終局は物語のはじまり








     
進藤の部屋は僕の部屋とは全く違うようでいて基本的な所は同じだと思う。

碁盤も専門書の種類も僕が持ってるものと差はない。

彼が同じ碁打ちなのだから当たり前といえば当たり前なのだが、
僕は彼の匂いがするこの部屋がどこか落ち着いた。

部屋を一通り見回すと二人は自然と碁盤を挟んで向かい合っていた。





対局に勝ったのは進藤で、だのに、進藤はため息を着きながらベットの上に座った。




「ここでお前に勝ってもなァ〜意味ねえよな。」

「そんなことはないと思うけど?」

「公式手合いで俺一度もお前を負かしたことない。今日だって俺若獅子
戦お前に勝つ気でいたんだぜ。何で負けちまったのかな。」



近い将来彼なら僕を公式戦で打ち負かす日がくるだろう。
そう思ったがそれはあえて口には出さなかった。

悔しかったしなによりそんな言葉は今の彼には慰めにもならないだろう。

進藤はベットに横になるとポツリとつぶやいた。



「北斗杯お前だったら高永夏(ヨンハ)にだって勝てたかもな。」

彼らしくもない弱気な言葉とヨンハと比べられた事に憤慨して僕は怒鳴っ
ていた。



「ああ、僕なら負けなかった。」

「そうだよ。お前だったら負けなかった。そして俺だって、絶対来年
は負けねえ。そしてお前にだって・・・お前だっていつか追い越してやるんだ
から・・・。」



僕は進藤の顔をベットの上から覗き込んだ。

大きく見開いた進藤の瞳にその強い眼差しに今日僕に負けた事が本当に
悔しかったのだという事を悟った。


自分をひたすら追ってくる彼がたまらなくいとおしいと思う。


今まで気づかなかったがそれが進藤が僕を想っているという
何よりの確信だったのかもしれない。




僕はベットに腰掛け彼に覆いかぶさると そっと彼の唇にキスを落とした。
唇が離れて 至近距離で彼の瞳とぶつかる。



無言のうちの攻防が二人の間にながれて先に口をついたのは進藤の方だった。

「とうや・・・」

耳元でささやかれた声に僕の中にあった何かが崩れ落ちた。



僕は進藤の肩を掴かむと彼の唇に僕のそれを押し付けた。
今まで隠してきた想いが雪崩のように押し寄せてくる。


舌を這わし体をすりあわせて、体全部で彼を感じようと進藤に体を密着させた。





彼を自分のものにしてしまいたい・・・・


感情に任せて彼を掻き抱いてしまいたい。



合わせていた唇を離し首筋に這わせたとき、進藤の体が
びくっと震えて彼の腕が僕を引き離そうともがいた。



「だめだ・・・」


僕は、はっとして覆いかぶさっていた進藤の体から起き上がった。



「塔矢、これ以上はだめだ。」


だが、乱れた服も進藤の拒否の言葉も甘い。
僕はもう一度体を這わせようとすると進藤が頭を大きく横に振った。


「進藤どうして・・・・」

僕は焦りすぎたのだろうか。

「わかんねえ。でも今はまだ、これ以上は俺には・・・・」


進藤の気持ちがわからないわけじゃない。
このどす黒い自分の感情をなんというのかぐらい知っている。

そしてどうすればその欲望を叶えられるのか本能は知っている。

だが、行き着く場所を僕たちは知らない。

このまま突き進んでいったいどうなってしまうのかわからないのは
進藤だけでなく僕も同じだ。

それでもを抱きしめたい。彼が欲しいと思う。


僕は湧き上がる欲情をこらえて彼の耳元につぶやいた。



「進藤もう何もしない。だから君の傍にいるのはせめて許して欲しい。」



小さく頷いた進藤に僕は頬を寄せそっと抱きしめた。
それから間もなくして進藤の寝息が僕の腕から漏れると
僕は耐え切れなくなって部屋を出ていた。







 








「進藤・・・・・」

塔矢の呼びかけに俺は俯いていた顔を上げた。
そこには一糸纏わぬ塔矢がいて・・・・俺自身何も身に着けてなくて
恥ずかしさに視線をさまよわせたら背に手を回されて強く抱きし
められていた。

