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        〜そして未来へ 最終話



     
ヒカルは思い切るように言った。

「爺ちゃん、オレこの先ずっとさ塔矢と・・・アキラと一緒に生きたいって思ってる。



碁を打ってお互い高みを目指して、ライバルとして・・・その恋人として・・・。
けどそれはやっぱり不味いことなのか、自分勝手なことなのか?」


アキラは驚いてヒカルの顔を見た。
剛は改めてアキラとヒカルの顔を見回すとゆっくりと話し始めた。

「私の父がまだ子供の頃のことだ。6年生ぐらいっていってたかな。」

剛はヒカルの切実な問いかけに直接答えなかった。


「祖父の蔵に忍び込んだ父は古い碁盤をみつけた。
その碁盤は血の痕のような汚れがあって。
碁盤に触れた瞬間声が聞こえ、姿を現した・・・。」

「それが碁の神様?この碁盤に宿ってたっていう?」

以前から進藤(本因坊)家に伝わる碁盤と碁の神様の話はヒカルも
子供の頃父から聞いていた。
当時はその話が好きで何度も父に強請っては話をしてもらった。

「まあ、そうなのだが・・・。碁の神様っていうのは少し大げさだな。」

その後、剛の話はとても不思議な話だった。

この碁盤に宿っていたのは千年前に死んだ「藤原佐為」というお化けで
彼は現世へ残した「碁を打ちたい」、「神の一手を極めたい」という未練で
碁盤を依代にして長い眠りについていたらしい。
曾爺ちゃんにはその姿も声も聞こえることが出来て、それから佐為は
曾爺ちゃんと行動を共にするようになった。

佐為はとにかくに「碁が打ちたい、碁が打ちたい」と言っては
我侭を言い。碁など興味がなかった曽祖父にとっては迷惑なことで
はじめは邪険にしてたらしい。けれどあまりに切実に訴えるから
近くにあった碁会所に佐為と出かけて、たまたまアキラ
の曽祖父と出会い初めて碁を打ったというのだ・・・・。

「その時アキラくんの曽祖父と打ったのは私の父だ。
だが父は佐為に言われるまま打っていただけの
ことで、碁の内容すら覚えていないと言っていたよ。」

アキラが身を乗り出した。

「その時勝負に勝ったのはどっちだったのですか?」

「佐為だ。
その当時アキラのくんの曽祖父はすでにプロ試験にも合格するだろう棋力を
持っていたらしい。そんな彼が初めて碁を打ったという私の父にあっさりと
負けてしまった。
自信もプライドもズタズタだったろう。」

それを聞いてアキラは初めてヒカルと出会った時の事を思い出していた。
学校の用具置き場だった。
あの時まさか自分が同じ歳の子供に負けるなどどアキラは思っても
みなかった。
もちろんあの時打ったのは佐為でなくヒカル本人だが・・・。
アキラには曽祖父の気持ちが手に取るようにわかる気がした。

「それから彼は父と打ちたい、勝ちたい一身で父に碁を打って欲しいと
何度も迫った。
父には後ろめたい思いがあった。打っているのは佐為だからな。
そうしている間に父は自分で自分の碁が打ちたい・・・。
そう強く願うようになり、
佐為の碁を聞かずに彼と打ってボロボロに負けてしまった。

それ以後彼から相手にされなくなってそれが悔しくて父は彼を必死
で追ったんだ。」

「じゃあ曾爺ちゃんがプロになって本因坊になったのは自分の力で
だったんだよな?」



心配そうに聞くヒカルに剛は微笑んだ

「ああ、そうだ。」

「それで佐為はどうなったの?」

「当時の名人(アキラの曽祖父の父)とネット碁を打った後消えてしまった
と言っていたよ。」

「じゃあこの碁盤の中にいるってことはもうないのか?」

「ないだろうな。父は自分の碁の中に佐為はいるのだと
言ってた。そして自分が残す棋譜に、私に託すと・・・。」

アキラは神妙な面持ちだった。

「佐為がネット碁でしか姿を現さなかったのはそういういきさつが
あったんですね。」

「アキラはこういう胡散臭い話は信用しねえのにな。」

からかうように言ったヒカルにアキラは苦笑した。

「確かに胡散臭いかもしれないけど、わかるような気がするから、」

「そっか?けどオレとアキラの曾じいちゃんって恋人だっていってたろ?
曾じいちゃんプロ試験に合格した後アキラの爺ちゃんにわかって
もらえたんだよな?だって相手にもされなかったんだよな?」

