地上の星 序章 温かな空間にふわりと浮かぶように一輝は優しい 小宇宙に包まれていた。 この小宇宙は一輝がよく知っているものだった。 『兄さん、兄さん、』 瞬の声・・・? ゆっくりと一輝の意識が浮上していくように覚醒する。 一輝は「そうか、」と納得した。 これは瞬の小宇宙だ。 一輝の手にそっと重ねられた手から流れ込んでくる 瞬の小宇宙。 「兄さん、お願い、僕を置いてかないで、」 瞬の腕の力が強くなる。 一輝はあの日(デスクイーン島に旅立つ前夜)のことを 思い出していた。あの時もこうやって瞬は一輝に小宇宙を 注いでくれた。あの頃はそれにどういう意味があるのだか 2人にはわからなかったが。 瞬の涙が小宇宙とともに一輝の頬にぽたりと伝わり落ちた。 一輝は意識を覚醒させていたが、そのまま気を失っているふりを 続けなければならなかった。 「にいさん、」 瞬の顔が息が近づいてくる。 瞬の目的がわかっても一輝は自分が覚醒していることを感ずかれ ないように身じろぎひとつしなかった。 重なった唇から瞬の小宇宙が握られた手より遥かに強く 一輝の中に流れ込んでくる。 「兄さん・・ぼくずっと兄さんの事・・・。」 つぶやくようにそう言った瞬は耐えられなくなったのだろう 部屋を飛び出していった。 一輝はゆっくりと目をあけると今もその唇に残る感触を 確かめるように唇をなぞった。 『瞬、・・・・。』 ゆっくりと起き上がると眩暈がした。 周りをみるまでもなくここは城戸邸内だということはわかった。 あの聖戦のあと、傷ついた自分をここで瞬が介抱してくれたのだろう。 微かに瞬だけでなく沙織や星矢の小宇宙も残留していた。 『ここを早く発たねばならない。』 急に立ち上がると血が大量に流れた時のようにぐらっとした。 だが目が覚めてしまった以上長居をするわけにはいかなかった。 よろよろと窓の所まで行くと大きく窓を開放した。 風が窓から入り込み一輝は大きく息を吸い込んだその時だった。 「にいさん、」 虫の報せでも感じたのだろう。戻ってきた瞬は僅かに息を きらしていた。 本来なら部屋に近づいた瞬の気配や足音で気づくはずなのだが、 一輝はそれほどまでに体力を失っていたのだろう。 一輝は、呼び止められても立ち止まることなく2階の窓から飛び降りた。 瞬があわてて一輝の後を追う。 今なら、手負いの兄ならば自分でも追えるはずだった。 瞬は窓から見渡せる範囲邸内をぐるりと見下ろしたが すでにそこに兄の姿はなかった。 瞬は後を追って飛び降りようと乗り出して、それを直前でやめた。 一輝といえどこれほどすぐにここから抜け出せるとは 到底思えなかった。 まだ兄さんはこの邸のなかにいる? だとしたら?! 瞬は邸の真っ赤な屋根を見上げた。 『兄さん』 軽い身のこなしで窓づたいを掛け上りながら、瞬は思う。 本当はそのまま兄さんを行かせてあげたほうがいいんじゃないかと。 でもきっと僕は後で後悔してしまう。 そんな自分を・・・兄さんを。 屋上に上り詰めるとまるで瞬を待っていたように 一輝がそこに佇んでいた。 風が方々に駆け抜けていく。 対峙するように兄と弟は瞳を逸らさなかった。 その距離のまま瞬は言った。 「兄さん、体が本調子になるまででもここにいてください。」 一輝は何も言わなかった。 返事は聞くまでもなかったのだと瞬は悟った。 それでも言わずにいられなかった。 「兄さん!!どうしても行くというなら僕を連れていって下さい。」 「駄目だ。」 「どうして?」 瞬は一輝と距離をつめた。 一歩、一歩、確実に少しずつ そのまま兄さんがどこか飛んでいってしまうのではないかと 思うと瞬はまばたきひとつすることは出来なかった。 胸が張り裂けそうなほど痛くなる。 大好きな兄さんの顔が瞳からあふれ出る涙でぼやけてしまう。 「兄さん、」 「瞬、」 想いがいっぱいになって瞬は大きな兄の胸に嗚咽しながら飛びついた。 大きな胸と腕が瞬を受け止める。 「瞬、」 一輝は困ったように瞬の頭をぽんぽんと叩いた。 「オレは群れるのは苦手だ。お前も知ってるだろ?」 「知ってるよ。でも、」 本当はそんなのはただの言い訳だって言いたかった。 けれど言えなかった。 瞬の涙が枯れるまで一輝はぽんぽんと瞬の背を撫でた。 「兄さん、デスクイーン島に発つ前僕と約束したこと覚えてる?」 一輝は何も言わなかった。 それは覚えているということだと瞬は思った。 「帰ってきたらずっと・・・。」 それ以上は言わせてもらえなかった。 「瞬、」 兄さんの腕の力がぐっとつよくなる。 「えっ?」 一輝の顔がちかづいてくる。 瞬は突然の事に驚いて目を閉じることさえ出来なかった。 重なった唇と唇。温かな感触に瞬の胸は震えた。 瞬は事実をさとってゆっくりと涙に濡れた瞳を閉じた。 それはホンの一瞬のことで 一輝の気配が小宇宙が希薄になる。 「兄さん!!、」 瞬が目を開けた時には一輝はもうその場にはいなかった。 ただその場を強い風が吹き寄せているだけだ。 一人になったのだとわかった途端 瞬は力が抜けたようにその場に座り込んだ。 「兄さん・・。」 瞬は幻でも見ていたようなそんな気分だった。 ひょっとしたら兄さんの鳳凰幻魔拳 を自分は受けてい たのかもしれない。 それでも・・・ 瞬は微かに兄の小宇宙が残る自身の唇に触れた。 あれが幻だったなんて思いたくはなかった。 『兄さんは僕の気持ちを知ってるのだと思う。そして兄さんも・・。』 瞬は風が通り抜けていく東南の方を見上げた。なんとなく一輝はこの風に のって行ってしまったような気がしたから。 『兄さん、今度あった時は僕の気持ちを伝えるから』 その想いを風にのせるように瞬はそう言って 通りすぎていく風をいつまでも見つめていた。 2話へ 原点回帰とでもいいませうか。 初めて書いた二次小説が聖闘士星矢でした。高校生の頃ですね。 その頃からボーイズラブには目覚めていましたよ(笑) あの頃は落書き程度で 文章もひどかったししストーリーも支離滅裂だったです〜。 今もそう変わっちゃいません、はっきりいって(苦) このお話は当初短編のつもりで書き始めましたが気が変わって長編になってます。 強引に長編にしたこともあって繋がり悪いところもありますが了承ください〜。
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