交差点1

 



「アキラくん、本当に進藤と一緒とは、少し驚いたよ。」

塔矢がオレを伺うようにチラッと見た。
顔をしかめたオレは『話が違うだろう』と塔矢に目で合図を送った。

そうすると塔矢はつかつかと玄関を出た。

「緒方さん、おはようございます。迎えは電話でお断りしたはずですが。」

オレはその間に足早で二人の横をすり抜ける。

「塔矢、オレ帰るな。仕事頑張れよ。それじゃあ緒方先生失礼します。」

早口に言って立ち去ろうとしたオレの腕を先生が引っつかんだ。

「進藤、帰るのか?アキラくんから聞かなかったのか?」

「研究会の事だったら・・・。」

オレが言う前に塔矢が割って入った。

「電話で進藤に伝えてほしいと言った伝言だったら伝えましたよ。
それに研究会の件もきちんとお断りしたはずです。
だいたいそういった態度が進藤に怖がられる
要因を作っているのではないですか?」

気配で塔矢がすごく怒っているのだとわかった。
オレは先生と塔矢の間で固唾を飲んだ。

出来ればすぐにここから立ち去りたい気分だ。

緒方先生は『やれやれ』と言うとオレの腕を開放した。

「オレは進藤に一局相手願いたいだけなんだが。そんなに怖がられてるとは
思わなかった。悪かったな。」

それがオレに向けた謝罪だとわかってオレはペコリとお辞儀した。

「先生対局はまた今度な。塔矢ありがとう。」

「まあ、そう急くな。どうせ駅まで行くのだろう。二人とも車で送っていってやるから。」

そう言われてしまうと断る理由が見つからなかった。

「ありがとうございます。進藤それじゃあ一緒に乗っていこう。」

塔矢がオレの肩をポンポンと叩いた。かばってくれたのだろう。

後部座席に乗り込むと先生が車を発進した。

「それにしても二人で良く打ったりするのかい?」

「ええ、最近の話ですが。」

「進藤は昨日泊まったんだろう?」

「うちに泊まったのは昨日が初めてですよ。」

緒方はオレに聞いたのだろうが、答えたのは塔矢だった。
もっとも割り込むと絡まれそうで口を挟みたくなかった。


駅に近づくと塔矢が小声で言った。

「来週碁会所にはこれる?」

来週は週末も塔矢とは約束をしていたが、それとは明らかに違うような気がした。
緒方先生の前だからわざと約束を取りつけようとしているような?

「いつもの木曜日だったら。手合いの後な。」

「わかった。」

駅に着いてオレが下りると先生に向かって一礼した。

「送ってもらってありがとうございました。」

「ああ、進藤、アキラくんとばかりつるんでないで、オレとも付き合え。
うまいもんでもご馳走してやるから。」

「まあ、うん。そのうちに・・・。」


オレはそれに乾いた笑いを浮かべて誤魔化すしかなかった。





車内に二人になると緒方の詮索が待っていた。

「アキラくん、いつから進藤と仲良くなったんだ?」

「仲良く?ですか。そんなんじゃないですよ。ただ緒方さんほどにも避けられては
いないと思いますが。」

「アキラくんも言うねえ。」

緒方は苦笑した。
アキラには緒方が何を考えているのかわからなかった。
進藤をからかいたいだけなのか?それとも別に意図があるのか?

まさか自分の感情まで気づかれているとは思わないが、緒方は侮れない所がある。

「アキラくん、進藤のことで少し話がしたいんだが。研究会の後時間を取れるかい?」

進藤の話なら今でも出来るだろうに緒方はワザワザ時間を割くような言い方をしてきた。

「3時から棋院で別の仕事が入っています。」

「研究会が終わったあと2時間ぐらいなら大丈夫か?」

「ええ、構いませんよ。


進藤のこととなると僕が断るらないと緒方は踏んでいたようだった。
それがまた気に食わなくもあったが。

だがアキラも黙っている気はさらさらなかった。それに進藤が絡んでいるとすれば
尚更だった。





                                           交差点2へ

一言

今回から2章の交差点に入ります〜。
一人称から三人称に変わるあたり読みづらくなっててすみません(滝汗;)







碁部屋へ


ブログへ