白と黒 その日の夜1 伊角さんを和谷のアパートに置いて出てきた俺は振り仰いだ。 和谷の部屋から明かりが漏れている。 今日は伊角さんと本田さんのプロ試験合格祝いを和谷の部屋でやった。 ワンルームのボロ狭い和谷の部屋に奈瀬にフクに小宮の院生組とオレと和谷、 本田、伊角。 (流石に越智は誘ったがこなかった。) プロ試験で悔し涙を飲んだ3人も、心から祝って、来年こそは自分もって 決意を新たにして帰ったあと。オレは伊角さんだけを置いてアパートを出た。 今あのアパートに残っているのは伊角と和谷だけだ。 さっきまで仲間と騒いだり笑ったりした時間が一人になった 途端に火が消えたような気分だったが でもこころの中はなんだか満足感で満たされてる。 伊角さんも和谷もそれぞれ目指した道は一緒でこれからも同じ道を歩いて いく。 それは変わらない。 でも、自分だけが蚊帳の外にでちまった感じはどうしても否めない。 ヒカルはそう思った自分に苦笑した。 『和谷がんばれよ!!』 心の中でそうつぶやくと駅までの道のりを足早に歩いた。 駅前まで来た時にメールが入った。 誰だ?こんな時間に。 携帯を広げたオレは目を丸くした。 『塔矢から?』 塔矢がオレにメールするなんて珍しいことだった。 大抵は会った時に用件をすませることが多いし。 『明日仕事が入って碁会所に行けなくなった。すまない。 塔矢 アキラ』 用件だけの簡素なメールだった。塔矢らしいと言えばらしいメールだ。 『わかった。』 それに負けず劣らず簡素な文面を送信しようとしてヒカルは指を止めた。 そういえば・・・塔矢のやつこの間、『今は一人で家にいるからいつでも連絡 していい』って言ってたっけ? 明日検討できねえなら今からできねえかな? なんとなく今のヒカルは家に帰りたい気分ではなかった。 でも、流石に10時前じゃ、家に塔矢1人でも迷惑か? きっと『今から打たないか。』なんて誘えば塔矢のやつに 「君は常識ってものがないのか・・・・」 なんて説教でも食らうんだろう。 そんな塔矢を想像してヒカルは思わず苦笑した。 「それもいいかもな。ダメもとで電話してみっか。」 独り言をつぶやいてヒカルは文面を閉じた。 携帯をならすとすぐに塔矢が出た。 『もしもし進藤・・?すまない明日は仕事が入って・・・。』 「いや、それはいいんだけどさ?今からでも打てないかな・・・なんてって思って。」 『今から?』 怪訝に聞き返されてヒカルは焦った。 「あはは、やっぱ夜に突然すぎたよな。わりい。それじゃあまた今度な、」 怒鳴られる前にヒカルが携帯を切ろうとしたら慌てた様に塔矢が言った。 『君は今どこにいるんだ?』 「○○駅の前だけど・・・。」 『わかった。僕の自宅でいいなら打とう。』 「ええっ?ああ。」 『そこからだと10分ぐらいはかかるな?駅まで迎えに行くよ。』 「わかった。」 通話が切れた後、ヒカルは怒鳴られなかったことに気が抜けてしまうほどだった。 予想だにしなかった塔矢の返事とこれからの対局に心が弾む。 何だかんだ言ってても塔矢との対局が一番心が躍るのだ。 2話へ
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