番外編 
一緒に暮らそう 14






仕事で棋院に行く前に駅前のバーガーショップに立ち寄ると
伊角と和谷が座ってた。

いつも仲のよい二人だが、空席が多いのに二人掛けの席だったこともあって
距離感がすごく近い。
目があって軽く手を挙げると和谷が手振りで誘ってくれた。

注文した後トレーを持って行くと伊角が隣の席の椅子に移動してくれた。

「ごめん、和谷、伊角さん。」

「何が?」

「いや、別に。」

二人の間に割り込んでしまったみたいで謝ったのだが、二人は全く
気にしてなかったみたいだ。

「ところで進藤あれからどうだ?」

和谷の言う『あれから』は間違いなく塔矢とのことだ。
身を乗り出す和谷にオレは頭を掻いた。
一体何と言って説明したらいいものか?

あのホテルのパーティ後から忙しかったこともあってオレは二人とはきちんと
話をしていなかった。

「まあ、その・・・何っていうか・・・。」

あはは・・・と笑って誤魔化したオレに和谷が『ふ~ん』と目を細めた。

「ちっとは進展があったんだな。」

「・・そんなじゃねえよ。」

「じゃあ何もなかったのか?」

「和谷の期待するような事はな。」

オレがムキになると伊角が和谷を窘めた。

「和谷、進藤をからかうのもそれぐらいにしとけよ。」

「だってオレたちがひと肌脱いだのに何の進展もなかったらショックじゃねえ?」

「和谷のはただ面白がってるだけだろ。」

「まあそうとも言うな。」

「和谷!!」

「進藤、怒るな。冗談だって」。

和谷はけたけた笑った。
オレはため息を洩らした。


からかわれるのは癪だったが二人にはやっぱり報告しておいた方が
いいだろう。

「実はオレ一人暮らしはじめてさ。」

「へえどこに?」

「和谷のアパートから駅二つの○○。駅前なんだ。」

わざわざそういう言い方をしたのは和谷なら言わなくても気づくかもしれ
ないと思ったからだ。

「○○の駅前っていったら塔矢が住んでた辺り?
ひょっとしてまだあいつあそこに住んでるのか?」

和谷と伊角は一度だけ塔矢のマンションに来たことがあった。
まあまだオレと塔矢が付き合ってた頃の話だが。

「ああ、いるぜ。」

「ひょっとしてあの時みてえに半同棲とか?」

『あの時』と言われたことにオレはカッとなって怒鳴ってた。

「だから一人暮らしだって言ってるだろ!!」

「悪い、悪い。けど直ぐ近くなんだろ?」

「まあな。」

「通い妻?いや押しかけ女房か?」

和谷のつぶやきにオレは呑みこみかけてたハンバーガを喉に詰まらせた。
このせいでオレは同じマンションで隣の部屋だということを言いそびれてしまった。

「ゲぶっ、コほ・・。ゴブ」

「進藤大丈夫か?」

伊角さんがすかさず背中を摩ってくれた。

オレはコーラーを飲んでパンを押し込んでようやく一息ついた。

「だからそんなじゃねえって言ってるのに。」

そう、塔矢とは、和谷のいうような関係には至ってない。
あってもハグするか軽くキスを交わす程度だ。

肩すかしというのか物足りなさは感じてはいる。
別れ際の切なさもある。
けれどそれは「自分からアキラを求めることが出来ない」
オレ自身に問題があるのだとわかってる。

オレと塔矢の5年間の溝はすぐには埋まらない。
だからゆっくりでいいのだと塔矢もきっと思ってる。
ずっと待たせてることに後ろめたさもあるけれど
今はそう言う時間も必要なんだ。

考え込んでると伊角がほほ笑んだ。

「でも二人で話し合って出した答えなんだろう?
進藤よかったら今度オレと和谷を招待
してくれないか。もちろん塔矢もいるときに。」

「ああ、わかった。けどお前らオレらの前でであんまいちゃつくなよ?」

和谷が声を荒げた。

「そんなことしてねえだろ?」

「和谷と伊角さんに自覚がねえだけだから。」

端から見て絶対にわかる。とオレは頷いた。


それから「してる」の「してないの」でもめ出したオレと和谷に伊角さんが
盛大な溜息をついた。

「二人ともいつまでたっても子供だな。」

「伊角さんはどっちの味方なんだよ。当然オレだよな?」

「えっと・・・。」

和谷に詰め寄られて顔を染める伊角にオレは呆れて言ってやった。


「それがいちゃついてるって言うんだよ。」





                                        15話へ

プロットの関係で14話短くなってしまいました。









碁部屋へ


ブログへ