白と黒10

 



そういって前置きしてからオレは話し出した。



幽霊の佐為と出会ったじいちゃんのお蔵でのこと。
佐為が碁に興味を持たないオレにとり憑いてひどくショックを受けたこと。
オレに取り憑く前に秀策に取り憑いていたことも。

碁会所で塔矢と2度碁を打った相手が佐為だったこと。3度目は途中で
オレが代わって塔矢にひどくののしられてショックを受けたことも。

正体のバレないインターネットで佐為に碁を打たせていたことも。
新初段シリーズで塔矢名人と打ったのは佐為であったこと。

佐為がずっと塔矢名人と打ちたがっていたことも。

そして名人とネットで打った後、佐為が消えてしまったことも。
オレがここに佐為を探しに来たこと。
佐為が消えてしまった失意で碁をやめようと思ったことも塔矢に話した。





オレの話を塔矢はずっと耳を傾けてただ聞いてくれた。
やがて話が終わると、穏やかに言った。

「佐為がなぜ君の魂に惹かれたのか僕にはわかるよ。君に才能があった
だけじゃない。僕と引き合わせるためだったんだ。」

オレはそれに苦笑した。
そういえば塔矢先生も同じようなことを言っていたなと思い出す。
『佐為が千年もの間存在したのは私と打つためだった。」と。

「こんな非現実なことお前は信じてくれるのか?」

「正直驚いてる。でも不思議と素直に受け入れてる。
君の言うことがうそだなんて思えないんだ。それに
思い当たるふしがありすぎる。」


「塔矢先生が亡くなった時にオレたち同じ夢をみただろう。あの時さ、塔矢先生と
対局していたのは佐為だったんだ。」

「あの見事な打ちまわしの白は佐為が打ったものだったの?」

「ああ。覚えてないなんてあの時は嘘をいっちまったけど。
あれはオレのそうだったらいいなっていう願望が見せたものじゃねえかって
思ってさ。
けど、お前も見たっていうならそうだったのかもしれねえよな?」

「進藤・・・。」



塔矢は秀策の墓前にしゃがむと手を合わせた。
オレもそれにならうように手を合わせた。


しばらくそうしてから立ち上がった塔矢はゆっくりとオレを見た。


「僕も君に話したいことがある。」

塔矢の顔は今日の青空のように晴れ渡っていた。
その横顔に胸がドキっと高鳴った。何を期待してる?オレは・・。

「何・・だよ。」

声が微かに震えていた。

「君を愛している。これから先ずっと僕と一緒に生きてくれないか。」

それってまさか・・・。高鳴った鼓動で心臓が壊れそうだと思った。

「お前何言ってんだよ。」

「昨日の本因坊戦、僕は君に完全に読み負けた。
悔しかった。本当に・・・。だけどそう思う反面嬉しいとも思ったんだ。
強くなった君が。
僕はずっとこの日が来るのを待っていたんだ。」

どきどき胸の鼓動が早くなる。どうしよう。
嬉しいと一瞬でも思ってしまったオレは自分を責めるように胸を押さえた。


「無理だ。」

「どうして・・・?」

「それは・・・だって。」

「まだ君は恋人ではライバルになれないと思っているのか?」

「いや、でも・・・。」

明確に拒絶できないでいるオレに塔矢は畳み掛けてくるようだった。


「君はあの時僕に言ったよね。『お前が好きだ。』『どこにも行くな。
ずっとオレの傍にいろっ』て。」

夢の中でオレが言ったことを言われてオレは顔を真っ赤にさせた。

「あれは僕の願望が夢の中の君に言わせたものなのか?」

先ほどのオレの話を引き合いに出されてオレは言葉に詰まる。
胸が痛い。塔矢を好きだって堰き止めていた想いが溢れ出るようだった。
けどこの5年ずっと押さえてきたんだ。この想いは・・・。

「あれは・・・オレの本心だ。」

絞り出すような声だった。

「だったら、」

これ以上逃がさないとオレの腕を掴んだ塔矢を拒否するようにオレは顔を横に振った。
だめだ。流されちゃ・・・。

オレは歯を食いしばってその手を払いのけ、塔矢との距離を取った。


「進藤!!」

「オレは・・・・
オレは今までだって、お前と一緒に生きてきたと思ってるぜ。」

そうだ。出会った時から。恋人として・・・。別れた後も。ずっと・・・。
オレはお前と生きてきた。

「この先もずっとお前と一緒に生きていく。碁盤を挟んで、勝って負けて笑って泣いて。
今見てえに悩んで。
お前とそうやって淘汰していきたいってオレは・・・思ってる。」


我ながらズルい言い方だったかもしれない。
塔矢はそれに耐えるように目をつぶった。




「君はそれでいいのか?」

そう言った塔矢は微かに震えていた。

「いいも何もそれって究極だろ?」

塔矢の想いを振り切るようにオレは空を見上げた。


「オレたちここから再出発だな。」

「ああ。」




塔矢も高い空を仰ぐ。
どこまでも続くこの道の高みを臨むように・・・。




遠くで汽笛の音が聞こえていた。


 

                                             
                                             完
                                                                      
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あとがき


ここまで読んでくださった皆さんありがとうございます。
自己満足といえ完結することができたのは
通って読んでくださったお客様がいたからに他なりません。
以前このお話を書いたのは2003年。かれこれ9年も前になります(月日が経つのが早え;)
それも初めての長編小説で処女作だったんですよ(笑)
それを今回ほぼすべて書き直しました。

それで今までヒカ碁はさんざん色々やってきましたが『白と黒』は
改めて私のヒカ碁の2次小説の原点だったな~
と感じました。
そして今一度書く機会が出来たことが嬉しかったです。

そういえば『続BOY&GIRL』の連載途中、いきなりの思い付きでこちらを
書き始めてしまったんですが。あちらも確かアキラくんとヒカルは因島デート?
の最中でした(汗)
もし待ってくださってる方がいたらすみません(汗)


残す番外編はちょっと甘くて、今までより軽いお話の予定(!?)です。
サクサク書けそうな気がするのですが。
果たしてこの二人甘くなるのでしょうか?思った以上に
ヒカルが頑なで二人の関係が修復してないような・・・。
正直不安だなあ(苦笑)

まあこの二人の先行きは書いてみないとわかりませんが(笑)
気になる方は番外編もお付き合いくださいね。   

                                   2012 3月  堤緋色







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