白と黒 番外編 一緒に暮らそう 17 塔矢はソファから立ち上がると一瞬の迷いを感じた後オレの隣に腰を下ろした。 存在は近くなったのに見えなくなった表情にオレはどうしていいかわからなくて 下を向いた。 腕を取られ抱きしめられる。 「ヒカル」 名を呼んだ塔矢の想いの強さが腕の力になる。 オレはそれに応えるように顔を上げ塔矢の背に腕を回した。 今ならオレはまっすぐに向かってくる塔矢の想いを素直に受けとめる ことができる気がした。 「お前の親父には敵わねえよな。 オレは・・・・この気持ちはずっと隠し通せる自信あったんだけどな。」 塔矢は左手でオレの顎を捉えた。まっすぐに向かってくる塔矢の瞳が 唇がすぐ傍にあった。 それはホンの手前で止まってオレは固まったように動けなくなった。 「知っていたんだ。君の想いはいつだって。心の奥でずっと感じてた。 君とはちゃんと心で繋がってた。 君はその想いだけで生きていけるのかもしれないけれど 僕は貪欲だから・・・・。」 オレは自分から誘うように塔矢に唇を押し付けた。 「・・・・塔矢、もういいんだ。」 軽く触れた唇がやがて深くなりソファに二人沈み込んだ。 口内を割り塔矢の舌が侵入する。 濡れた舌がそれに触れた瞬間心臓を鷲掴みにされたようだった。 逃げようとしたが狭い口内ではすぐに捉えられた。 もうそうなると抵抗できなくて、快楽を追うように必死でオレは キスを受けた。 体中が力を失い震えだす。 怖くて、ドキドキして塔矢の背にしがみつくと 舌を甘噛みされ、唾液を吸われた。 心臓が止まってしまうと思った。 こんなキスは知らない。以前恋人だったときもこんなキスはしたことがなかった。 まるで行為そのもののようなキス・・・。 塔矢はキスだけなのに執拗で、オレを追い詰めているようだった。 オレがもう限界なのを知ってても、それ以上の行為に及ばなかった。 頭の隅っこにあった和谷たちのことも沸きあがった欲情に消されていく。 もう本当に限界でいっぱいいっぱいで。 荒い吐息と唾液を交換して力の入らない体で塔矢にしがみ付いた。 「あ・・・・・もうオレ」 『降参だ。』と言った言葉は塔矢の口内に消えた。 塔矢の指がオレの服に手がかかった。 オレも塔矢も初めての時のように震えてた。 塔矢の携帯が鳴った。 我に返ったオレは塔矢の背を小突いた。 「と、塔矢・・・。」 それでも退かない塔矢をオレは思いっきり突っぱねた。 塔矢は小さく溜息を吐いてオレから離れた。 「もしもし・・・和谷くん?ええ・・・。」 塔矢の声は今しがたのことなど感じさせない穏やかな口調だった。 引っ込みのつかない熱さが体の芯から火照っていたが、無理やり引かせる ようにオレは慌てて服を整えた。 携帯を切った塔矢にオレは訊ねた。 「和谷と伊角さんどうだって?仲直りしたのか」 「今の会話からじゃわからなかったよ。 でも和谷くんの声落ち着いていたような気がする。 待たせて悪かったと謝っていた。」 「そっか。じゃあ大丈夫だったんだ。ちっとほっとしたな。」 そう言うと塔矢は盛大に溜息を洩らした。 「僕としてはよくないんだけど・・・。」 「あはは・・・。」 先ほどまでのことを仄めかされてオレは苦笑しながらソファ から立ち上がった。 部屋を出る前、塔矢がオレを呼び止めた。 「進藤、君はさっき電話がかかってきた時本当はホッとしたんじゃないか?」 「まあちょっとな。オレもう体も心も限界だったから。 けど、和谷たちのことが気がかりで 後ろめたさはあったんだ。塔矢は・・・・」 言いかけてオレは言い直した。 「お前はどうなんだ?」 「僕は君から求めてくるのを待つつもりでいた。でも・・・僕も限界だった。」 それにオレは苦笑した。 「もう我慢なんてしなくていい。オレはお前を求めてる。」 「ヒカル・・・。」 もう1度互いに求めて唇が触れあった。 オレの部屋に戻ると神妙な面持ちで和谷と伊角さんが座ってた。 「塔矢、進藤気を使わせちまったな。って電話してから早かったけど ひょっとして塔矢の部屋だったのか?」 「まあ、そうだけど・・・。」 「ふう~ん。あんだけ渋ってたくせになあ。」 意味深に笑った和谷が塔矢を見上げた。 「塔矢、部屋で進藤と何か進展はなかったのか?」 それに塔矢が苦笑した。 「ありましたよ。和谷くんから電話がなければ・・・。」 オレは思わず叫んでた。 「ねええ。何もないから!!」 こういう時バカ正直な塔矢に頭が痛かった。 「それよりもさ・・・。」 オレは話題を戻した。 「お前らはどうなったんだよ。」 そう言うと和谷と伊角が小さく噴出した。 オレが誤魔化したこともあるのだろう。 「もうなんだよ。オレは心配したんだぜ?」 「ああ、すまん。すまん。」 和谷は笑っていたので、怒ったなりを見せても内心はほっとしていた。 「伊角さんとちゃんと目を逸らさず生きていこうって話をしたんだ。」 伊角は小さく頷くと塔矢を見た。 「ここに来るときに塔矢と話をして気づかされたことがあったんだ。 塔矢に礼をいいたい。」 塔矢は少し困ったようにほほ笑んだ。 「僕は何もしてませんよ。」 「まあまあ、・・・。」 オレは湿っぽい会話をおっ払うように言った。 「仲直りできてよかったじゃねえか。今夜はパッと騒ごうぜ。 塔矢の誕生日だしな。」 「塔矢の誕生日?そんなの聞いてないぜ。」 吠えた和谷にオレが言いかえした。 「いいの。いいの。今言ったから。」 準備に取り掛かろうとしたオレに和谷が溜息を吐いた。 「はあ、お前な。そんな大事な日にオレたち呼ぶなよ。」 「進藤は塔矢と二人で過ごすのが照れ臭かったんだろ?」 オレの気持ちを伊角はそのまま代弁してくれたが。 本心を言い当てられた恥ずかしさはあった。 「ああ、そうか。オレたち進藤と塔矢に当てられるわけか? オレたちより人前でいちゃいちゃしてるのはお前らの方じゃねえ。」 先日のバーガーショップでの会話を持ち出されてオレは思わず怒鳴った。 「だああ、もううるさい!!」 18話へ
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