ラバーズ



13





     
「ヒカル 傘はどうしたの?びしょびしょじゃない!」

母さんの言葉も素通りして俺はいっきに階段を
駆け上がって自室に入った。
学ランを脱ぎ捨てて冷えた自分の体を覆うように抱き
しめる。

塔矢に抱きしめられ、熱くなった体も心も今はもう余韻
すら残さずただ冷えきってる。



振り返るとそこには佐為がいた。
たぶんずっとそばにいてたんだろうけど、
俺が気づかなかったんだ。



「俺・・・間違ってたんだな。」



佐為にそうだと言ってほしかった。
いや言って欲しくないのかもしれない。



「ヒカルは私からどんな返事が欲しいのです。」


俺の心の中を読んだように佐為は静かに言った。


「ヒカル・・・私はあなたが出した答えならどんな
成り行きも未来も受け入れます。」

佐為はやっぱり俺の考えてることはお見通しなんだって思う。
俺がノートを手放そうって思ってること。



「もし、俺がノートを手放せばお前のことも忘れちまうの?」

「ええ。」



佐為とはたった3日ほど一緒にすごしただけだ。
塔矢の事だって始まってまだ4日しかたっちゃいない。


今ならやり直せる。間に合うかもしれない。
でもその短い間にできた想いは出来事は俺の中に大きく占めて・・・
失いたくないって思う。手放したくないないって思っちまう。




「佐為は俺がお前を忘れても平気なのか?」

「私はヒカルのことを忘れたりしませんよ。だから大丈夫です。」

自然と涙が溢れ出す。

「うん。」




佐為にそっと背を押されたような気がした。

俺は机の奥にしまったノートを取り出した。
ノートを広げるとアキラへの想いが溢れて来て慌てて
それを閉じた。



「なあ佐為・・、さっき俺と塔矢のこと見てた?」

「見ていた時もありましたし 見ないふりをした時も
ありましたし・・」

佐為の返事はなんだかおかしくて苦しさを吹き飛ばす
ように俺は噴出した。

「なんだよ。それ・・・あのさ そのどんな感じだった。」

照れくさかったが俺はどうしても知っておきたかった。

「ヒカルの方が私よりわかっているでしょうに・・」

佐為は何度もそういった場面は見て来たはずだろうに
恥じらっているようだった。

「お互い本当に惹かれているのだと思いましたよ。
塔矢くんもヒカルも真剣に・・・」

「でも塔矢のやつが俺を好きなのはノートのせいだろ?」

「きっかけはそうだったかもしれませんが、塔矢くんがヒカルを
想う気持ちに偽りはないです。」


きっぱりそう言い切った佐為に俺は先ほどの事を思い出していた。




塔矢に触れられた途端熱くなった体。
耳元でささやかれた吐息。きつく抱きしめられ何度も交わされた
キスは甘くて切なくて、眩暈さえした。


そして塔矢の告白・・・。胸がぎゅっうと痛くなる。


俺は塔矢が好きだから奪っちゃいけないんだ。あいつの夢を・・・





暗闇の中ただひとつの目的地を目指して飛んでいたジェット機の
PC画面がアキラと重なっていく。



「なあ・・
佐為 あと少しだけでいい。俺に付き合ってくれねえかな。」


「もちろんですよ。」



俺はノートをもう1度広げた。


     



      



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