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        〜そして未来へ10



     
日も間もなく沈むと言う頃、アキラとヒカルは2人の曽祖父の墓の
前にいた。

墓には真新しい供花が供えられていた。

「先客がいたみたいだね。」

「うん。オレたちだけじゃねえんだな、」

2人は持ってきた花を手向けると一緒に手を合わせた。
少し冷たい風が頬をさす。
先に立ち上がったのはアキラの方だった。

「僕は前に学園長先生(ヒカルの祖父)から曽祖父の話を聞いた時
ひどく憤りを覚えたんだ。」

「うん、オレもショックだった、けど・・・、」

ヒカルはおどけたように話を続けた。

「けど、オレたちはじいちゃんたちの生まれ変わりかも、なんだろ?」

「それは・・・」

アキラはため息をつきながらつぶやいた。
『だから君には話したくなかったんだ・・・、』と。


「でももしそうだったとしても僕はおじいさまたちのようには
ならないよ。」

「うん。」

「僕はおじい様たちには感謝をしてる。
僕が僕として今ここにいるのも、君に出会えたことも、学園長
先生の言っていた絆なんだろうって。
だったら僕はこの想いも絆も大切にしたい。
僕はどんな時も君と生きていきたい。」

熱っぽいアキラの告白にヒカルは小さく頷いた。

「オレも・・・お前と生きたい。」

アキラの手がヒカルの手を握る。
その指が絡められ、ヒカルもそれにこたえるようにぎゅっと指に力を
込めた。

繋いだのは手だけなのに指からアキラに、アキラの全てが伝わって
くるような気がしてヒカルは全身の体温が上がったような気がした。

その時だった。
背後から人が近づく気配がして、2人は振り返った。
同時に繋いだ手も離される。

「じいちゃん!?」

そこには剛(ヒカルの祖父)がいた。

「お前たちも来ていたとはな、」

剛は2人の隣に座ると手を合わせた。
アキラとヒカルもそれに習った。

「じいちゃんだったんだな。この供花、」

「ああ、久しぶりに親父に会いたくなってな、」

「じいちゃん・・。」

ヒカルは剛に会ったらどうしたらいいか、何を話したらいいか
いまだわからないでいた。きっと普段どうりにすればいいのだろうが
装うということがヒカルは出来なかった。

「正夫から聞いたのか?やれやれ、」

勘のいい剛は笑っていた。
それは普段の剛とかわらなかった。

「じいちゃん、」

「まあいい。丁度よかった。お前たちに話があったんだ。
ヒカルお前、あの碁盤持ってるな?」

剛の言う『あの碁盤』というのは進藤家に代々伝わる
囲碁の神様が宿っていたという言われがあるものだった。

「うん、マンションにあるけど、」

「久しぶりにあの碁盤で打ってみたいのだが・・・。
アキラくんマンションに邪魔してもいいかい?」

「もちろんです。」






その後アキラとヒカルの住むマンションの一室に剛を迎え入れた。
2人ともなんとも緊張した面持ちだった。

ヒカルが碁盤を剛の前に置くと剛はまるで碁盤に話しかけるように
優しく撫でた。

「ヒカル、よくこの碁盤で打つのか?」

「うん。今朝親父とも打ったぜ、」

「そうか、」

丁寧に端から端まで優しく撫でた剛は思い出したように微笑んだ。

「私もこの碁盤でよく打った。特に昌とは一番打ったかもしれないな。」

「昌って?」

「アキラくんの亡くなったおじいちゃんだ。」

「へえ〜、アキラの?」

「そうなんですか?」

今までヒカルと剛の会話を聞いていたアキラは意外だったようだった。
アキラもヒカルも本因坊家と名人家はもともと仲が悪いものだと思っていた。
もっともそれが自分たちの曽祖父の事が絡んでいることは二人とも
今では知っている。

「昌とは仲がよくて子供の頃はよく一緒に遊んだものだ。院生や、プロに
なってからも いつも一緒につるんでいた。
そういえば子供の頃一緒に遊園地に行ったこともあったな、」

剛の思い出話にヒカルが苦笑した。

「塔矢の爺ちゃんって名人みたいな人かなって思ってた。」

それに剛が笑った。

「いや、結構似てると思うな。言い出したら聞かない頑固な所とか、
負けず嫌いな所とか、」

「はは、それはアキラもそうだよな、」

失敬だと言わんばかりにアキラが顔をしかめる。

「私と昌は親父たちに連れられて4人でよく遊びに行った。」

改めてそういった剛の表情が揺らいだ。

「だが、それは親父たちが逢瀬を交わすためだった。」

「そんな・・・」

絶句したアキラにヒカルが首をかしげた。

「逢瀬を交わすって何?」

「つまり・・・恋人として会い、体を合わせると言うことだ。」

流石のヒカルも意味を悟って顔を赤くした。

「だって、爺ちゃんたちもいるのに、どうして・・・。」

「ヒカルの言うとおりだ。

・・・・だが、私がその事実を知ったのは大人になってからの事だったが。」

「爺ちゃん怒らなかったのか?」

ヒカルは今にも泣き出しそうに顔をゆがめた。

「ショックだったし怒ったよ。その事実を知ったのは母さんが亡くなってから
数年たった後だったから。
母が知っていたのか知らなかったのか、確かめるすべはすでになかった。
だからなお更だったかもしれない。
騙すならずっと騙されていた方がよかったって思ったよ。

けれど、2人にはすごく葛藤があったのだと今は思う。」

     






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