ラバーズ







     
翌朝学校へと向かう途中で俺の携帯に電話が
はいった。


「かあさん?」

「ヒカル 警察署から電話があってね。すぐ
来てほしいって。」

「えええ〜。」

「学校には連絡しておくから、そこからすぐに行ってちょうだい。」




携帯を切って俺はふてくされたように佐為を見た。


「お前のせいで朝からろくなことないじゃん。まさか
佐為昨日 俺にデタラメいったんじゃないだろうな。」

「ヒカル私を信用してないのですか?」

「だってさ。」



一晩一緒にいて佐為が悪いやつじゃないことはわかってきた。
だが どうも軽い所があっていまひとつ信用していいものかどうか
と思っちまう。


「とにかく行ってみましょう。大丈夫ですから。」



俺が警察に呼ばれた理由は空き巣が押し入った家から
押収された指紋で割り出された犯人の写真を見てほしいと
いうものだった。


写真を一目みて自信たっぷりに佐為はこの人です・・・と言い切った。



警察から解放されたのはお昼過ぎでそれから学校にいく
時間ではなく俺は登校を諦めなくてざるをえなかった。




「ああ 俺ずっと皆勤だったのに。」

「いいじゃないですか。捜査に協力したんですから。
犯人もあれで捕まるでしょう。」

「俺は犯人の顔見てないんだぜ!!」

「私が見てましたからヒカルは安心していいですよ。」




佐為のいうとおり夕方には犯人が捕まり事件が解決したと
警察から連絡があって俺はようやく安堵した。


「明日は塔矢の家に行くんだよな〜」


騒動で忘れかけていたことを思い出し俺は枕を抱えてベットに
座りこんだ時お袋が部屋に顔をだした。




「ヒカル友達の塔矢くんから電話よ。」

「ええっ!!」

お袋から受話器を受け取るのさえ緊張した。

「もしもし 俺だけど・・・」

「進藤 先生から聞いたよ。自宅に強盗が入ったって。
その大丈夫なのか?」


塔矢が心配してかけてきてくれたんだと知って
不謹慎にもうれしいなんて思ってしまう俺。


「強盗っていうか家は別に何も被害にあってねえし。」

「でも進藤相手の顔みたんだろ。」



塔矢にまでうそをつかなきゃいけないのかと思うと
俺は戸惑ったが小さくうなづいた。



「うん。でも、夕方警察から電話があって捕まったって。だからさ、」


「地元の高校生が協力してくれたおかげで
逮捕できたとテレビで放送されてたよ。
それってやっぱり君のことだったんだ。」


そんなことテレビで放送されてたんだと知って俺は恥ずかしくなる。

「あの いや 俺は本当に何もしてないからさ。」

「そんな事ないよ。すごいと思ったよ。
心配したんだけどなんだか君の声を聞いた安心した。」


「塔矢心配してくれたんだ。」


塔矢が心配してくれてたんだと思うだけで俺はなんだか
今日一日振り回された事さえどうでもよくなってしまう。

急にお互い黙りこくって・・。

受話器を握り締めたまま俺は動けなくなる。
このまま受話器を置きたくなかった。


だのに話題が思いつかない。


「しんどう・・・」


受話器の向こうから聞こえた塔矢の上ずった
声に胸がドキリとした。

「な なに?」

「いや その何でもない。じゃあまた明日・・」



受話器を切りそうになった塔矢を今度は俺が呼び止めた。

「と 塔矢さ!」

「何?」

「あの明日俺お前の家行っていいんだよな。」

ようやく話題を見つけた俺の声も少し上ずっていた。

「ああ。もちろん。」

「だったらさ、今日の授業のノート移させてよ。」

「うん。いいよ。」

「じゃあな。」

「おやすみ・・・」




名残惜しさが残ったが俺は受話器を置いた。

塔矢が俺に電話を掛けてきてくれた・・。

部屋に戻った俺はなんだかふわっと
体が浮いたように気分はうかれてた。


自然に顔が緩んでしまう俺に佐為がくすくす笑いだす。




「ヒカル〜明日楽しみですね。」

佐為もなんだか自分のことのように楽しそうだ。

「言っとくけどな。絶対邪魔するなよな。」

「そんな野暮なことしませんよ。襲われそうになっても
助けたりしませんから・・。」



佐為の軽口に「塔矢はそんなことしねえよ。」と 
噴出しながら言って 俺はふと疑問に思ったことを聞いてみた。



「なあ 佐為。このノートに俺の想いを書けばさ、それは叶うのか。」

普段より真剣な俺に佐為の表情もまじめな面持ちになる。

「叶いますよ。」

「じゃあそれを消すことは・・」

「塔矢くんのヒカルへの想いを消すと言うことですか・・?」

おそるおそる俺はうなづいた。


「それもできます。ヒカルがノートを手放せばいいんです。
ただしノートを手放した途端塔矢くんもヒカルもノートに書いた
出来事の記憶はなくしてしまいますけれど・・・。」



それは大きなショックだった。
佐為の言葉に俺は動揺の色が隠せなかった
ノートを手放せば塔矢への想いが消える・・・
塔矢も俺とのことを忘れちまうんだ。




俺は落ち着くのを待ってノートを開くと新しいページに
ペンを滑らした。



「俺今日塔矢が電話してきてくれてすげえうれしかった・・・」



ノートにはただ塔矢への想い。
俺の無くしたくない感情だった。



                               

     
      





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