白と黒 番外編 一緒に暮らそう 15 和谷たちが来ることになっていた日はオレと塔矢にとって『特別な日』だった。 二人で過ごすことも考えたが、なんとなく照れ臭さがあった。 手持無沙汰でいつもと同じになるのなら、騒いだ方がいいかもしれない。 きっとそんな誕生日も悪くない。 1日オフだったオレは朝から部屋を掃除してデパートに買い出しに出かけた。 街はまもなく迎えるクリスマス色に彩られていた。 店の前には大きなツリーが飾られ夜には点灯されるのだろう。 想像したら北風は寒くても心が温かかった。 塔矢と一緒に見られたらいいな~とツリーを仰いだ。 デパートのショーウィンドで足を止めたカップルに羨ましさと微笑ましさを感じながら オレは目当てのものを買った。 インターホンが鳴ったのは丁度約束の5時だった。 「よお、来たか?」 玄関を開けると予想に反し和谷だけだった。 「あれ、和谷一人?」 「ああ、伊角さんは後から来ると思うぜ。」 和谷の言い方は不自然な感じがして オレは違和感を感じたが和谷を招き入れた。 「まあ、上がれよ。」 オレの後ろから玄関を上がった和谷がいきなり羽交い絞めしてきた。 「なっ、なんだよ。和谷いきなり、」 和谷はケタケタ笑っていた。 「こっちが言いてえ。お前一人暮らしだっていったじゃねえか!!」 「一人暮らしだって、」 「隣だろ!?」 『そんなの聞いちゃいねえ』って言いながら和谷はガシガシオレの首をしめてきた。 「痛えって、和谷」 和谷は笑いながら腕を外してくれた。 「ま、けどよかった。塔矢と上手くいってるみてえで、」 「和谷と伊角さんには心配かけちまったしな。」 「自覚はあったのか?」 オレは苦笑した。 「あるよ。でも和谷が思ってるような関係じゃねえんだ。」 「それって?」 「まあ立ち話もなんだし、座れよ。オレコーヒー入れてくる。」 コーヒーを淹れてる間和谷はオレの部屋を見回していた。 「珍しいものねえだろ?」 「いや、結構広いし綺麗にしてるなって思ってさ。それにいい匂いだな。おでんか?」 キッチンから香る匂いに和谷は鼻をくぐった。 「ああ、今日は寒かったからな。」 「へえ進藤料理もするんだ。やっぱ塔矢の為ってやつ?」 「違えよ。一人暮らしなんだし料理ぐらいするだろう。」 どうしても和谷はオレをからかいたいらしい。 「それで、塔矢とそういう関係じゃねえってまだプラトニックやってるのか?」 「なんでそういう言い方なんだよ。」 「進藤見てたらそうなんじゃねえかと思ってさ。言動がな。」 オレはそれに答える代わりに苦笑したら 和谷の詮索がはじまった。 「あの後二人でホテルに泊まったんだよな?」 あの後というのは当然パーティの後の話だ。 「ああ。」 「塔矢と何もなかったのか?」 何もなかったと言い切ることは流石に出来なくてオレは小さく頷いた。 「チューもしなかったのか?」 露骨な言い方に頷きかけて顔を染めた。 「なるほど、したのか。」 そう言った後、オレを伺うように和谷は笑った。 「キスと熱~い抱擁はプラトニックの内なのか?」 「わ、和谷!!」 カラカワれているとわかっても恥ずかしくて怒鳴っていた。 「お前はそれでいいかもしれねえが塔矢の気持ちもちっとは考えろよ。」 「オレだってもう構わねえって思ってるよ。つうかもう限界だし?」 「なんだよ。だったらさっさとヤっちまえばいいだろう。」 はっきり言われてオレはますます赤面した。 「あのな、そう簡単にいかねえんだよ。」 「あの頃のお前ら理屈抜きでやってたじゃねえか。」 「あの頃があるからだろ。」 オレは盛大に溜息をついた。 「あいつはこの部屋ではするつもりはねえみてえなんだ。」 「それってどういうことだ?」 オレはこの部屋に来たときに塔矢とした会話を話した。 お互いの部屋へ自由に出入りしてもいい。でもあいつの部屋に行くときは覚悟 して欲しい』と言われたことだ。 