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        〜そして未来へ09



     
2人で本因坊を見送った後アキラはふっと一息を付いた。

「ヒカル本当に体はもういいの?」

「ああ、」

ヒカルはそれに頷いただけだった。
真っ先に口についてでそうになった昨夜の疑問をアキラはぎりぎり
で抑えた。本音を言えばヒカルの方から言ってくれることを待っていたの
かもしれない。

「あの、・・・アキラ、」

「どうかしたの?」

出来るだけ優しく言ってヒカルの次の言葉を待った。

「昨日、お前が学園に行ったとき爺ちゃんの様子どうだった?」

「先生はお元気だったよ。午前中は学園の子供たちも一緒にプロ
棋士と一緒にまざって対局して、午後からは森下先生をはじめ
君のお父さんや門下生たちと手合いされてた。僕は父の事があって
途中で退出したから先生と打つことはできなかったけれど。」

ヒカルはしばらく言葉を探しているようだった。
アキラはそんなヒカルをじっと待った。

「爺ちゃんな・・・・・・。」

その後のヒカルの言葉にアキラは絶句した。
『先生が癌。あと数ヶ月で。』

そう告白したヒカルは溢れだしそうになっている涙を抑えていた。
アキラは見つからない言葉のかわりにヒカルの肩を抱きよせようとした。
だがその手をヒカルは払った。

「ヒカル!?」

「ごめん。オレもう泣かねえって決めたのに。だって爺ちゃんは今
一生懸命頑張ってんのに・・・。」

「ヒカル・・・。」

再度名を呼ばれてヒカルはアキラが震えていることに気づいた。
剛は名人に破門にされたアキラを何も言わずに受け入れてくれた
人だった。
唯一ヒカルとの仲を認めてくれた人でもあった。
アキラだってヒカルと同じように事実を受け止められないのだ。

「アキラ・・・、」

ヒカルは自然と自らアキラの肩を抱き寄せた。

その肩をぎゅっとアキラが握り返す。
2人はただしばらくそうしていた。



ようやく落ち着いた頃、先に口をついたのはヒカルの方だった。

「なあ塔矢、お前さこの間曾爺ちゃんの墓の前であったろ?
あそこにはよくいくのか?」

「よくってほどではないよ。あの時で3度目だから、君はよく行ってるの?」

「ううん。オレはあの日が初めて。・・・オレは親父に聞いていったんだけど
アキラは曾じいちゃんたちの墓があそこにあるって知ってたんだ?」

「それは・・・、」

アキラはいいにくそうに言葉を濁した。

「・・・緒方さんに聞いたんだよ。」

「緒方先生?」

「うん、なぜあの人が知っていたのか僕にもわからないけれど、
君の曽祖父と僕の曽祖父が
一緒に眠っていると聞いて行ってみたいと思った。」

「そっか、オレさ、人が死ぬって事よくわからなくって。
ホントいうと爺ちゃんが死ぬっていうのも
理解できなくて。今生きてるのにいなくなるって。
オレもお前もこの世からいなくなるって考えただけですげえ怖くて。」

アキラはヒカルを抱きしめている腕の力をぎゅっとこめた。

「色々考えてたら、オレお前とのこともわかんなくなって。」

堰が切れたようにこぼれだすヒカルの想いを
アキラは抱き寄せてそのまま壁に押し付けた。

「やめ・・・」

深く唇がふさがれる。

流されたくなくてヒカルはドンドンとアキラの背を叩いた。
でも逆らえなかった。
どんなに理性でダメだとわかっていてもアキラへと想いは向いていく。
それだけは昨夜ずっと考えてわかったことだった。
どうしようもないほどに・・。
親父に言われたことの方がずっと正しいってわかってる。

唇を解放された後
ヒカルは溢れてくる想いと一緒に告白した。

「でも昨日オレ思ったんだ。お前と一緒だった死ぬのも怖くねえ
かなって。
爺ちゃんたちみたいにお前と同じ墓に入るなら・・・。
ごめん。
オレさっき親父と碁を
打ってちっとは落ち着いたって思ったのになんかまた頭の中堂々
巡りしてる。」

アキラは優しく微笑んだ。

「僕もそうだよ。いつも迷っては立ち止まりその繰り返しだ。
君には笑われると思って話した事はなかったけど・・・。
実は僕と君は僕たちの曽祖父の生まれ変わりなんじゃないかなって
思ったことがあるんだ。」

「ええっ!?」

あまりにも突拍子のないアキラの告白にヒカルは驚いた。
現実主義のアキラの考えにしては非現実的だった。

「初めてあの墓地に行ったとき、僕には場所がすぐわかったんだ。
どうしてかわからないけれど足が勝手に向いていた。
それに行ったはずもない場所なのに何度も足を運んだようなそんな
気がしたんだ。」

非現実な話しだけどとアキラは自笑するように笑った。

「アキラ・・・、」

「人は死んでそれで終わりというわけじゃないだろう。意志を繋げて
未来に託して行くんじゃないかな」

「けどそれは子孫を残すってことじゃねえのか?」

「それだけじゃないよ。出会った人、碁を通して伝えてきた
ことだって残るはずだ。秀作やネットのサイの棋譜が今にも残っている
ように僕たちだって、きっと ・・・・。

でも君が子孫を残したいと言うのなら人工授精して子をもうけてもいい。
養子をもらってもいい。
だから僕と一緒になって欲しい。そしてずっとこれから僕と一緒にこの道を
歩いて欲しい。死ぬまで、永久に君と同じ眠りについても、ずっと、」


アキラの告白にヒカルの胸が熱くなる。

「なあ、アキラオレお前ともう1度爺ちゃんたちの墓に行きてえんだけど、」

「ああ、今日君の指導碁の仕事僕も付き合うよ。その後一緒に行こう。」


     






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