通信できるものがないか探してみたんだが。」
その手には壊れた携帯と機内で配られた菓子 があった。
日はかなり沈みはじめていて 今夜はもう機内ですごすほかないだろう。
機内に入ると彰人が二人で眠れるぐらいの
スペースを作ってくれていた。
直哉がそこに横になると彰人は突然歌を 歌いだした。
今はただ風にまかせるもいい
君なら歩きだせるさ
泣いた日も 笑った日も くじけた日も
背負ってこの空へ翼ひろげよう
この想い歌にのせてどこまでもいこう
いつか俺たちのパワーにかえてみせるから・・・。
アニメの主題歌になったハーツの曲。
孤独だった主人公が運命に翻弄されながら 仲間に出会い 別れ成長していく物語。
彰人と一緒に口づさむとそのメロディはひどく外れていて 直哉は苦笑した。
「俺歌手なのにさ、ひでえ音痴だ。」
「たしかにひどい声だな。」
「悪かったな。相棒がこんな音痴で。」
「悪くないさ。直哉が音痴なの知ってるのは
俺だけだから・・・」
「それって貶してるんだろ?」
「ばかだな・・・」
直哉の頬に涙が溢れてくる。
「うん。」
知られたくなくても隣にいる彰人には気配だけで バレてしまう。
彰人はそっと直哉の手を握った。 その手は温かかった。
彰人が起き上がる気配を感じ直哉は眠れぬ意識 を開けた。
暗闇の中彰人は手のなかにある何かをじっと見つめていた。
「彰人?」
声をかけると彰人は慌てて手にしていたものを隠すように ポケットに仕舞い込んだ。
「どうかしたのか?」
「なんでもない。起して悪かった。」
なんでもない?そんな感じじゃなかった。今のは絶対何か かくしてる。
「俺には言えない事・・?」
彰人はしばらく突っ立ったまま何か言葉を捜してる ようだった。
「ごめん。俺困らせるような事いって、だから彰人も 座れよ。」
彰人は小さくため息をつくと諦めたようにポケットに
しまった物を取り出し直哉に手渡した。
少し重量があるそれは直哉も愛用してるハーツの 腕時計だった。
「これ・・・」
見えなくても時計が壊れてるのはすぐわかる。
「事故のとき壊れてしまったんだ。
隠すつもりはなかったんだが・・」
「ごめん。」
しらず知らずにこぼれる涙。なんで俺泣いてるんだろ?
彰人が俺に近づいてくる。彰人の長い髪が額に触れて
その至近距離に驚いた時やわらかいものが唇に触れた。
心臓の音がドクンと大きくなる。
「ん・・・」
それは触れるだけですぐに離れた。
「い いきなりな なにすんだよ!!」
「悪い。こんな方法しか思いつかなかった。」
「だからって何でキスなんか・・・」
そう言いかけて直哉は口をつぐんだ。
彰人が一生懸命励まそうとしてくれたのが
わかったからだ。
直哉は照れ隠すように反対側の 方を向いてぼそっとつぶやいた。
「彰人。あのな俺たち絶対帰ろうな。」
背中越しの彰人がああと頷いくのを聞いて
直哉は目を閉じた。
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