交差点15

 



「まさかこれがハナから目的だったのか?」

呆れたオレに塔矢は微かに笑ったような気がした。
真っ暗な部屋で表情はわからなかったが。

「そうだな。君に逢うための口実だった。」


それは下心が最初からあったと言っているようなものだった。
それに碁会所にこんな部屋があったことも知らなかったオレにしてみれば
確信犯だ。

「お前な・・・。」


溜息と憎まれ口をたたいてはみる。
でも・・・オレだってそう思ってたんだ。






外は夕方から細雪が降り続いていた。
東京も久しぶりに積もるのかもしれない。

『家に帰れない口実になるかな。』

そう塔矢が言った時からどこか期待していた。いや、本当は年賀状を見たときから
こんな予感はしていたんだ。

それに・・・・帰りたくなかった。





寒いと思ったのも、流されることに抵抗を感じたのもはじめだけだった。


「ヒカル・・・。」


耳元でささやかれた声に胸が震えた。

今オレを求めてるこの手が塔矢だなんて。
甘くかかる息も、触れあった肌も、全て。

電気を消した暗闇の中に街の明かりがカーテンから漏れる。
まるでその僅かな明かりからも隠れるようにオレたちは
その体をお互いに埋める。


オレは躊躇しながらもその手を塔矢の背に回した。

「アキラ・・・。」


ますます加速していく想い。
もっともっとと乞うように互いの唇を貪りあう。

じれったく触れた下半身にたまらなくなって僅かに動かすと
塔矢が逃がさないようにオレの腰を引いた。

「ああっ・・・。」


まるで自分の声とは思えない声が口元から漏れる。

「ヒカル・・・。」

塔矢がゆっくりと腰を動かす。
恥ずかしさで体が熱にうなされる。

もどかしいその動きに耐えられなくなってオレも腰を動かしていた。

そのあとはやっぱりわけがわからないまま吐精していた。






荒かった息も落ち着いてきた頃、塔矢がおずおずと
体をずらしてきた。それだけで隙間が出来て冷たい冷気が
二人の間に入ってくる。


「このまま同じ布団にいても構わないだろうか?」


塔矢はこの間オレが『同じ布団じゃ気になって寝れない』
と言ったことを気にしてくれたらしい。

「いいよ。寒いし。それに・・・。」

言いかけたことを口にしまおうとしてやめた。

「お前を感じるから・・・・。」

オレは離れてしまった塔矢に自ら体を密着させた。

どちらとも求めるようにキスを交わす。それは長いキスだった。
唇が離れた後、塔矢は今度はオレの首筋に唇を這わせた。
ちゅっと軽く吸われてオレは慌てて塔矢を引きはがした。
また欲情してしまいそうだったし、何よりこの間のことを思い出したからだ。

「バッ、やめろって。お前この間オレの体に痕つけただろう!!
後ですげえ大変だったんだぜ。」

そういった後、オレは今日は大丈夫だろうな?っと
今更ながら心配になって首筋に触れてみた。
触れたところでわかるわけはないのだが・・・。

そして本当に今更ながら
至近距離も至近距離の塔矢の顔に照れくさくなって天井に視線を移した。




「すまなかった。僕の配慮がたりなかった。」

アキラは謝罪したがオレはそれだけではどうにも怒りが収まらなかった。


あの翌日、和谷に見つかって相手が塔矢だってばれたし、家でも学校でもしばら
く服装や着替えに気を使った。

一番やっかいだったのは柔道の授業だ。(冬季でプールがなかったことだけは
幸いだったが。)
仕事のせいにして体育授業をズル休みしようかとホンキで思ったんだ。
和谷の助言で中にシャツを着て授業を受けたが。
正直本当に勘弁してほしい。

「ホント大変だったんだからな。なんならお前にもつけてやろうか?」

『どれだけ気を回さねえといけなかったか・・・。』そう愚痴るとアキラが苦笑した。

「わかるよ。君だって僕につけただろう。目立つところに。おかげで緒方さんに
君との関係を知られてしまった。」

「えっ?えええ!?」

あまりに驚いてオレは布団から飛び出しそうになったが触れた寒気に
布団に押し戻された。
そういえば・・と思い出す。寝てるときに冗談半分で塔矢の首筋にキスして。
あれぐらいで後がついたのか・・・。

