夕飯も風呂も終えたもう晩い時間・・・。
俺は時間を見計らって塔矢に電話をかけた。
「もしもし塔矢俺だけど・・・
さっきはその俺 急に帰ったりしてごめん。」
「いや、かまわない・・」
話し始めてから塔矢の反応がなんだかもどかしく遠く
かんじて俺は焦って、鈍りそうになった決心をもう一度
奮いたたせる為にぎゅっと目をつぶった。
「あのさ ・・・塔矢今一人?」
「一人だけど。」
「俺・・・今からそっちに行っちゃ駄目かな。」
塔矢からの返事はなかなか返ってこなくて俺は駄目なんだろうと
諦める。
「わりい。その俺考えなしでさ。こんな時間から迷惑だよな。
またそのうちに じゃあ・・・」
そのうちなどはない。もう今夜しか俺と塔矢にはないのだ
から。これで最後なんだという思いで受話器を置こうとして
塔矢が受話器越しに叫んでいた。
「待って 進藤そうじゃない・・・僕も君に会いたいと思っていた。
・・・・でもこんな時間から大丈夫なのか。」
「親には適当に言うよ。お前の方こそ本当にいいのか。
迷惑なんねえ?」
別の意味での塔矢への問いかけ。
塔矢はその意図を俺の気持ちを汲んでくれるだろうか?
「迷惑なわけがないだろう。待ってる・・・」
俺は胸がいっぱいになって受話器を置いた。
心配そうに見つめていた佐為が傍にいて俺に問いかける。
「ヒカル 行くのですね。」
「うん。」
「余計に別れが辛くなるとわかっていても・・・?」
「お前俺の決めたことなら最後まで付き合うって言ったじゃん。」
佐為はぎゅうと俺を抱きしめた。
「もちろんですよ。」
俺はなんだか照れくさくなったが佐為のその行為に甘えた。
「それにさ俺変なんだぜ。明日には塔矢との事忘れるって
いうのに、今からあいつと会えると思うとうれしくてさ・・・。
なあ佐為 俺や塔矢がさ、今までの事忘れちまっても
お前は覚えておいてくれよ。目をそらさず見といてくれよ。」
佐為は俺の頭をまるで親が子供にするようにぽんんぽんと優しく
なでてくれた。心配はいらないというように・・。
「ええ。ヒカル、塔矢君が待ってます。」
「ああ。」
俺はリュックに慌てて身支度を整える。
そして最後に机からラブノートを取り出すとそれをリュックに
無造作に押し込めた。
雨はもうほとんどあがっていて俺は星もない夜空の中を塔矢
のマンションへと自転車を全力で飛ばした。
塔矢の部屋の前まで来ると俺がインターホンを押す前に
扉が開いた。
「塔矢・・・」
「進藤 」
お互いとても待ちきれなかったのだ。
言葉少なに招かれ部屋へと入った。
「進藤 ここまでどうやって来た?」
「自転車。すげえ飛ばしてきた。」
「すごい汗かいてる。お茶でも入れてくるよ。」
優しい塔矢の笑顔に胸が痛くなる。
俺は背負っていたリュックをおろすとその疼きを埋める
ようにリュックごとノートを抱きしめた。
「進藤鞄ぐらい置いたらどう?」
お茶をテーブルに置いて苦笑する塔矢に
俺はあわててリュックをソファー横に置いた。
「ごめん。塔矢さっきは俺変な事行って・・」
「アメリカへ行くことだったらもう少し僕も
考えようと思ってる。」
「でもいつかは行くんだろ?」
「それは・・・」
歯切れは悪かった。
俺だって行ってほしくない。ずっと一緒に学校通ってバスケ
して勉強して・・・でもいつかはそんな学校生活だって終わっちまう。
俺はソファーから立ち上がると塔矢の腕を取った。
壁際に塔矢を押し付けるようにもたれこむとそのまま唇にふれた。
「進藤 どうした?なんだか変だ!!」
塔矢のまっすぐな瞳が俺の心の中まで射抜くように見つめていた。
「俺・・・そのつもりで来たんだ。」
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