番外編 
一緒に暮らそう 7






「塔矢?入るな!!」と叫んだのと塔矢が部屋に入ったのはほぼ同時だった。

「なんで、入ってくるんだよ。」

塔矢はそのままオレの所まで来て視線を逸らした。
その反応がまたどうにも許せなかった。

「なんだよ。笑いたきゃ笑えよ。」

「いや、その、すまない。和谷くんが僕に君のエスコートするように
振ってきたんだ。
『進藤は僕だと嫌がるだろう』って言ったんだけど。
他の人たちがいる手前強く断れなかった。」

事情はわかったが、解せない気分だ。

「それで、オレが拒否ったらどうするんだよ。」

「誰か別の人が代わるようなことを言ってた。」

「和谷のやつやけに絡むな。」

「今日は特に、僕もそう思った。」

塔矢も困ったように溜息を洩らした。

その時、またドンドンと寝室を叩く音がした。


「アキラくん進藤くんまだ?」

芦原の声だ。

「恥ずかしがっててもしょうないやろ。」

「進藤、潔悪いよ、」

社や越智の声も混ざってる。

「だああ、もう。すぐ行く。今すぐ行くからそこで待ってろ!!」




ガヤガヤ押し入りそうな声にオレはいらだった声をあげた。
こんな所に塔矢といてても打開策はない。

こうなったら・・・大きく1歩踏み出した瞬間オレは前に大きくつんのめった。
長い裾を踏んだのだ。
ヤバい!!
バランスを崩した瞬間塔矢がオレの腕を引き寄せた。

「進藤落ち着いて、大丈夫?」

「もうこの裾なんでこんな長いんだよ。」


息がかかるくらい塔矢の顔が近い。オレは茹蛸になりそうだった。
こんなにテンパってたら『意識してない』っていってもただの強がりだろう。
慌てて塔矢の腕をほどこうとしたら塔矢が言った。

「僕に君をエスコートさせてくれないか?」

「えっ?いや、けど・・・。」

ぐらっと心が傾いていくようだった。
ますます真っ赤になる・・・和谷の思惑にそのまま乗るのは癪だ。
だけどそれを逆手にとることはできないだろうか?
やられっぱなしはもっと癪だった。

「ああ、もうわかったよ。その代りあいつらに仕返ししてやるからな。塔矢
協力しろよ。」

オレは自ら塔矢と腕を組んだ。
『もうとことんやろうじゃねえか。』って気分だ。

塔矢は微かに笑って頷いた。







 

