白と黒 番外編 一緒に暮らそう 6 伊角さんが裕信を送っていくと一旦退出して行った。 「さて、進藤には罰ゲームだな。」 オレはこの時まですっかり罰ゲームのことを忘れていた。 「ええ、あはは・・・。」 笑って誤魔化そうとしたら和谷が強かに咳払いした。 誤魔化して許してはくれなさそうだ。 「それでオレ何するんだ?」 「まあこっちの部屋にこいって。」 『早よ準備してこい。』 『進藤君待ってるよ。』 社と、芦原さんが妙に嬉しそうにオレを追い出しにかかる。 ひょっとしてみんな罰ゲームの内容知ってるのか? 急かされるようにリビングから追い出されて入った隣の部屋は ベッドルームだった。 落ち着いた家具と調度品、それにドレッサー、部屋の中央には妙にばかでかい ベッドが配置されていた。。 その向こうにまだ部屋らしいものがある。バスルームかもしれないが。 「なあ和谷この部屋借りるの大変だったんじゃねえか?」 思わず気になったことを聞いていた。 「いや、伊角さんのお父さんがここの支配人だからさ。平日だし空いてる部屋を 安くしてもらったから気にしなくていいぜ。」 塔矢も同じようなことを言ってたが・・・。 「七星ホテルはスポンサーでもあるし。けど、後で伊角さんとお礼がてら 挨拶に行って欲しいんだけどな。」 「伊角さんのお父さんにか?わかった。」 そんな話をしながら和谷は寝室のクローゼットを開けた。 「それで罰ゲームだけどな。この服をお前に着てもらう。」 オレはそれを見て固まった。 黒のロングドレス?いやズボンみたいなものがついてる。 「和谷冗談だろ。これってドレスじゃねえのか!!」 「いや、ベトナムのアオザイって服らしい。」 和谷がもっともらしいことを言ってもドレスはドレスだろう? 「って女ものだろ、これ」 「そりゃ見ればわかるだろう。」 涼しげにいった和谷にオレは怒鳴った。 「こんなもの絶対着ねえし!!」 「あのな。罰ゲームなんだし気軽に考えろよ。」 「塔矢がいるのにこんなもん着れるか。」 和谷が笑った。 「塔矢がいなけりゃ構わねえのか?つうかさお前随分塔矢のこと意識してねえ? 5年前にお前ら終わってるんだろ。」 オレは顔がかっと熱くなるのを感じた。 「お前のいう関係は終わってる。けど・・・。」 言葉を濁したオレに和谷は怪訝に顔をしかめた。 「いやプラトニックな関係は続いてるんだっけか?」 和谷はさっきのオレの言ったことを引き合いに出して溜息をついた。 「なんでそこまで頑ななんだよ。素直じゃねえっていうか。」 「いいんだよ。あいつもそれでいいって言ってるんだから。」 塔矢がそんな関係に納得しているとは思えない。 だが、一緒に行った因島で「オレがそう望むなら・・・。」と言ったのは 本当だ。 それなのに言い出した自分の方が心乱れてる。 『塔矢もそれでいいっていってるんだったら別にいいけどな。」 和谷は少し怒っていた。 「で、どうするんだ?さっさとしねえとあいつら押しかけてくるぜ。 そういう約束してっから。」 「マジかよ。」 和谷はオレの痛切な問いに笑っただけだった。 「自分で着替えられそうか?なんなら手伝うけど・・・。」 「いいよ。自分でする。」 覚悟を決めたのか、諦めたのか自分でもわからなかった。 「じゃあ5分で着替えろよ。」 そう言って和谷はさっさと出て行った。 一人になるとオレはドレスの前で盛大に溜息をついた。 服は脱いでみたがやっぱり抵抗があり、袖に通すことができず 躊躇していたら ドンドンっと突然ドアをノックされた。 「進藤くん準備できた?」 フクの声だ。 「あ、もう少し待って。」 フクの声に即されるようにオレは慌ててアオザイのズボンに足を通した。」 しばらくしてまたノックがあった。 「入っていい?」 またしてもフクだ。 「いや、だから待てって。」 そういったのに寝室の扉が開いた。 その外で『進藤遅えぜ~』『はよしろ~』という野次馬声が聞こえた。 和谷の言った『押しかける』はまんざらウソじゃなかったのかもしれねえと オレはマジで冷や汗をかいた。 「だから・・・もう!!」 長いドレスの背中のチャックがしまらず焦ってると開いた扉から入ってきたのは 予想に反して奈瀬だった。 「奈瀬?」 奈瀬は寝室の扉を閉めると眉を吊り上げた。 「もう進藤遅いわよ。一体いつまでかかってるのよ。」 オレが顔を真っ赤にしてると奈瀬が笑った。 「にしてもなかなかよく似合ってるわよ。サイズもぴったりだし。 あっと背中のチャックが止められなかったのね。ほら、進藤しゃがんで、」 あまりに恥ずかしくて顔から火が出そうだった。 「出来たよ。今度はこっちに座って、」 言われるままにドレッサーの椅子に座ると奈瀬はクローゼットから紙袋一式 取り出した。 「何すんだよ。」 「このままでもいいんだけど、もう少し女の子らしくしようと思って。」 奈瀬が紙袋から取り出したのはウィッグだった。 「嘘だろ?」 「本気、本気!!」 奈瀬は楽しそうにオレの髪にウィッグを重ねた。 鏡に映ったオレは一瞬でストレートのロングヘアになっていた。 「わわわ・・・。」 「進藤、すごく綺麗・・・。前髪の金髪がいい具合にアクセントになってる。 あとは、化粧とアクセサリを・・・。」 オレは慌てた。 「もういいって。これでいい。」 鏡に映ったオレは自分がみても男とも女との取れぬ風貌だった。 今頃気づいたがドレスにパットが入っていたのか、胸もそれなりにあるように見えた。 凝視できず鏡の自分から目を逸らした。 「ええっ、せっかくなのに・・・・。だったらこれだけはさせて。」 奈瀬はオレの髪に髪飾りの花を飾った。 「うん、うん、我ながら上出来。まだ幼さもあるから女の子みたいだよ。 私よりずっと綺麗なんじゃない。」 そんな褒め言葉はいらなかった。 「奈瀬・・・・。」 相手が女性だから強く拒否出ることができずなされるままになってしまったオレは もうこの時には脱力感しかなかった。 「とりあえず私の仕事はここまでね。」 奈瀬はそういって立ち去ろうとしてもう1度思い出したように振り返った。 「そうだ?」 まだ何かあるのかと固まってると紙袋からサンダルを渡された。 「あとはこれを履いて出てきてね。」 「ええっ?ああ、」 奈瀬は嬉しそうに部屋を出ると、和谷が待っていたのか声が聞こえた。 「進藤の準備できたか?」 「バッチシよ。」 自信いっぱいの奈瀬の声。そのあと戸がしまったから何を奈瀬と和谷が話したのか わからなかった。 潔く自分から出ていかなければならないのだろうか・・・。 靴を履きかえてオレは決心を決めた。 そうするとまた戸が叩かれた。 「ああ、今すぐ行く。」 「進藤失礼するよ。」 扉の向こうくぐもった声の主は間違いなく塔矢のものだった。 オレは慌てた。 7話へ なんだか書いててすごく楽しかったデス。それでついつい長くなって 5話のあとがきに次でパーティお開きになるようなことを予告したのに 終わりませんでした(苦笑) もう少し続くようです(笑)
|