「塔矢の部屋に行ってねえのか?」 「ああ、」 「きっとお前のこと待ってるぜ?なんてオレが言うまでもねえだろ? あいつの気持ちわかってるならさっさと行けよ。それができねえならこの部屋で誘え、」 「出来るか!!」 「我慢も限界なんだろ?」 オレは言葉に詰まった。 とにかくこれ以上和谷のペースでからかわれるのはごめんだった。 だから話題を変えた。 「ところで和谷伊角さんは?塔矢は6時ごろになるって言ってからもうすぐ帰ってくるぜ。」 「ああ・・・それな、」 和谷はいいにくそうに声を落とした。 「伊角さん今日は来ねえかも。」 「えええっ?マジかよ・・・って和谷何かあったのか?」 今になってオレはさっきの違和感に気づいた。 返事を返さない和谷におそるおそる聞いた。 「ひょっとしてお前ら喧嘩でもしたのか?」 「ああ。」 和谷は少し怒ってるようだった。 さっきの冗談やドがすぎたような『冷やかし』もひょっとするとそれが原因かも しれない、と今更ながらオレは思った。 「えっと・・・珍しいよな。お前らが喧嘩なんて、」 原因を聞いた方がいいのか、聞いちゃまずいのかオレにはわからなかった。 和谷がいいたくないかもしれないし。 「なあ、和谷まあ言いたくねえなら聞かねえけど理由はなんだ?」 和谷は小さく溜息をついた。 「進藤の新居祝いを伊角さんと買いに行ったんだ。あっと、ごめん。お祝いは 伊角さんが持っててオレ今日手ぶらなんだ。」 「そんなのいいよ。」 「その時にオレたちの『将来』の話になったんだ。・・・・オレは真剣だった。ずっと、 なのに伊角さんは・・・。『何も考えてない』って・・・。どういうことだってオレすげえ剣幕で 怒ったら。『もう別れた方がいい』って」 和谷の気持ちを思うといたたまれなかった。 伊角の真面目な性格から考えても腑に落ちない。 「あのな、和谷・・・。」 オレがそう言おうとしたらインターホンが鳴った。 「塔矢か?」 和谷が顔を上げた。 塔矢は部屋に来るときインターホンをならすことはあまりない。 ひょっとしたら・・・。 期待でオレが玄関を開けると紙袋を持った伊角がいた。 「伊角さん!?」 「進藤、今日は招待してくれてありがとうな。」 オレの目にはいつもの伊角だった。 「お、おう、伊角さん和谷先にきてるぜ?」 「ああ、お邪魔するよ。」 伊角を招きいれると 三人の間に何とも奇妙な空気が流れてオレは焦った。 「ま、とにかく伊角さん座れよ。」 オレがソファを勧めると和谷の向かいに腰かけた。 「伊角さんコーヒーでいい?」 「ああ、ありがとう」 オレはキッチンに立ちながらも気が気じゃなかった。 そんな様子は見せまいようにしながらも聞き耳をたてた。 先に口を開いたのは和谷の方だった。 「よくここの場所わかったな?」 そういえばオレは和谷にメールで住所を教えただけだった。 「和谷が置いてくから困ったんだ。丁度進藤に電話掛けようとしたら塔矢と駅で ばったり会ってさ。ここまで一緒に来たんだ。 それにしてもまさか塔矢の部屋の隣とは思いもしなかった。」 伊角が笑っていたが和谷は少し声が震えていた。 「それで一緒に帰ってきた塔矢は?」 「荷物置いて着替えてから来るって。」 伊角さんは普段と変わりない気がした。でも和谷は明らかに怒っている。 どうしていいものかわからないままオレはカフェポッドとコーヒーカップを持って行った。 「伊角さん、コーヒー。和谷はお代わりは?」 「ありがとう、じゃあもう1杯。」 コーヒーを注ぎながらオレはとにかく塔矢に早く来てくれと心から祈った。 16話へ 緋色のつぶやき 以前書いた「白と黒」の中では伊角さんと和谷のこの辺の話も描いているのですが。 この二人に関しては今回飛ばします。 会話の中だけで察してください~(汗)
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