地上の星 2 一輝が城戸邸から立ちさってから1週間、瞬は明らかに様子がおかしかった。
上の空でぼんやりしているかと思うと、突然体を鍛えだしたり 普段以上に明るく振舞ったり、それが一生懸命であればあるほど 空回っていくようだった。 今だってそうだ。 リビングで一人ぼんやりとTVを見ていた瞬は 沙織とともに帰宅した紫龍と星矢が部屋に入室したことにも 気づいていない。 星矢が瞬に声を掛けたのに全くだ。 そして3人が部屋にいることに気づいて慌てて取り繕った。 「あの、このTVすごく面白いよね。」 そう言って瞬は微笑んだが心はここにはあらずだって事は誰にだって 見て取れる。 星矢も紫龍は顔を見合わせ心中でため息をついたがそれを表には出さなかった。 その後 稽古してくると言ってリビングを飛び出して行ってしまった瞬に沙織は 小さなため息をついた。 「沙織さん、瞬のやつ・・。」 瞬の様子が可笑しいことなどとっくに気づいていた沙織はこくり と頷いた。紫龍も相槌を打つ。 「一輝が出て行ったことが相当堪えているんだ。」 「一輝も一輝だよな。オレたちに一言も言わないなんて、」 星矢はソファにもたれるとふっと短くため息を漏らした。 「そういったことに一輝は慣れてはいないのです。 ことに瞬のようにまっすぐに向かってくると、どうしてよいか わからないのでしょう。」 「一輝は瞬の実の兄なのにか?」 「だからなのです。」 沙織はテラスへ向かうと邸の広大な花壇でぼんやりと立ち尽くしている 瞬を見下ろした。 「でもこのままではいけませんね。」 沙織が自室に瞬を呼び出したのはそれからまもなくの事だった。 瞬が呼び出された部屋には先に星矢と紫龍がいた。 「沙織さん、お呼びですか?」 「ええっ、」 瞬は先に部屋にいた星矢と紫龍をチラっと目を合わせると表情を変えた。 「ひょっとしてまた何か・・。」 はっきりとはいわなかったが瞬はまた聖戦が始まる兆候でもあったのでは ないかと思ったようだった。 「瞬、そうではないのです。」 沙織は微笑んで瞬をみた。 「実は明日、ジュリアン・ソロ がこの日本に来ることになりました。」 「ジュリアン・ソロ氏が・・。」 もちろん3人には寝耳に水の話だった。 ジュリアンはポセイドンの依代として選ばれた海商王だ。 一度は拳を交え戦ったこともある人だが、エリシオンでの聖戦では 助けてくれた恩人でもある。その人が明日来日するというのだ。 「ジュリアン・ソロ
は滞在中日本の要人たちと会談するそうです。
それで私に同席できないかと言ってきました。」 そこまで沙織が言って星矢は渋い顔をした。 「まさか性懲りもなくまた沙織さんに!!」 ジュリアン・ソロ は以前沙織にプロポーズしたことがあるのだ。 そのことは星矢はもちろん紫龍も瞬も承知の事だ。 沙織はそれに笑った。 「それはないでしょう。ですが彼の事業の協力は求められる でしょうね。」 紫龍は神妙な面持ちで言った。 「ジュリアン・ソロ は現在世界を回って事業を拡大しその 利益を施設や学校を設立することに費やしていると噂に聞いています。」 「そうです。 彼は今世界中の子供たち誰もが平等に学べる環境を作ろうと 奮闘しています。私も彼のその思いには賛同です。 もし寄付を求められれば惜しみませんし。 各方面にも便宜をはかるようにもお願いしてみようと思っています。」 沙織は一端そこまで言って瞬を見た。 「それでなのですが、明日彼の来日パーティに私も出席することになりました。 そのパーティに瞬に同伴してもらいたいのです。」 「ええ?僕が・・。」 瞬が驚いたのは言うまでもなかった。 「あの・・・でも、僕は場違いです。 そういった所には慣れていないし、マナーも知らないし。 僕よりも星矢や紫龍の方が適任だと・・・。」 瞬に振られた紫龍と星矢は慌てて首を横に振った。 「星矢は明日施設の手伝いがあるし、紫龍も明後日には中国に帰国する のだそうです。」 「でも・・・。」 「瞬、ただ私に同伴するだけではないのですよ。貴方には私の警護をお願い しているのです。」 沙織は城戸家のお嬢さまとしてではなく「アテナ」として命じて いるのだと瞬に諭したのだ。 アテナに命じられれば聖闘士は従うしかない。 「わかりました。」 瞬がしぶしぶ了承したことは見て取れたが沙織は微笑んだ。 「明日はジュリアン・ソロ と瞬、私が一堂に会する・・と言うことです。 それはこの世界でも大きな意味があることでしょう。」 沙織が言いたいのは、一時期とはいえポセイドンの依代だったジュリアン・ソロ、 ハーデスの依代に選ばれた瞬、そしてアテナが一堂に会うということだ。 「そういえば瞬、あなたはスーツを持っていませんね?」 瞬は頷いた。瞬が持っている服と言えば身動きしやすいシャツとズボン 数枚程度だ。 「今すぐ仕立てに来てもらいます。 早急に作りましょう。 それから星矢、紫龍、貴方たちもです。」 「オレたちもって?」 星矢と紫龍が顔を見合わせる。 「スーツの事です。あなた方も公の場に出ることがあるでしょうから瞬と一緒に 仕立ててもらいなさい。」 「ええ、えええ?」 たじたじと後ずさりした星矢に沙織はふふっと微笑んだ。 そうなるともう星矢も紫龍も観念するしかなかった。 3話へ 短編だった「地上の星」を序章にして続きを書き始めました 沙織お譲、楽しんでます(笑)書いている私も楽しんでいます(苦笑)
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