その瞬間塔矢の暖かさが身を纏う。



塔矢の腕は心地よくって直接触れる肌からは全身に電流を流したような
刺激が訪れ俺はこのまま塔矢に身を任せてしまいたい衝動に駆られた。


塔矢の熱い熱い吐息が耳元に吹き込まれた途端俺の下半身が
するどい刺激に耐えられなくなって・・・・・・・






激しい快感と衝撃で俺は目を覚ました。





口元に両手を押さえて俺はそっと隣で寝ている塔矢に目線をやった。

今しがた自分が見た夢と自分が起こした生理現象に
いいしれぬ罪悪感をかんじながら俺は塔矢に心の中で謝った。






こんな事塔矢にしられちゃったら俺への恋も冷めちゃうよな。

俺はそう思うと悲痛な気持ちになって、とにかく気づかれぬよう
そっと部屋を抜け出すと風呂場に向かった。


服を脱いで汚した下着を手に風呂場の戸を開けた途端塔矢の服が
目に入った。


そうだ。昨日乾燥掛けたまま忘れてたんだ。

その衣類が俺を責めているようで俺はいたたまれなくなって
乾いた塔矢の服を無造作にかごに突めこんだ。



「塔矢ごめん。俺・・・なんでこんなこと・・。」



つい言葉に出てしまった言葉に俺はうつむいて唇をかんだ。

初めての事ではないし、無造作のうちの生理現象だとわかってはいるものの
夢の中で見た塔矢の肌の色や表情が頭に焼き付いて離れず俺は自分の起こした
所業に自己嫌悪を覚えた。




シャワーを浴び下着を洗い終わって脱衣場に出ようとした時いきなり
脱衣場の扉が開く音に俺の心臓は跳ね上がった。




・・・・塔矢が自分の服を取りに来たことを悟って俺は足が竦んで
そこから動けなくなる。


「進藤風呂場に入っていいかな。」


その言葉に俺はどうしようもない事態を知った。


「塔矢待って。お前の服は脱衣場に・・・」



そういい掛けた時には風呂場の戸はすでに開いていた。

俺はとっさに後ろ手で下着を隠したがそれ以上に塔矢が何も
身に付けていなかった事に大きな衝撃を受けた。



「なんで!?」

「進藤・・・」

そこには夢の中で見た塔矢よりもきれいでリアルな塔矢の肢体
があった。

俺はとっさに下を向いたが塔矢が俺に迫ってきた事で俺は手を
後ろ手で庇いながら数歩後ずさった。



「と・・塔矢!?あの、そのお前の服は外にあるんだけど・・・」

慌てて言い訳をすると塔矢は歩みを止めて俺の顔を見つめた。

「それはわかってるんだけど・・・進藤何か隠してる?」

「え!?」

あまりのことに俺は顔だけでなく体中が熱くなる。
その途端塔矢に腕をつかまれていた。

「塔矢 嫌だ!」


俺は大きな声を上げたが構わず塔矢は俺の
手を持ち上げた。俺の手から下着が零れ落ちた。

塔矢に知られてしまった事に俺はどうしようもない
罪悪感と絶望との入り混じった想いがこみ上げて
自分でも気づかぬうちに泣いていた。



「ごめん。塔矢。俺、俺・・」



言い訳すら出来ない状況に俺はとにかくこの場を離れたくて塔矢を
押しのけ風呂場をでようとしたらいきなり塔矢に腕を掴まれ後ろから抱きすくめられた。


直接ふれた肌に俺の心臓が大きく跳ね上がり全身の毛が逆立つような
感覚が襲った。



「進藤 すまない。君を泣かすつもりなんてなかったんだ。許してほしい 。」


塔矢の声は優しかった。


「でも俺・・・・」


「進藤、僕は何とも思ってはいないよ。むしろうれしいぐらいだ。」

塔矢の言った事に俺は首をかしげる。

「何 言って・・?」

「君はどうして僕に謝ったんだ。謝らなければいけないことでもしたのか。」

あまりの恥ずかしさに俺は体を震わせる。
塔矢は俺を抱きしめていた腕に力を込めた。



「大丈夫だよ。進藤。君がいえないというならあえて聞かないけれど。
僕も一緒なんだ。知ってるだろ。昨日の僕の失態を。君の前では僕も
ただの男なんだ。君は僕がこんな奴だとわかって嫌になった?」




俺は塔矢の胸に顔をうずめて首を横に振った。



「進藤 今度二人きりで会った時は君が欲しい。だめかな。」


塔矢の甘美な誘惑が俺の脳天に突き抜ける。



「でも、俺は・・・・」



「まだ怖い?君がいやだというなら無理強いはしない。だけど僕は
夢の中の君でなく本当の心と体のある君が欲しい。君は・・・・・?」




躊躇いながらも小さくうなずいた俺に塔矢がそっとキスの雨を降らせた。








進藤ごめんね。

本当は僕の方がずっと罪悪感にとらわれてるんだ。

昨日 君が寝てしまったあと僕は耐えられなくなって
君を想って・・・・自慰行為をした。



そして今朝も・・・・・・出なければこんなに冷静に裸の君と向き合え
るわけがない。



君が思っている以上に僕は欲深くて



・・・・君を愛してる。





     

      


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