白と黒 番外編 一緒に暮らそう 10 「5年前・・・。 あの頃の僕は君の中の佐為に嫉妬と猜疑心でいっぱいだった。 【君の打つ碁が君のすべて】だと そう自分に言い聞かせようとしていた。 でもどうしようもなくその想いが押さえられなくて君を傷つけた。」 オレは苦しそうに胸の内を明かす塔矢にあの頃のオレたちを重ねた。 「オレもそうだった。」 塔矢は本当はオレを通して幻のsaiを見ていたんじゃないかって。 『初めて会った時から好きだったと思う。』 そう塔矢に言われた時からずっとひっかかっていた。 不甲斐なかった自分が許せなかった。 塔矢はわかっていたのだろう。 小さくうなづいた。 「僕たちの弱さだ。 本音を言えば事実を聞いた今もまだ佐為に嫉妬してる。」 「佐為はもうこの世にいないんだぜ。」 「だからこそ君の心の中に深く刻まれてる。」 そんなことを言われてもだ・・・。オレは苦笑した。 「オレは碁を打つことで今もあいつと繋がってるって思ってるから。」 「それでいいんだ。僕もきみと打つことで佐為とも父ともそして君とも 繋がっているのだと信じてる。」 「塔矢・・・。」 塔矢はまっすぐにオレを見た。 「君に触れたい。」 胸をわし掴まれたようだった。高鳴った胸の鼓動を抑えるようにオレは 拳を握った。 「ダメだ。」 「それ以上は望まない。」 懇願するような叫び声だった。オレはどうしていいかわからなくて 塔矢から視線をそらした。 向かいのソファから塔矢は立ち上がるとそっとオレの左胸に触れた。 服を通しても感じる。 バクバクなってる心音が塔矢を求めて悲鳴を上げてるようだった。 「ヒカル、愛してる・・・。」 耐えることができなくなって抱きすくめられた。 纏った塔矢の体温、触れた肌が震えた。 ソファに押し付けられてオレは目を閉じた。 痛いほどぎゅっと抱きしめられ、まるで一つになろうとするように隙間なく塔矢が オレを埋めつくした。熱い腕、熱い想い・・・吐息。 「ずっとこうしたいと思ってた。」 塔矢はずっとオレを待っててくれたんだ。 いや、今もまだオレのことを待ってくれてる。 それが嬉しくないはずがない。なのにオレはどうして素直になれないのだろう。 オレは震える腕をそっと塔矢の背に回した。 塔矢の腕の力がますます強く、きつくなる。 しばらくそうして抱き合っていたがオレはもう生理的に限界だった。 密着してる塔矢だって同じ状態なことぐらいわかる。 「もういいだろう。」 解放しろと身をよじると唇を激しく奪われた。 もがいたが体重をかけられたこの状態では抵抗もかなわずオレはされるままに キスを受けいれた。長い長いキスに息があがる。 唇が離れた瞬間オレは塔矢を思いっきり押しのけソファから立ち上がった。 「お前な・・・。触れるだけっていったろ。」 オレは唇をわざと拭った。 「・・オレ風呂はいってくる。」 塔矢に背向けた後、このまま逃げ出す事が恥ずかしくなって正直に告白した。 「お前があちこち触れるから収拾つかなくなっただろう。」 背後で微かに塔矢が笑ったような気がした。 「ああ、僕も君を想ってする。」 かっと、体温がいっきに上昇したようだった。 「バカ野郎。勝手にやってろ!!」 逃げるようにリビングから寝室に入ったあと、もたれこみ心臓を抑えた。 どんなに隠そうとしてもとめどなく溢れてくる。 「オレもお前を愛してる。」 抱きしめられた時どうしても言うことができなかった。 「ズルイな・・・・オレ。」 崩れおちるようにそこにうずくまった。 風呂をあがった時には塔矢は着替えていてすでに寝室で寝ていた。 同じベッドに寝ることに少し抵抗は感じたが端をあげた。 端正な塔矢の寝顔が傍にある。無防備でその寝顔にはオレの知ってるまだあの頃の あどけなさが残っていた。 オレはその晩遅くまで寝付くことができなかった。 11話へ
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