俺が日本に帰ったのは北斗杯前夜祭の日で、
中国メンバーと楊海さんと共に俺は七星ホテルに入った。
塔矢に合えると思うと高鳴る胸 想いが胸を焦がす。
会場となるフロアーで俺はなつかしい3人の顔と鉢合わせた。
塔矢・・・髪が伸びた。肩までかかった髪スーツ姿がまた様に
なって以前よりずっと大人っぽくなった気がする。
自然と鼓動が高くなる。
「進藤!お帰り。」
はじめに声を掛けてきたのは倉田さんだった。
俺は3人の元に歩み寄ると塔矢だけに意識しそうになる気持ちを抑えて
深々と頭を下げた。
「遅くなってすみません。」
倉田さんが がしがしと痛いぐらいに俺の肩をたたいてきた。
「お前の中国リーグでの棋譜見せてもらったぜ。進藤今年は
塔矢とお前 二人が大将だからな。韓国チームはお前に任せたから。」
俺は倉田さんの言葉に「はい」っと返事して塔矢に目を向けた
だが塔矢に視線をはぐらかされて俺は戸惑った。
そんな俺に和谷が話しかけてきた。
「進藤 待ってたぜ!」
俺は動揺を隠しながら言った
「和谷 すごいじゃん。楽平との約束ちゃんと果たしてさ。」
和谷は照れくさそうに頭をかく。
「最終戦で 越智と対局してさ、勝ったんだ。」
「そっか!」
和谷と話し込んでいる間に塔矢の姿がなくなり俺は戸惑いを隠せない。
「進藤どうかした?」
和谷の言葉で我に返る。知らず知らずに塔矢を探していたのだ。
「えっ!どうもしないけど。」
仕方がない。この北斗杯に勝たない限り俺はあいつとの約束を
果たしたとは言えない。北斗杯がすむまで俺もあいつを意識しちゃ
いけないんだ。
そう思った矢先にGO GOTVの佐野と貝塚を含む取材陣たちに囲まれた。
「今から3人の意気込みや豊富を聞かせてもらえるかな?って塔矢くんは?」
「えっと・・・」
「さっき中国チームの人と話してましたよ。」
取材陣の一人が塔矢を呼びに行き、取材が行われる。
「さあ今度は3人並んで写真を撮るから。」
写真を撮るために立ち位置やポーズまで取らされる。隣に並んだ塔矢と
かすかに肩がふれて、それだけで胸がドキンとする。
意識しないようにと先ほど思ったところなのに。
「それじゃあ 次は塔矢君と進藤君だけで並んで・・・」
二人だけで並ぶと余計に緊張する。
「進藤君 顔強張ってるよ。もっとリラックスして・・・」
貝塚の言葉で俺は塔矢に動揺している事がばれたのではないかと
余計に意識が塔矢にいってしまってカメラに集中できない。
ようやく取材陣から解放された時にはそれだけで疲れていた。
明日の対局の為に早く部屋に入った俺は今日一日のめまぐるしい事を
思い浮かべていた。
「塔矢・・・」
ため息と共に吐き出された名前。
会いたかったのは俺だけだったのだろうか。北斗杯がすんだらきちんと
向かい合って話が出来るかな・・・そんな事を考えながらうとうとしていたら
部屋のドアをノックする音に俺はベットから跳ね起きた。
塔矢・・・!?
俺が期待で胸の鼓動が早くなるのを感じながら扉を慌てて開けるとそこには
和谷が立っていた。
「何だ。和谷か・・・」
がっくり肩を落とす俺に和谷が不機嫌に言う。
「何だとは、何だよ。俺じゃまずかったのかよ?」
「いや違うけど・・・」
違わないのだがそれを言うわけにはいかない。
「とにかく入れよ。」
和谷を部屋に入れると和谷が俺の寝ていたベットとは反対側の
ベットに腰掛けた。
「なあ進藤 俺今日ここで寝てもいいかな・・・」
「はあ〜!?」
俺は何とも間の抜けた返事をかえしてしまった。
「ひょっとして緊張して眠れねえとか。」
まさかと思いつつもそう訊ねたのにうなずかれて
俺は苦笑した。。
俺も昨年初めての北斗杯では随分緊張した。今も緊張
してないわけではないけれどただ塔矢のことがそれ以上に
気になっただけの事で。
そう思うと俺も今は和谷が傍にいてくれた
方がいいのかもしれないと思った。
「しょうがないな。いいぜ、俺もなんかもやもやしてたから
和谷がいてくれた方が落ち着くかもしれねえ。」
「そうか。」
ちょっとほっとしたように和谷が隣のベットに横になった。
「なあ、進藤 お前さあ、塔矢と喧嘩してるわけ?」
「いいや してないけど何で?」
「だって今日全然会話なかっただろ。ひょっとしてあいつまだお前が
中国に行った事怒ってやがんのかと思ってさ。」
「そのことなら俺 中国行く前にちゃんとあいつと話合った。
あいつとはそうだな、明日の北斗杯が済んだら、ちゃんと
話をするよ。」
「そうか。すべては明日だな。」
そう俺たち日本チームは明日韓国チーム 中国チームと続けて
対局がある。明日ですべての決着が付くのだ。
「ああ。明日で決着がつく。」
和谷とその言葉の重みをかみ締めると
俺は部屋の電気を落とした。 |