「足立が突き指した!!」
昼休みのバスケの試合前だ。
「ええっ!」
直前まで練習していた足立は和谷のパス
を受け損ねて突き指してしまったらしい。
「今日は不戦敗か・・・」
チームメートの落胆の声 俺は教室を振り仰いだ。
窓ベにいた塔矢と目が合って俺は大きく手を振る。
少し戸惑うように塔矢は返してくれた。
「なあ、不戦敗なんてまだ早いぜ。俺 塔矢に掛け合ってくる!」
「塔矢だって!?」
「不戦敗よりいいじゃん。」
和谷は不服のようだが他の面子は大歓迎のようだ。俺は
教室に向かって急いだ。
息を切らして教室に入った俺に塔矢は驚いて
立ち上がった。
「進藤 どうかしたのか?」
「塔矢頼む。足立のやつ突き指して1人メンバー足りないんだ。
このとおり。塔矢代わりに出てくれ!」
俺は手を合わせ頼み込みのポーズを取る。
「僕が足立くんの代わりにバスケを?」
「そう そう。」
「でも・・」
俺は問答無用とばかりに塔矢の腕を引っ張って廊下を走り出した。
「ちょっと進藤・・」
「お前昨日も今日もバスケ見てたじゃん。ほんとは入りたいんだろ。」
しばらく塔矢の返事には間があった。
「・・・見てたのは君だったんだけどね。」
いつもより少し低い塔矢の声はよくききとれなかった。
「えっ?」
立ち止まりその真意を図ろうと塔矢の顔を見た俺は
反対に塔矢に腕を強く掴まれていた。
「進藤 早くいこう。」と。
動きはけして俊敏と言うわけではないが塔矢はよく見ていると思う。
フリーになった俺にパスを送ってくる。
俺のゴールが決まったあと予鈴のチャイムがなった。
俺らのチームの勝ち!
俺は思わず塔矢に飛びついていた。
いつも俺 誰にでもこういう事しちまうんだけど
やってしまった後ちょっと後悔した。
塔矢が困った顔をしたからだ。
「ご ごめん。俺つい。」
塔矢は照れくさそうに笑っていた。
その綺麗な表情に吸い込まれそうになる。
「こら お前ら何 たそがれてんだ!!早く片付けろ。」
和谷の叱咤に俺は我に返る。
「違うって。勝利に酔ってただけだ!」
午後の授業を告げるチャイムがなる中 俺と塔矢は顔を見合わせて
笑った。

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