地上の星  7






と一輝がフタリで暮らし始めて10日はたとうとしていた。
その日は朝から激しい雨が降っていた。

「今日は食料をとりに行くのは無理だな。」

「うん。」

窓には激しい風と雨が叩きつけていた。
小屋の屋根から雨漏りが滴りはじめ、瞬は慌てて
天井にかけてあった服や食糧を避難させバケツとオケを並べた。

「兄さん、よくこんな所で一人で暮らしてたね。」

「そう思うなら下山してもいいんだぞ。」

「しないよ。」

瞬は口を尖らせた。

ざざざざっと風の音が迫ってくる。
小屋の外の音のはずなのに、肌で感じるほど激しくたたきつけた。

「兄さん、」

心細くなって瞬は兄を見た。

「どうした?」

その時、天と地が裂けるような轟きと閃光が走った。

「兄さん!!」


瞬はあまりに驚いて近くにあったベッドにしがみついた。
小屋はまだ地響いてぐらぐらゆれている。

「雷が落ちたな。」

一輝は特に慌てもせず窓から外を覗いた。

「大丈夫なの?」

「ああ、小屋から30メートル程の木に落ちた。
だがこの雨だ。すぐ鎮火するだろう。」

そういってる間にもまた空が光り瞬は身をこわばらせた。
即だった。
瞬は震える体を抑えることができなかった。

一輝はそんな瞬の隣に腰掛けた。

「兄さん?」

「怖いのか、」

「うん僕聖闘士なのに雷が怖いなんて。」

「聖闘士は関係ないだろう。自然の力は何者にも勝る。
それに侮ることもできない。」

「じゃあ兄さんも怖いの?」

「さあどうだろうな。」

その時また空が輝いて瞬は兄の手を咄嗟に握っていた。

「大丈夫だ。瞬、」

「うん、」

兄さんに言われると本当に大丈夫な気がするから不思議だと思う。
握った手が握り返される。

「兄さん、雷が通り過ぎるまで、こうしていていい?」

「ああ、」


瞬は一輝に頭を預けた。もちろん手を握ったまま。
心臓の音がドクンと大きくなる。
なぜだろう。
そうするだけで兄に少し近づけた気がする。
さっきまで怖かったのに今は怖くない。

寧ろずっと雷が雨がこのまま通りすぎなければいいのにと思い瞬は目を
閉じた。







その日激しい雷雨が去った後も一晩中雨がやむことはなかった。

その日の夜更け、瞬は扉の閉まる音で目覚めた。
ほとんど1日中小屋で過ごしたこともあって眠りが浅かったのだ。

「兄さん?」

今まで傍にあった兄の気配はない。
こんな雨の中、夜更けにどこへ?
雨漏りのバケツの水を捨てに行った?それともトイレだろうか?
昼間ほどの激しい雨脚ではなかったが今も雨は降り続いていた。



雨脚がまたひどくなった気がして瞬は募る心細さに膝を抱えた。
どれくらいだったろう。
しばらくじっと暗闇の中兄が戻ってくるのを待ったが一向に帰ってくる気配はない。


そうすると子供の頃の事を思い出した。
瞬がアンドロメダ島に発つ前の日の事だ。

あの日もこんな風に時折強い雨が降っていた。
すぐに戻ってくると言ったのに兄さんは
部屋に戻ってこなかった。
兄さんが僕との約束を違えたことなどなかったというのに。
明日にはもう兄さんもいない言葉も通じない島へと向かう。
そしてその島で聖闘士になるために戦い続けなければいけなかった。

だが瞬はあの時それがどういうことなのかまだよくわかって
はいなかった。


『大変だ。瞬、一輝が・・。』

部屋に駆け込んできた人の事を瞬は覚えていない。
ただ連れて行かれた部屋で傷だらけの兄が横たわっていた。

『兄さん!!』

兄さんはいつも僕を庇って傷だらけだったけどこんな全身に
ひどい傷をみたのは瞬は初めてだった。


『瞬、』

ボロボロになっても兄さんは微笑んでいた。
今思うと心配させないためだったんだって思う。
兄さんは僕に手をさし伸ばしてきて瞬はは一輝の手を両手でぎゅっと握った。

『瞬、これはお前がもっていろ。』

渡されたのは前に兄さんが母さんの形見だといっていたペンダントだった。

『でもこれは大事なものだって。』

『だからこそお前が持っていろ。お前を守ってくれる。』

この時になって僕は本当に兄さんとはなれて暮らすということが
どういうことなのかわかった気がした。

『せめて兄さんの怪我は治るまでここにいてもいい。」

傍にいた城戸邸のお抱え医師がためらいなく首を横に振った。

『ダメです。』

『そんな・・・。だって僕にいさんが心配だよ、この傷大丈夫なの?
すぐ治る?
またすぐ会えるよね?一緒に暮らせるよね?』

矢継ぎばやに聞く瞬に一輝は苦笑した。

『当たり前だろ。戻ってきたらずっと一緒だ。そしたらまた一緒に寝てやろうな。』

ボロボロと涙が零れ落ちる。

兄さんはそんな僕をなだめるように頭をなででくれた。
僕は兄さんから受け取ったペンダントをぎゅっと握り締めた。

ペンダントは本当はお母さんの形見ではなくハーデスの魂と僕の
肉体を繋ぐためのものだったけど。
それでもあの時兄さんと僕を繋げていたような気がしていた。




瞬は色々な想いが溢れてきてその想いを口にした。
「兄さんが好きです。」

溢れでた言葉とともに想いが洪水のように流れ出す。

その感情はただの兄弟というものではないと瞬は気づいてしまった。
そして兄の心にあるあの人の事を自分は知っている。
冥界であったあの人の事を。





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あとがき

兄弟としての想いでなく瞬は恋に目覚めてます。←まあ最初からなんですが(笑)
でもこの2人は正真正銘兄弟みたいなんでその辺は曖昧な表現を選んでしまいます(苦笑)




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