空港内
行きかう人ごみを僕はぼんやりみつめていた。
「アキラくん、急に留学決めちゃって大変だったでしょう。」
「ああ、アキラくんの事だ。泣いた彼女の一人や二人いたん
じゃないのか?」
「そんな人いませんよ。」
心の中で思い浮かべた人に苦笑する。
来るはずのない人。
ずっと片想いだった。
伝える事もしなかったけれど。
どうせ実らない想いなら打ち明ければよかったのかもしれない。
いや惨めな想いをするぐらいならきっと言わなくてよかったんだ。
そう言い聞かせて人ごみから目をそらした。
「アキラくんそろそろ時間だ。搭乗口に行かないと。」
「はい。」
「元気でな。」
「ええ。叔父さんたちも・・・」
搭乗口に向かおうとして僕は空耳とも思える声を聞いたような
気がして振り返った。
人ごみの中 制服のまま顔を真っ赤にさせた進藤が
荒い息をついでいた。
進藤・・・なぜここに?
「進藤!?」
「塔矢 何も言わずに行っちまうなんて水くせえよ。」
荒い息を整える事もせず進藤は怒ったようにそういった。
僕はぷつんとはった糸が切れたような気がして笑った。
「急いで学校飛び出してきたのに笑うなんてひでえ。」
「ごめん。うれしかったんだ。君の事を考えていたから・・」
「俺のこと 本当?」
「ああ。」
進藤は僕が手に持っていた傘に目を落とす。
「塔矢それって俺の傘だよな?」
「これ君の傘なの?」
僕はマンションに置き忘れられていた傘がてっきり叔父
のものなのだろうと思って今日持ち合わせてきたのだが・・。
「ああ全く同じ柄の同じ傘。1月ぐらい前になくしちまってさ、
でも同じような傘なんてどこにでもあるし・・・やっぱ違うかも。」
そういえばちょうど1月ぐらい前からいつの間にか
この傘は玄関に置き忘れられていたような気がする。
「意外と君の傘かもしれないよ。」
僕はなんだか君がこの傘を受け取りにここに
来たような気がして傘を差し出した。
「ええ?塔矢。でも・・・」
もじもじしながら進藤は僕に言った。
「そのもし邪魔にならなかったらさ、それもらってくれよ。
餞別にもなんねえけど。」
『アキラくんもう行かないと・・』
叔父の声に僕はふりかえらず返事した。
「すぐいきます。」
僕は進藤に右手を指し出した。
「じゃあ餞別のお返しに・・。」
戸惑いがちに進藤は僕の手を握った。
「塔矢元気でな。」
「うん。君も・・・」
俺は空港を見渡せるデッキに立っていた。
塔矢の乗る飛行機がゆっくりと滑走路を走り出す。
やがて轟音をたてて飛行機は大空へと舞い上がった。
塔矢の夢・・・・
「僕はパイロットになりたいんだ。」
いつ聞いたのか思い出せないのに、そう言った塔矢の声もその時の
あいつの泣き出しそうだった表情もはっきりこの胸の中にあった。
高く高く上がっていく機体がだんだん小さくなっていく。
ぼろぼろと溢れてくる涙をぬぐうこともせず俺はただその
機体を追った。
不意に大きな風が吹いて誰かに「ヒカル」と呼びかけられたような気
がして俺は振り返る。
ただそこにはあの時と同じように風が吹いているだけで・・・。
『ヒカル・・・ノートの最後のページに塔矢くんが残したメッセージ
届いていますか?』
ヒカルが好きだった。
学校で初めてヒカルを見た時から・・・
一目ぼれだったんだ。
言うつもりはなかった。
だからきっかけは本当にこのノートだったかもしれない。
もし君でなくこのノートを僕が手に入れても君と同じ事を考え
同じ事をしただろう。
そして・・君のように悩んで。
君はノートがなくても僕たちはやり直せる もう1度恋人に
なれる可能性を信じたいと書いてたね。
もしそうでなければ僕は今眠っている君を起こし、無理やりでも
僕のものにしノートを破いただろう。
でもね僕もそう信じたいんだ。
君とはもう1度やり直せる。
恋人になれる。
僕は今日という日を
・・・君をけして忘れない。
Dream
is not to chase after but to crab it and make it
real.
愛してる ヒカル
ラバーズ完
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