地上の星 11 瞬は震える拳にぎゅっと力を入れて耐えた。 が、次の瞬間瞬の大きく見開いた瞳から涙が流れた。 兄は両手で瞬の服を裂いたからだ。 「やあっ」 小さな悲鳴を上げ瞬は恥ずかしさに顔を覆った。 シャツの下は何も来てはいないのだ. 一輝は小さくため息をつくと瞬から腕を解いた。 「怖かったか?」 瞬は何と言って応えていいかわからなくて小さく首を 横に振っただけだった。 震える瞬の体に一輝が毛布をかける。 「もう何もしない。わるかった。」 顔を逸らした兄に瞬はズキンと胸が痛くなるのを感じた。 「・・兄さん?」 「頭を冷やしてくる。」 背を向けて出て行った瞬間火照った体が急に冷えていくような 気がした。 瞬はわからなくなる。自分の感情が、この想いが。 先ほどの兄の行動を思い出すとぎゅっと胸が締め付けられる ように熱く痛くなる。 怖いと思ったはずだった。 なのに先ほどの兄の腕を吐息が押し付けられた 唇、体がフィルムを巻き戻すように何度も瞬の脳裏を駆け抜ける。 怖かったのに嫌じゃなかった? 瞬は衣類を整えると自身も頭を冷やすため外にでた。 暗闇の先、数メートルに兄の気配があった。 痛めた足が少しひきつった。 声を掛けるのを躊躇って無言のまま兄の肩に並べた。 そうすることで兄の考えていることは少しはわかるような気がしたからだ。 「瞬、大丈夫か?」 足の事なのか先ほどの事なのかわからなかったが瞬はこくりと 頷いた。 「あの・・・兄さん・・・その」 「人は強欲だ。好きな者と心を通わせたいと願う。その思いがかなえば 心だけでなく体も自分だけのものにしてしまいたい、閉じ込めてしまいたいと思う。」 ・・・自分だけのもの・・・・閉じ込めてしまいたい。 胸を苦しくする言葉だった。 兄さんが僕にそう感じているというのだろうか? そして先ほどの兄の行動がその一連のものだとすれば瞬は構わない とさえ思った。 そう思った瞬間高鳴る胸がますます痛くなっていくような気がした。 「わかる気がします。嫉妬したりヤキモチ焼いたり。 そんな感情も・・・だからだって 僕も兄さんが好きだから。」 「瞬、数年たってお前が大人になって・・・まだ同じ気持ちならここに戻って来い。 それまで待っててやる。」 この想いが変わるはずなんてない。瞬はそうはっきりと言える。 でも・・・。 「僕が大人になるまで?そんなに?」 一輝は僅かに微笑んだ。 「そんなに遠い未来じゃないさ。」 兄に言われたら確かに瞬はそんなような気がした。 「うん、」 一輝は高く空を見上げた。 木々の隙間から一際瞬く星があった。 明けの明星。金星、まもなく日が上る時間なのだ。 そしてその星から静寂な夜空に異様な小宇宙が流れてい ることを2人は瞬時に悟った。 恐れていたことが起こってしまうのだ。 「始まるのですね。」 「ああ。」 「僕はすぐ沙織さんの元に戻ります。兄さんは?」 その瞬間一輝は甘えんぼで泣き虫だった瞬が聖闘士へとかわった気がした。 「デスクィーン島に眠っている聖衣を取りに行く。」 「そうですか。」 お互い次に会うのは戦場になるのだろう。 「兄さん、」 瞬は背伸びして兄の唇にそれを合わせた。 痛めた足が少し痛む。だがその痛み以上に触れ合った唇から こぼれだす想いの方がずっと胸を締め付けた。 微かに兄の顔がぼやける。 「瞬」 想いを振り払うように瞬は微笑んだ。 「兄さん、僕先にいくね。・・・・必ず戻ってくるから。 兄さんのいるところが僕の帰る場所だから。」 瞬は踵を返すとゆっくりと歩きはじめた。 不思議な事に足の痛みはもう感じなかった。 瞬がむかう東の空はもうすっかり白んでいた。 END あとがき 今読んでくださって皆様にも感謝です。 中途半端な終わり方をしちまって消化不良気味だったりするので、番外編を書いて 挽回しようと思ってます。 それがいつになるかはわからないのですが・・・(苦笑;)
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