恋する少年
       
  
         



コンラッドにあらかたのわけを聞いたユーリは途方にくれ
しばし考え込んでいたが突然のひらめきにパチンと両手を
打つと、そのまま一目散に魔王の湯殿へと走り出した。

その後をコンラッドがすぐ追いかけていく。

「ユーリどこへ行くのです?」

「決まってるだろ。実家に帰らせてもらう。」

「実家?」

「地球、オレの祖国。日本の東京!!」

コンラッドはユーリの後を追いながら有利に進言した。

「ユーリ、それでは解決しないでしょう。
その場しのぎの策ではあのヴォルフラムが引きさがらないでしょうし。」

ようやく足を止めたユーリが声を荒げた。

「だったら、どうしろって言うんだよ?大体オレは15やそこらで
しかも男と結婚なんてする気はねえっての。
だいたいもう一人のオレもなんでそんなこと勝手に言うかな。
オレのことなのに。」

もう終わりだ〜と今にも泣き出しそうなユーリをなだめるようにコンラッドは
ユーリの肩を叩いた。


「そんなに落ち込まないで。私も何か策を考えますから。
それにユーリとヴォルフラムの結婚をあまりよくは思ってない者もおりますし。」

「そうなの?誰?」

「ギュンターです。」

有利はその名を聞いて苦笑いした。

「ギュンターね。」

「ユーリがヴォルフラムの婚儀を受け入れた後からすっかり落ち込んで
自身の世界に閉じこもり、あの場から連れ帰るのも一苦労だった
とアニシアが申してましたよ。」

有利はその様子が手に取るように想像出来てもう1度苦笑いした。

「陛下にひそかに好意を持っていた兵たちもひどく落ち込んでおりましたし。」

有利は盛大なため息をつくと悪態をついた。

「まったく眞魔国ってヘンな国だよな。オレ生まれてからモテナイ歴
15年なんだぜ。なのに
なんでこう男にばっかモテるんだろ。どうせならかわいい女の子
ならよかったのに。」

「陛下はこの国では美少年ですからね。」

ニコニコと美少年といったコンラッドに有利はげんなりした。

「美少年ってね。
それで、コンラッドはどう思ってるの?
オレとヴォルフラムの・・その婚儀ってやつのこと。」

「もちろん、ユーリが望まないのなら婚儀の中止に協力しますよ。」

ユーリはそれを聞いて少しだけ前向きな気持ちになった。
コンラッドはいつでもどんな時だってユーリの味方だ。

「ありがとう、コンラッド。オレやっぱりちゃんとヴォルフラムと
話しあってくる。じゃねえと、またヴォルフラムに『へなちょこっ!』て怒鳴られ
そうだし。もう一人のオレがやったことかもしれねえけど、けじめちゃんとつけねえとな。」

「そうがいいでしょう。私は家臣たちに婚儀は取りやめを伝えにいきます。」

それを聞いて有利は険しい顔をした。

「なあ、コンラッド。ひょっとしてさ、城下にも伝わってるとか?」

「そりゃもちろん。」

涼しい顔をしてコンラッドがそういったので有利の決心は早くも
崩れ落ちそうだった。そんな有利にコンラッドが噴出した。

「冗談ですよ。ひょっとするとユーリの目が覚めたとき、こうなるのでは
ないかと思い、『陛下の婚儀のことは城外には洩らさぬように!!』ときつく伝えて
おきました。」

それを聞いた有利がほっとしたように肩をおろした。

「もう、からかうなよ。けど、コンラッドサンキュな。オレちゃんと
話しつけてくっからさ。コンラッドの方も頼むな。」

「わかりました。それでもヴォルフラムがどうしても
聞き入れない時は私もそちらへ行きますから。ユーリもあまり無理はしないように。」

「わかった。コンラッドはヴォルフラムのお兄ちゃんだもんな。」

お兄ちゃんと言われてコンラッドは苦笑した。
自分は兄だと思っていても少なくともヴォルフラムはそうは思っていない。
それを知っていてもユーリは兄弟だというのだ。

砂熊の一件の時もそうだった。弟のヴォルフラムを助けに
いけと命令したのだ。
それがユーリなりのやさしさなのだ言うことはコンラッドにも
わかっているのだがユーリが思う以上にヴォルフラムとの溝は深い。

コンラッドは小さくため息をつくとユーリを急かした。

「急ぎましょう。こういうことは少しでも早いほうがいい。」

「そうだな。膳は急げっていうもんな。」

コンラッドは「それは少し違う意味では?」とユーリに進言するのをやめた。
ユーリの気持ちを折ってしまいそうだったからだ。


それにギュンターや兵士よりも、コンラッド自身が一番今回の一件で心を乱したのだ。

もちろんそんな様子をコンラッドは誰にも見せてはいない。
けして誰にも言えぬ秘めた想いなのだ。






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