それに答えたのは剛でなくアキラだった。

「相手にしなかったのは本当は気があったからだと思う。
想いがあるから気のないそぶりをしたんだ。本音をいえば
追ってきて欲しいと願ってたんだ。」

「ほおう、」

剛は感心したように声を上げた。その通りだったからだ。

「へええ、お前って自分の曾爺ちゃんの気持ちもわかるのな、
それも生まれ変わりってやつだからか?」

「その話はもういいよ。」

アキラは困ったように笑っていた。
そんな2人に剛は優しく微笑んだ。


「ヒカル・・・・
先ほどの質問だが・・・。
私はお前たちの好きな道を選んだらいいと思ってる。これから先のこと、
お前たちの人生はお前たちのものだ。」

「けど・・・。」

ヒカルは昨夜父に言われたことを思い出していた。

『ヒカルの命は人生はヒカルだけのものじゃないって、繋いできた
命や絆がありそれを紡いで行くのがオレの生きた証だって』

「何を言われてもあるがままでいい。自分で選んだ道なら悔いが残っても
諦めがつくだろう。だから・・・。」

剛は碁盤を越えアキラとヒカルの2人を両手で抱き寄せた。

「先生・・・、」「爺ちゃん・・」

アキラがその腕を返す。ヒカルも同じように剛の背に手を回した。
その背は大きくて温かだった。

不思議と照れくささはかんじなかった。
ぎゅっと握り締めた体から剛の思いが伝わってくる。

「お前たちに確かに渡したからな、」

『はい』

曽祖父が佐為から受け取った扇子は今2人の中に確かにある。













それから3ヵ月後、
剛はこの世を去った。

碁界すべてが喪中に包まれたように静寂で悲しみに包まれていた。

剛がなくなった同日、ニュースで「万能細胞を使った同性同士の子供が誕生した」と
大きく報道された。
神を冒涜する行為だと各地の宗教団体は集会やデモを起こし、同性愛者たちは
このニュースに 歓喜した。

新聞に大きく取られた報道の横に小さく進藤剛の訃報が載っていた。



「なあアキラ・・・、もし俺たちに子供が出来たら爺ちゃんなんっていうかな。」

記事を見て自笑するように言ったヒカルの瞳は真っ赤にはれていた。
アキラはそっとヒカルを抱きしめた。

「何が正しいかなんて本当は誰にもわからない・・・、」

アキラは剛の弟子になった日に言われた言葉を言った。

「それでも・・・僕は僕たちが選んだ未来が正しかったと信じたい。」

「うん。」

「いままで出会った人から・・・先生からもらったものを繋いでいくために・・・
僕は、キミと生きていく・・・」





未来へ・・・。




                                       2010 4月 完

     






「そして未来へ」あとがき

ここまで読んでくださった皆様ありがとうございますシリーズ前作のFIrst love絆を執筆したのが6年前になります。
まさかあの頃は続きを書くことになるとは思いもしていなくて・・・。
構想はあったのですがわりに「絆」が綺麗に終わっていたので、続きを書くのに戸惑いがあったかも・・。
それがたまたま読み返した時に自然と世界があふれ出してきて書かずにいられなくなって。(笑)
お話は書くタイミングがあるんだな〜と今回のことで
実感しました(笑)

この続きはさすがに出てきそうにないのでシリーズも完結です。
この先は読んでくださった皆様の中でお話が広がっていけばいいな〜と、そんな事を期待して(笑)
それでは、またヒカ碁の次回作でお会いできることを願っています〜。




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