番外編 
一緒に暮らそう 5





「じゃあ次のゲームに移ろうぜ。」

ゲームはこれで終わりだと思っていたオレは「まだするのか、」と溜息を洩らした。

「今度は大丈夫だって。お前の一番得意なものだし。まあ、ここにいるメンバー
みんなだけどな。」

「碁を打つのか?」

「ああ、但し普通だと面白くねえだろ。だからペア碁だ。それも1手20秒の早碁。」

「確かにこの面子だと面白そうだよな。」

「だろ?」

「それで和谷、ペアはどうやって決めるの。ここにはタイトルホルダーもいれば
今年プロになったばかりのやつもいるんだよ。」

そう指摘したのは越智だった。もっともらしい意見だ。

「ああ、それも考えてあるぜ。
高段プロと低段プロとでペアを組むようにくじを作った。
奈瀬、フク、本田、小宮、門脇さんはこっちの箱から。
伊角さん、越智 塔矢 社 芦原さん 冴木さんはこっちの箱から
紙を1枚選んでもらう。」

「おい、和谷オレの名前なかったけど、」

オレが抗議すると和谷が苦笑した。

「進藤まだ説明の途中だって。最後まで聞けよ。」

「トーナメント表も作ったからくじを引いたらこれで対戦チームを確認してくれよ。」

あらかじめ和谷が作ったトーナメント表には名前が書き足せるようになってた。

「進藤には勝ちあがってきたチームと決勝戦で対局してもらう。
ただし進藤にはハンデがあるぜ。優勝ペアにはちょっとした賞品も用意してるからな。」

「おお~」

和谷の『賞品』発言で場が沸いた。

「そしてこれが重要。進藤は負けたら罰ゲームを受けてもらうぜ。」

罰ゲームにオレは苦笑した。負ける気はしてないのだが。
とはいえオレのハンデにもよるが。

「それで、オレのハンデってなんだよ。」

「それはな・・・今年院生になったばかりの子とペアを組んでもらう。」

結構なハンデだよな?って思っていると和谷が付け加えた。

「けど将来かなり有望なんだぜ?」

伊角がそれに笑った。

「将来有望かどうかはわからないが。もうこっちに来るみたいだから迎えに行ってくる。
その間にみんなでくじ引いてて。オレは残ったやつでいいから。」

「おう。」

部屋から退出した伊角にフクが首をかしげた。

「ひょっとして進藤くんのペア碁の相手って・・・?」

「おっフク勘がいいな。伊角さんの弟の裕信だよ。」

「ああ、やっぱそうか。」

「へえ、伊角さんの弟か」

全然知らなかったオレはちょっとわくわくしてた。
相手が院生っていうのもだし、伊角さんの弟にも興味だあった。
将来は本当にライバルになるかもしれない。








注目の対戦は

A 組  社 小宮ペア   B組 芦原 奈瀬ペア

C 組 塔矢 和谷ペア   D組 伊角 本田ペア

E 組 越智 門脇ペア   F組 冴木 フクペア


ぺアが決まり、トーナメントに名前を書き終えた頃、伊角が部屋に戻ってきた。
一緒に入ってきた子はまだまだあどけなさが残る少年だった。
目元が伊角さんによく似てる。

「今日初めてのやつもいるから紹介するな。オレの弟の裕信だ。」

「はじめまして、伊角裕信です。今日はよろしくお願いします。」

ぺこりと頭を下げた少年は少しはにかんで照れ臭そうだった。

「おう、今日はよろしくな、裕信、」

「よろしくお願いします。進藤先生」

オレが手を出すとおずおずと手をだし握ってくれた。



対局がはじまって手持無沙汰になったオレは裕信くんに対局を持ちかけた。
幸いなことにホテルから借りたらしい碁盤がもう1脚あった。






会話がなくなって静かな部屋から碁石を打つ音だけが響く。

裕信と打っているとなんだか昔のオレを思い出す。
佐為と出会ったころの。純粋にただ打ってみたいと思っていたころだ。

無理な石運びもたまにある。だけどはっとするような手を打ってくることもあって
オレはつい自分の立場も忘れてわくわくしてた。

俺と裕信の対局が終わった後は他のメンバーの様子を観戦した。




はじめに勝負が着いたのはA、B組だった。
勝ったのはB組 芦原、奈瀬ペア。

その後越智、門脇組と、塔矢、和谷ペアが勝ち残った。



次の対戦はB組(芦原、奈瀬) 対 C組(塔矢 和谷)

越智、門脇組は不戦勝となった。



対局を見ながら検討にも熱がこもる。
塔矢と和谷ペアはどうもつなぎが悪い。逆に芦原 奈瀬は先ほどの対局でお互いの
呼吸をつかんだように流れに乗っていた。

結局塔矢と和谷は中押しで負けてしまった。



頭を抱える和谷がため息混じりに次の対局を伝えた。。

B(芦原 奈瀬)対E(越智 門脇)

最終局は越智と門脇に軍パイが上がった。


俺は対局が始まる前に裕信に小声でアドバイスをした。

『理屈でなくて感覚で打てな。勝ち負けなんか気にしなくていいからな。
石の流れだけを感覚で捉えるんだ。わかる・・かな?』

「なんとなく、」

「なんとなくわかれば十分だ。よし打とうぜ。」


俺の言った事を飲み込んだ上で打ちこんでくる。

俺は難しい手は避けて意思を合わせるように対局した。
それが、逆に越智と門脇の意表とついたのか、それとも俺の方に秘策があるとでも
思ったのか慎重になった二人の運びは重かった。

かなり良い所まで言ったんだが、ヨセの判断ミスで大差がついて越智と門脇ペアに
負けてしまった。
俺は悔いは残らなかった。


「裕信、この対局どうだった?」

「面白かったです。オレのせいで負けたけど。」

「負け碁は勉強になるんだぜ?俺もおもしろかった。
ありがとうな。また一緒に打とうぜ?」



そういうともう一度オレは裕信とと力強く握手を交わした。





                                       6話へ


オリジナルキャラの伊角さんの弟は今年○生になったうちの子から
取りました(汗:)

そういえばヒカ碁の1巻でアキラくんが日頃から碁石を持つ人は爪がすり
減ってるようなことを
いってたので二男の右指を見せてもらいました。爪短え!!全然ない!?

でも『オレ長考する時爪かじる癖があるから』・・って(苦笑;)

結局その真意はわかりませんでした







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