ラバーズ



17



     
この1月俺おかしい。
何かが抜けてしまったような。

大事な何かをどこかで落としてきてしまったような。

だのにそれがなんなのか思い出せない。


先日席替えしたばかりの俺の斜め前はあいつの席。

塔矢の・・・だけどまだ今朝は来てない。
あいつにかぎって遅刻だろうか?



珍しい事もあるもんだと思ったとき女子生徒の興奮気味の声
が教室に走った。



「塔矢くん 急にアメリカへ行くことになったんだって!!」

「うそでしょ?」

「先生から聞いたんだもの。間違いないよ。
それも今日発つんだって。」

俺は驚いて席をたった。

「それマジかよ!!」



いきなり大きな声を上げたもんだから教室にいた生徒の
視線が一斉に俺に注いだ。


「ごめん。」


俺が小さくそういった途端チャイムがなってあわてて席につく。

そういえば塔矢の親はアメリカに住んでてあいつ一人暮らし
だっていってたっけ。

そんな事を考えながら俺はどこかあやふやな記憶を探ろうとする。



俺それ誰に聞いたんだろう。あいつから・・・?




違う。俺あいつとはろくに話をした事もなかった。
じゃあ誰かが話してるのを聞いただけかも。



大切な何かが胸に引っかかりを残したまま外れない。
窓の外を見ると飛行機雲がまっすぐに青空に伸びていた。

急すぎるよ。お前・・・。




「塔矢くんは今夕に両親が住んでいるアメリカのボストンへ
向かう事になって・・・
急なことで皆にお別れできなくて残念だといっていたと・・・」




弁当を食べながら タマ子先生が朝ホームルームで言っていた
事を俺はぼんやり思い出してた。



「進藤お前おせえ。何してんだよ。」


突然耳元で和谷に怒鳴られて俺は耳をふさぐ。


「バカ!そんな大きな声で言わなくて聞こえてるよ。」

「何言ってんだよ。さっきから何度もよんでんだろ。
バスケ・・今日決勝戦だぜ。早くしろ!」



半ば強引に和谷に腕を引かれて廊下に出たとき、
なぜだか前にも同じような事があった気がして俺は足を止めた。


「進藤 どうした?」



もう少しで思い出せそうな気がするのに。
どうしてこんな時に塔矢の顔ばかり頭を掠めるんだろう。



「和谷わりい。俺今日のバスケ休む。」

「何言ってんだ。お前 腹の調子でもわるいのか?」


今すぐに会いたいという気持ちが溢れて来る。



「うん。なんか気持ちわるい・・・」

和谷はしゃあねえな〜とぼやくとふっと小さくため息をついた。

「わかったからそんな顔すんな。何とかしてやっから、」


グループの兄貴分的和谷はさっぱりした
性格でこういう時非常に物分りがいい。



俺は心の中で謝りながら慌てて教室へと走った。



     
    




  


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