箱の中の星






     
目を閉じ心を静めると僕はその部屋をノックした。



だがしばらくたっても応答はなく静かにその部屋の戸を開けた。

1人では広い程の部屋にぽつんと置かれたベット。
進藤はそのベットに腰掛けて携帯碁盤に碁石を並
べていた。

よほど集中しているのか僕が傍によっても気づかなかった。


進藤の色白く少しやせた横顔はいやおうなしに現実を
突きつけられて胸が苦しくなる。


そっと進藤が集中する碁盤に僕は目を落とした。
その布石に僕は見覚えがあった。



遠い記憶を手繰り寄せようとしたがどうも思い出せない。

石を並べていた手が止まり進藤がゆっくりと僕を
見上げた。

瞳がぶつかって進藤は慌ててその棋譜を片付けはじめた。


僕は何事もなかったように装った。




「イスに座ってもいいだろうか。」

「ああ。」

それだけいうと進藤はベットに横になった。


しばらくお互い言葉を発さなかった。
言いたい事が多すぎて何から話していいのか見つからない。




「今日は訪問者が多い日だな。」

窓からみえる高い空を眺めて他人事のように進藤はそう
つぶやいた。

「さっき父にあったよ。正直驚いた。まさかこんな所で
会うなんて思ってなかったから。」

「そう。で、お前は何しにここに来たんだよ。」

進藤の冷めた言葉が胸に突き刺さった。

「君に会いに来たんだ。それじゃ駄目なのか。」

「俺の気持ちを無視してか。」

鋭いまなざしが僕を見据えていた。
だが僕はそれをあえてやり過ごした。



「君を愛してる・・・」

「俺はお前の事なんてなんとも思ってねえ。」

お互い目を逸らさなかった。
僕は肩を落とし席をたった。

駄目押しのように進藤が僕の背に投げかけた。

「2度とここにくるな」っと


拒否されなおも僕は進藤を試した。



「ここに来た時、君が打っていた棋譜だけど・・・」

思い出したのだ。そうあの棋譜は・・・


「はじめて僕が君と打った時のものだ。碁会所でじゃない。
はじめて君と公式手合いで打った時のだ。」

進藤からの反応はない。


「君の中に少しでも僕があるのなら僕はまた来る。」


僕は後ろ手で病室の扉を閉めた。
それが精一杯だった。

知らず知らずに涙が溢れていた。



君も扉の向こうで泣いている気がして、
そう思うとその場を離れられなかった。

人目も気にせず僕は扉にもたれかかった。

少しでも君の傍にいたくて・・・。




     
      


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箱の中の星7