いつか 9
深層深くアキラはヒカルの声を聞いていた。
僕がこの手に触れたのは誰だろう。
触れたはずのヒカル
求めていたのもヒカル
だが、僕に目を覚ませと言ったのもヒカルその人だった。
無我夢中で手を伸ばし求めようとした。
手離したくなかった。ヒカルを・・・
意識を手放す前にアキラはヒカルの声を聞いた。
・・・・アイシテイルと。
アキラが目を覚ますとヒカルが心配そうに覗き込んでいた。
「アキラ大丈夫か？」
問われて小さくうなづいた。
体は軽く彼の温かさを纏った体はなんとも心地よかった。
「よかった。」
そういったヒカルの表情は疲れていた。
「君が僕の体を癒してくれたんだね。」
「うん。夜だから力うまく使えなくて。」
アキラはいいやと首を振った。
「眠っている間 君を感じてた。」
アキラは上半身だけ起き上がるとヒカルの肩をそっと抱いた。
「すまなかった。彼を君と間違えるなんて。」
慌ててヒカルが顔を横に振った。
「そんな事いいよ。あいつと俺は似てるから間違って当然だって。」
似ているなんてものではなかった。瓜二つ いやヒカル自身だと
思ったのだ。
仮に今もし彼がここに現れてもアキラにはヒカルと見分ける
自信はない程に。
「彼は君の何？」
「えっと・・・・そのまあ 兄弟・・・かな。」
無難な答えを探し当てたようにそういったヒカルの返事はすぐに
うそだとわかった。
それを見透かされてヒカルは困ったように下を向いた。
何もこたえてくれないヒカル。
だが、僕はもうそれでもいいとさえ思っていた。
先ほどもう一人のヒカルにとらわれた時に確かに聞こえた
彼の叫び声をアキラは知っていた。
アキラはヒカルを抱いていた肩に力をいれて自分へと向かせる。
ヒカルは恥ずかしそうに下を向いたがアキラはそれをゆるさず
ヒカルを見つめた。
「お前の心の中は俺の事ばかりだ。」
「君は人の心を読むのか？ずるいな。僕は君の事を何も知らないのに。」
「ご ごめん。俺普段は人の心読まないようにしてんだけど
お前の声すごく大きくて・・・それで思考が勝手に入ってくるんだ。」
「さっきから僕を見てくれないのはそれが理由なのか？」
アキラはヒカルに欲情していた。それは先ほどとは違い自然に
湧き上がる感情だった。
頬を染めてヒカルは小さくうなづいた。
「お前 俺とそういうことしたいのか。」
アキラは声に出さず心の中でヒカルを思い思考でヒカルを
抱いた。
どうしてよいのかわからないという具合にヒカルは身じろぎし
アキラの腕から逃れようとする。
「だめなのか。」
「さっき 死にそうになったんだぜ。お前。」
「君も僕の命がほしい？」
「俺はそんなもの望みはしない！」
「僕は君にだったらこの命をあげてもいいと思ってる。」
アキラはヒカルに唇を強く押し付けると硬いベットに押し倒していた。
「あ アキラ・・・」
ヒカルの声をアキラは唇でふさいだ。
暗闇の部屋の中にヒカルの美しい肢体だけはうっすらと
浮かび上がる。
「きれいだ。ヒカル・・・」
その後の二人には会話はなかった。
激しい喘ぎ声ときしんだベットの音だけが部屋を支配した。
アキラは想いの丈のすべてをヒカルへとぶつけた。
心を覗かれても嫌だとは思わなかった。
このままの僕を見て欲しかった。
激しい情交の後の甘い時間。
アキラはそっとヒカルの金の前髪にキスを落とすと耳元に囁いた。
「ヒカル この城をでよう。僕と一緒に塔矢城に行こう。」
ヒカルは顔を横に振った。
それはアキラの予想の範囲だった。
「僕は もう君と離れたくないんだ。」
「ごめん。アキラ 俺 お前とは一緒に行けない。」
「なら 僕がここに残るしかないな。」
「なに言ってるんだ。お前は国守だろ。そんな勝手なこと。」
「国守の変わりは他にいる。だが、君の代わりをどこにも
いない。君がこの城を出ないというなら僕が君のそばにいるよ。」
そういうとアキラは自分の右手薬指にあった指輪を抜いた。
青龍家の宝碁盤と同じクリスタルの指輪。
それは代々青龍家に碁盤とともに伝わる指輪だった。
アキラはヒカルの左手をやさしく取るとその薬指に指輪を
通した。
「この指輪は・・・！！」
ヒカルは驚いたように自分の指にはめられた指輪を見つめた。
「お前この指輪・・・どうして。」
ヒカルの手は震えていた。
「僕の母が父から結婚するときにもらったと言っていたけれどどうかしたの。」
「ええ？ああ そうなんだ。でもこんな大事なもの俺もらえねえ。」
アキラは指輪を引き抜こうとしたヒカルを制した。
「ヒカル約束してほしい。僕は一旦ここをでる。どうしても
城に戻ってやらなきゃいけないことがあるんだ。
だけど必ずここに戻ってくる。絶対にだ。ヒカルお願いだ
僕の記憶を消さないでほしい。そしてもう一つこの城の扉を
閉じないでほしい。」
アキラは本気だった。
ヒカルはそれが叶わぬとわかってもうなづく事しか出来なかった。
あと残り２話です。もうしばらくお付き合い下さい。