「それで・・・って。なんで相手がオレってバレたんだよ?」

「そういうことにはやたら勘が働くみたいなんだ。あの人は、
『相手は進藤か?』って聞かれて『違う。』と言えなかった。」

沈痛な想いだった。
またあの人に弱みを握られたんじゃ・・・。
そんなオレの感情を塔矢は感じたんだろう。
大丈夫だと笑った。

「他言はしないと言っていたよ。今後君にも自分から声をかけない
ようにすると言っていた。」

「ホントか?」

「ああ。そういうところは大人だなって思うよ。
僕にも君とのことは誰にも言えないだろうから相談しにこいって。
聞くぐらいなら聞いてくれるそうだよ。」

オレは苦笑した。

「そっかあ。」


オレはとりあえず安堵した。けど塔矢はオレのことを緒方先生にに相談するかも
しれないってことだ。
それは内心複雑かもしれない。


「実はな、オレも和谷と伊角さんにバレちまって。」

「相手が僕ってことも?」

オレはうなづいた。

「研究会の時に、和谷にキスマークのこと指摘されてさ。
幸いにも和谷の気転で先生たちは誤魔化せたからよかったけど。その後は散々で。
和谷の奴に『お前昨夜、塔矢の家行くって行ってなかったか!?』って
すんげえ剣幕で押しまくられて。あいつも勘がいいから。」

「僕は和谷くんにあまりいいようには思われてないだろうから。
すまなかった。」

ヒカルは思わずそれに苦笑した。
塔矢もそれなりに自覚していたようだ。

「いや、でもさ。オレとお前のこと理解してくれたぜ。実は・・・。」

と言ってからオレは少し迷った。塔矢には和谷たちのこと言っても大丈夫だよな?
けど二人の笑顔を思い出して言葉を続けた。


「和谷と伊角さんって付き合ってるんだ。って絶対他言すんなよ。」

「付き合ってるって?」

「だからさ・・・。」

照れくさくなって声が小さくなる。

「オレたちみてえにっていうか・・・。」

それには塔矢もかなり驚いたようだった。

「そうなの?」

「うん、だから。今度は研究会にお前を絶対連れてこいって言われたんだ。」

「ありがとう、お邪魔してもいいなら。」

「よかった。嫌だっていわれたらどうしようかと思ってたからさ。」

塔矢はそれに小さく笑った。

「どうして?」

「だってオレが和谷の研究会行くっていっても興味しめさねえだろ。」

「それは僕が立ち入っちゃいけないんじゃないかと思ったんだ。君たちは院生の時から
仲がいいのを知っていたし。同期だから。それに僕は和谷くんからはあまり良くは思われてない
だろうし。」

「なんだ。」

わかってしまえばどうってことはない。
オレは布団に、塔矢の肌にくるまった。

とっても温かい。
傍にいる塔矢にドキドキするのに、そのまま眠りに落ちていきたい。
そんな心地よさがあった。


「なんかここから出たくねえな。」

「僕もだよ。怠惰だろうか?」

怠惰の意味がオレにはよくわからなかった。けど・・・。

このままずっとこうしていてもいいと思うほど温かい。

カーテンの向こうはわからないが外は雪が降り続いて
いるのだろう。





布団と塔矢の腕を感じながらオレは急に襲ってきた眠気に身を任せた。


雪・・・・か?

オレは2年前、棋院の帰りに佐為とはしゃいだ日のことを思い出していた。
あの日も雪が降っていたんだ。

『佐為・・・・。』

もしお前にこんなこっ恥ずかしいところを見られたらオレ死ぬほど
恥ずかしかったろな。

それでもお前だったら何も言わず笑ってくれた気がする。
なんぜオレより先にオレの本心を見抜いていたんだから・・・。

目をつぶると
オレと佐為と塔矢が雪の中3人で並んで笑っていた。
なし得なかった過去。
もう2度と戻らない日々。

そしてこれからのオレの未来・・・。



「さ・・・い・・・。」


「ヒカル・・・・?!」




オレを抱きしめていた腕の力が強くなる。
オレが意識があったのはそこまでだった。



                                         →3章 白と黒1へ


あとがき


すみません。最後の方ずるい書き方になってしまいました(滝汗;)

えっと書きながら超短のフォレストと状況がカブってしまって書き直してみたんですが。
結局あまり代わり映えしなかったです(泣)
フォレストは現在うちのヒカ碁2次小説置場にあります。興味のある方はよかったら(苦笑;)

2章の交差点はここまでになります。次回から3章の白と黒になります。実は白と黒で
本編は終わりだったりします。後は番外編なんです。

前回表現できなかった想いを丁寧に書いていけたらと思ってます。






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