恋する少年 6 「ヴォルフラム、よく逃げ出さすにここにきたものよ。」 ヴォルフラムは突然の有利の変貌にうろたえた。 有利の気配そのものが全く変わったことを肌で(全身の魔力で)感じたからだ。 「僕の気持ちに偽りはない。それに僕は約束を果たしにきたまでだ。 誰かさんみたいにすぐ忘れたりしない。」 「男に二言はない?なかなかよい心がけよな。」 そういうと有利はヴォルフラム腕を掴み抱き寄せた。 「ユーリ!!」 これ以上ないほどに近づいたユーリの顔と抱き合った体に ヴォルフラムは憤死しそうなほど体が熱くなった。 有利はそのまま強引にヴォルフラムを床へと押し付けたので ヴォルフラムは恥ずかしさをこらえて有利に訴えた。 「ユーリ、頼む、せめてベッドにいかないか。」 「聞けぬな。」 有利はそういうとヴォルフラムの体をすさまじいほどの魔力で押さえ込んだ。 ヴォルフラムは身動く一つ出来ないほど有利の魔力に押さえ込まれ何をされるか わからない恐怖に体が小刻みに震えるのを止めることができなかった。 そんなヴォルフラムの体をじっと有利が眺めていた。 ヴォルフラムはこれ以上ない羞恥を感じ必死に体をバタつかようとしたが ほんの少し指が動いた程度だった。 「嫌だ、ユーリやめろ!!こんなのはフェアじゃない!!」 有利の顔が近づいてきてヴォルフラムは思いっきり拳を有利の 顔目掛けて打った。 それはヴォルフラムの予想に反し思いっきり、有利の顔をヒットした。 「うっ!!」 有利はヴォルフラムから腕を放すとそのまま後ろによろめいた。 「有利!?」 「もうよい。」 冷たく言い放った有利にヴォルフラムは背に冷たい汗が流れるのを感じた。 急に有利に見放されたような気がしてヴォルフラムは有利にすがるように抱きついた。 「頼む。有利もう1度チャンスをくれ!!」 有利はその手を払いのけることはしなかった。 ヴォルフラムの腕を掴むとぎゅっとその背を抱きしめたのだ。 「ユーリ?」 互いの早い鼓動がドクドクとなっていた。 「無理はよせ。」 「無理などしていない。」 「ではなぜ震えておる?」 「それは、・・・。」 がちがちになった指をユーリが今度はやさしく覆った。 こんな余裕のない自分をユーリに知られてしまうのは屈辱いがいの 何者でもなく、ヴォルフラムは唇をぎゅっとかみ締めた。 「そなたの想いを偽りだとは思ってはおらぬ。」 「だったらなぜ僕を試すようなことをする?」 「そなた自身がよを信用せぬからだ。」 ヴォルフラムはそういったユーリをみた。 それは遠からず当たっているような気がしたのだ。 でもそれは仕方がないことではないか!! 本人は自覚がないかもしれないが、ギュンターだけでなく、ウェラー卿も あの兄上でさえ有利に好意を抱いてるのだ。 しかもユーリは八方美人でところ構わず誰にだって自身の愛情を 注いでしまう。 そんなユーリをどう信用しろと? 有利には自分だけに笑いかけてほしい。怒ってほしい。 有利を閉じ込めて自分だけのものにしてしまいたい・・・。 「ヴォルフラム、よはそなたを愛しておる。」 ヴォルフラムの心の中をまるで知っているように穏やかにユーリはそういった。 「有利!?」 「だがその愛はそなただけにむけたものではない。」 有利に言われるまでもなくヴォルフラムはわかっていた。 「お前の言う愛はすべての人やものに注ぐものなのだろう。」 誰よりもユーリとずっと一緒にいたヴォルフラムだからわかる。 ユーリの愛情とはそういうものなのだ。 「それでは納得いかぬか?」 問われてヴォルフラムは「嫌だ」ということは出来なかった。 あれほど他の誰かに愛情を注ぐユーリをみるのは耐え難いというのに。 けれどそんなユーリだから好きになってしまったのだとヴォルフラムは 思うから・・・。 「・・・それでも・・い。お前が・・・僕を愛してくれるというなら。」 やっとの思いで答えたヴォルフラムをユーリはやさしく抱きかかえると寝室に むかった。 「おい、ユーリ一人で歩けるからおろせ、」 「騒ぐな。」 ヴォルフラムは茹蛸のようになりながら顔をユーリの胸に押し当てユーリの首 に腕にしがみついた 下ろされたベッドに有利も入ってきてヴォルフラムはなぜか気持ちが 静かになっていくのを感じた。 まだ、ここにいることを許されてるのだ。 「今日はもう休め。」 急に睡魔と安堵感に包まれてヴォルフラムはこれもまた有利の力なのだろうかと 思った。 夢と現実との境で明日になればまた元の有利にもどっているのだろうことを 思ってヴォルフラムはくすりと笑った。 明日の朝、有利が目を覚ましたら思い切りからかってやろう。 それぐらいは許されるだろう、と。 最終話へ 次回は最終話。コンラッドの悩みといったところかな。 |