地上の星 9 兄が去ったあとまた暗闇だけが支配する世界へと戻る。 轟音をあげる水の音は近く、濡れた体は冷えきりガチガチと 体をふるわせた。 『すぐに兄さんが来てくれる。』 瞬は自分を奮い立たせるよう小宇宙を発光させた。 ぼわっと浮かび上がった光の先に兄がいた。 「兄さん。」 先ほどと違い兄は服を着ていた。 「すまない。待ったか。」 「・・・。」 瞬は兄の声で不覚にも泣き出してしまいそうになってそれに耐えるように 顔をぶんぶんと振った。けれど兄はそれを勘違いしたようだった。 「どうした?足が痛むのか?」 「あ、ううん。平気だよ、」 乾いた笑みを浮かべた瞬に一輝はしゃがみこむと 暗闇でも瞬の視線に合わせた。そして瞬のいためた足に触れた。 瞬はそれだけで体温が少し上昇したような気がした。血圧だって あがっただろう。 「体が冷え切っている。それに怪我した足も腫れてる。」 「こんなの・・・」 『平気だって』と言おうとした瞬はそれをやめた。強がってみてもこの兄にはわかってしまうのだろう。 そしてそんな自分が本当に子供のような気がしたからだ。 「瞬、服を脱げ。」 「えっ、で・・も・・・」 「濡れた服をこのまま着ていても体温を失うだけだ。」 兄のいうとおりだった。体温を奪われた体は手足の感覚も感じないほどに 冷え切っていたしこのままでは・・・・。 『ここに来て小屋では普通に着替えだってしてるし。外で兄さんと一緒に水浴びした時だってあったじゃないか。』 瞬は自分に言い聞かせると寒さだけじゃない震えを感じながら服に 手をかけイッキに服を脱いだ。 シャツ、ズボン、下着に至るまですべてだ。 一輝は比較的濡れていなかった瞬のTシャツ(といっても元は一輝 のものだが)を絞り瞬の震える体を丁寧に拭いた。 瞬は恥ずかしさにどうにかなってしまいそうだと思ったけれど 今はそれ以上に寒さが四肢を支配していた。 一輝は自分が着ていたシャツを脱ぐと瞬の頭に通した。 「これを着てろ。」 「うん。」 温かい兄の体温が瞬の体を纏う。それもすぐ寒さへと かわっていったが。 「ほら、背負ってやる。」 「うん。」 兄の背はとても温かかった。 歩き出した兄に瞬はポツリポツリと話しだした。 「兄さん、ごめんなさい。」 搾り出すように瞬が言うと一輝は小さくため息をついた。 「気にするな。」 「うん、・・・。子供の頃もこんな事あったよね。」 「ああ、そうだな、」 一輝も思い出したのか苦笑してるようだった。 まだ二人がグラード財団にいた頃のこと、いじめられっこに 追いかけられた瞬はおもいっきり足をくじいてしまったのだ。 その後一輝が来ていじめっこたちは退散していったが 瞬は泣き止まなくて・・・。 「僕はあの頃からちっとも成長していない。」 自笑ぎみに言った瞬に一輝は「そんなことはない。」 とはっきり言った。 「アンドロメダ島から帰ってきたとき、俺はお前を見違えた。 それに・・・数々の聖戦でもだ。 お前は自分が思っているよりはるかに強い。自信を持て。」 「兄さん・・・。」 瞬は溢れてきた涙を止めることができなかった。 「兄さん、兄さん、今だけ許してください。」 えぐえぐ背中で泣きじゃくる瞬を一輝はただその小宇宙で 覆った。 今のフタリに言葉はいらなかった。 10話へ
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