塔矢が扉を開けると俺は思い切って歩き出した。
その途端みんなの目線がオレに集まって流石に顔がかっ~と熱くなった。


「マジ!?進藤きれい。」

「うそやろ。本まに女みたいや。」

11名のそれぞれの言葉が俺たちに飛び交う。

和谷がコホンと咳払いをすると声を張り上げた。

「進藤ヒカル嬢はこの男性陣の中から塔矢アキラを選んだようです。」

反撃の機会を伺ってたオレは待ってたとばかりにその言葉に飛びついた。

「和谷待てよ。オレをエスコートしてくれるってのはここにいる全員対象
だったのか?」

和谷が苦笑した。

「まあ、選びてえなら選んでもいいが。
なんなら俺がエスコートしてやろうか。進藤?」

「おお、そうだなあ。」

おれは値踏みをするように和谷の全身を見回した。

今日の和谷のスタイルはカジュアルながらも落ち着いたモスグリーンのシャツと
白っぽいズボンでスリムな和谷にはとても似合っていた。

「スタイルもルックスも悪くねえんだが、、言っちゃあ悪いが俺より碁が弱いってい
うのはポイント下げるよな。」

爆笑がおこりオレは内心笑った。

「お前より強いやつなんてそういねえだろ。やっぱり塔矢になるんじゃねえ。」

そういって和谷は顔を真っ赤にしながら頭を掻いた。
結構オレの反撃が利いたようだっだ。

「そんな事ないぜ。オレ的にはそうだな~。門脇さんなんて好みだけどな。」

いきなり名指しされた門脇が「オレ?」と首をかしげてる。


『また、どうして?』

そう同時に言ったのは冴木と芦原だった。
二人がハモッた後、
芦原が「冴木くんとは気が合うねえ~」とつぶやいたので
部屋はまた大爆笑がおこった。

俺はみんなの落ち着くのをまってからその理由を言った。

「門脇さんって大学も出てるし、社会人としての経験もあるだろ?
このメンバーの中では一番世間を知ってて常識ありそうじゃねえ?」

門脇が得意気に言った。

「進藤君なかなかわかってるじゃないか。囲碁以外でわからない事があれば何でも教えて
あげるから一緒に遊びに行こうか。
なんなら大人の遊び方ってやつ教えるぜ。」

「それはいいな。教えてもらおうかな。」

そんなやりとりを交わしていると和谷が口を挟んだ。

「そこまでいうなら進藤、門脇さんに代わってもらうか?」

「あ~それは勘弁かな。だって門脇さんおじさんなんだもん。
やっぱりエスコートしてもらうのは若い奴の方がいいや。」

「おじさんって言うな。おじさんって、まだ33歳だぜ。」

門脇が頭を抱えてまた爆笑がおこる。

「じゃあさあ、進藤くん、冴木くんなんてどう?」

そう聞いてきたのは芦原だった。
芦原さんも今日は妙に絡んでくる気がする。

「冴木さんですか?」

冴木さんは男の俺から見ても申し分ない兄弟子だった。
ルックスもいいし、碁もうまい。
目上の人への気遣いも出来るし、後輩に対する思いやりも出来る言わば誰か
らも好かれる存在だ。俺は思案して、言葉を選んだ。

「冴木さん悪くないですよ。だって俺いままで冴木さんの悪口って聞いたことないし。
塔矢や俺なんて敵多すぎて、気休まねえ。ただ、冴木さんに
エスコートしてもらったなんて噂が広まると俺もっと敵つくるよ・・・・。
それにオレ冴木さんにかわいい彼女がいるの知ってるし。」

 

オレは取って置きのことでも言うように最後は小声で言ってやった。

「冴木君彼女がいるの?」

隣にいた芦原がすかさず聞き返していた。
冴木は困ったように顔をしかめた。

「なんですか、彼女ぐらいオレにだっていますよ。」

「ふ~ん。」

返した芦原の反応は読めないがどうも心境は複雑なようだ。
すると今まで黙っていた塔矢が横から口をだした。

「芦原さんも素敵な婚約者がいるそうじゃないですか。
母から聞きましたよ。」

塔矢の発言にみんなが息を呑んだ。

「芦原さんに婚約者?」

オレが聞き返すと芦原は塔矢の言葉に焦る事もなく言ってのけた。

「婚約者はいるけど、俺は碁を打つのは冴木くんがいいなあ。
まあ~お互い彼女がいるんだし今度は4人でデートなんてのもいいかも~。」

隣で聞いていた冴木が頭を抱えていた。

「芦原さん酔ってるでしょ!?誤解を招くようなヘンな事を言わないでください
よ。」

俺はそういえば芦原さん結構飲んでいたような気がするなっと思った。

「酔ってないよ。でもなんなら酔っている振りしてここでオレの知ってる事を暴露し
てもいいけど・・・」

みんなが固唾をのんだ。芦原の次の言葉に注目する。
芦原はくすりと笑いを浮かべてまわりの期待に応えるように楽しそうに笑った。

「アキラも小学生のころからずっと好きな人がいるんだよなあ~。」

焦ったのは俺だけでなく隣にいた塔矢もそうだとわかった。
塔矢にしては珍しく顔を見るまでもなく繋いだ腕から動揺を感じた。


「芦原さん!?」

塔矢の様子を笑いながら芦原が言った。

「さっきのお返し。だからね、進藤君、アキラくんはあきらめた方がいいよ?」

ひょっとして芦原さん知ってるのか?
冗談とも本気ともつかない芦原の発言にオレは冷や汗をかいた。

咄嗟に思考をめぐらせ、オレは塔矢の腕をほどくと正面から見据えた。


「塔矢、お前にそんな奴がいたのか?俺と一生碁を打ってくれるっていうからつい
ていこうと思ったのに。悪いけど俺は芦原さんの言うとおりお前のことは諦める。」

悪のりした和谷や社がいう。

「進藤、お前おもしろすぎ。」

「ええぞ。生涯のライバル!」



思い思いの言葉が溢れてあちこちで笑いがおこっている。

俺はなんとかこの場を切り抜けたことを悟って、和谷にもう着替えていいかと
小声でたずねた。

和谷から「O.K」の返事をもらって再びベットルームに入った俺は心底
疲れたと思った。





                                    8話へ

一服。

前に書いた時はもっと越智くんと伊角さんが活躍してたのに(パーティで)。
今回出番がほとんどなかった(汗;)

芦原×冴木(アシサエ?)ぽい所が7話にありますが。
以前お客さまから1度リクエストをもらって書いたこと
があるのですよ。なんとなく思い出して書きました。
(といっても短編でそれっぽいってだけ 苦笑)

次回こそお開きになります~。






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