番外編 
一緒に暮らそう 18






その後土鍋のおでんを
頬張った後にははやっぱりこの4人には囲碁しかなかった。

「早碁のペア碁にしようぜ。」

そう提案したのは和谷だった。


「和谷ペア碁好きだよな。この間のホテルのパーティのも和谷が
言いだしたんだろう。」

いささかウンザリした調子でオレは言った。

「別にいいだろう。」

「懲りねえよなあ。塔矢と組んで負けたくせに。」

初戦は勝ち上がったものの内容は良いとはとても言えたものじゃ
なかった。

「今日は塔矢とは組まねえよ。オレは伊角さんと組む。」

「ということは塔矢と進藤がペアを組むのか。」

確認までもない気がしたけど伊角に言われてオレは苦笑した。

「まあ、腹ごなしぐらいにはなるか。」

「随分余裕だな。」

「そりゃな。オレと塔矢だし。」

オレの強気な発言に塔矢が苦笑した。

「だったらさ、何か賭けようぜ?」

「和谷お前またそういうことを・・・。」

伊角が言った通りだと思った。だが今回は塔矢がパートナーだし
負ける気はしていない。

「まあ驕るぐれえなら構わねえかな。」

「いや、賭けるっていってもそういうんじゃねえんだ。
勝った方が負けた方に何か一つ命令出来るっていうのはどうだ?
もちろん無茶なことはなし。金品が絡んでくるものもな。
まあオレたちもお前らもそんなこと言わねえだろうけどさ。」

『どうだ?』と聞いてくる和谷にオレは首をかしげた。

「ん・・・じゃあオレたちが勝ったとして和谷と伊角さんに女装しろって言ったら?」

和谷が苦笑した。

「お前まだこの間の事、根に持ってるのか?まあオレはそれでも構わねえけど・・・。」

「えええ?」

和谷の返事に伊角は困惑した。

「オレは・・女装は遠慮したい・・。」

オレは大笑いした。

「伊角さん冗談だって。言ってみただけだから。それで塔矢どうする?」

「僕は構わないよ。」

その発言には塔矢の自信のほどを感じた。

「塔矢がいいならオレも構わねえ。」

軽く投げやりな返事に意味ありげに和谷が笑った。

「だったらオレたちが勝ったら・・・・。」

和谷が伊角に耳打ちした。
伊角が盛大に溜息をついた。

「和谷、そういうのは・・・オレは。」

「大丈夫だってフェアプレーだから。」

その伊角と和谷のやりとりがどうにも気に食わなかった。

「なんだよ。お前ら、気分悪いよな。」

「あ、いや、悪かったな。オレたちが勝ったら・・って話をしたんだ。
先に賭けの内容を言っておこうと思ってさ。」

そう言ったあと和谷は勿体ぶったようにオレを見た。

「進藤、お前さオレたちが帰ったあと塔矢を誘え。」

「さそ・・・うって・・・」

オレは怒りと恥ずかしさで真っ赤になった。

「な、オレはそんな事しねえし・・・。そもそもそんな事誰かに指図されて
するって・・・な。」

言った後、塔矢に対して申し訳ないような後ろめたいような気持ちになった。

「だったらこの勝負降りるか?」

オレは言葉を詰まらせた。
それに苦笑したのは塔矢だった。

「なるほど、動揺させて勝負を有利にしようっていうことか。」

「どういう意味だよ?」

「僕らが負けた時のことを考えたらわからないか?
動揺だけでなく迷いを生むかもしれないと和谷くんは思ったのだろう。
僕はそんな揺すりには動じないけれど、君は・・・?」

「オレ?オレだってそんなの動じねえよ。」

言い返したら和谷に笑われた。

「無茶苦茶動揺してるように見えるぜ。進藤。」

「和谷!!」

和谷を窘めたのはオレでなく伊角だった。

「二人とも本当にすまない。まさかこんなことを和谷が言い出すとは思わなかったから。
賭けっていうのはなしで構わない。」

「いいんだよ。伊角さん謝る必要もねえぜ。さっき進藤と話しててオレは本音聞い
ちまったんだ。」


その本音なら塔矢の部屋に行った時に本人に告った所だ。

「ああもうわかったよ。」

「和谷オレたちに喧嘩売ったこと後悔させてやるからな。
塔矢、絶対勝ちに行くぜ。」

オレは時計をセットすると石を握った。






結局この勝負に勝ったのはオレたちだった。


石を片付けながらオレはやれやれと思った。
多少の思惑は外されたし
向こうのミスに助けられた所もあった。

それでも勝ちは勝ちだった。

渋い表情の和谷が石を片付ける。

「面白い内容だったな。」

賭けのことなど気にせず伊角は純粋にこの碁を楽しんでいたようだった。

「結構いけるかなって思ったんだけどな。オレの読み間違え・・・か。」

頭を抱えた和谷にオレは笑ってやった。

「早碁でオレたち相手にしたには上出来だったんじゃねえ?」

「・・の割には君の碁は荒れてた気がするけど・・・。」

塔矢はオレに多少の動揺があったんじゃないかと言いたかったのかもしれない。
確かに後で考えると無茶な手も多かったかもしれない。だが、それはペアが塔矢だから
出来たともいえる。

「そんなことねえよ。」

「それよりオレたち勝ったんだから好きなこと命令できるんだよな?」

オレは思いっきり上から目線で言ってやった。
散々カラカワレたわけだし。

「ああ、もう好きにしろ」

「腹をくくったみてえだな。」

そんなことを言ったがオレも塔矢も無茶をいう気はない。

「どうする?塔矢、」

「君に任せるよ。」

「だったら、二人に夕飯の後片付けしてもらおうかな。
オレも塔矢も明日からしばらく遠征でさ。
残った『おでん』も持って帰って欲しい。
ついでにコーヒーでも淹れてくれたら・・。」

そんなことか・・・とほっとした和谷にオレは内心笑った。


伊角と和谷が並んでキッチンで後片付けしてる背を見て安堵してるオレがいる。
さっきまで喧嘩してたなんて思えなかった。

オレと塔矢とは・・・
明日からの遠征でしばらく会えない寂しさもある。けれど次に会うときはもっとお互い強く
なってる。

そう思うとすでに10日後が待ち遠しかった。



「なあ、塔矢あいつら片付けてる間もう1局打たねえ。」

「僕もそう言おうと思ってたんだ。」



オレはもう1度石を握った。




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17話の続きからくどいかな~と思ったんですが。どうしても入れたいエピソードだったので
次最終話になるんだろうか。微妙だなあ~





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