いつか 7 アキラが、向かった先は和谷が城主を務める朱雀城だった。 朱雀城についたのはもう日が傾きだした時刻だった。 「アキラさま 何事ですか。」 突然のアキラの訪問。 しかも護衛もつけず息をきらし 顔を高揚させたアキラに和谷は少なからず おどろいた。 「和谷 朱雀の宝碁盤を見せてほしい。」 切羽詰ったものを感じた和谷はすぐにアキラを伴って朱雀城の 南の塔へと足をすすめた。 南の端の塔の天辺に朱雀の宝碁盤は飾られていた。 朱雀の碁盤はルビーでできた燃えるように赤い緋の色だ。 アキラは無言でそれに触れた。 まるで青龍のどこまでも澄んだ青の碁盤と対をなすように それは熱くアキラに浸透していく。 「アキラ様 割れた所ならもう なにも・・」 和谷が言い終わらぬうちにアキラは宝碁盤を持ち上げて振り上げた。 そして床に打ち付けるようにそれを投げつけたのだ。 がりっと音をたてて砕けたのはレンガの床の方だった。 「気でも狂ったかアキラ。」 ちぃっと舌打ちしたアキラはすぐさま碁盤を取り上げた。 アキラの所業に和谷は慌てて宝碁盤を拾おうとしたがそれは先に アキラにこされてしまう。 「この塔から下へ落とせば碁盤も割れるかもしれん。」 塔の下は見晴らしのよい原っぱだった。 「なにすんだ やめろ!!」 和谷がアキラに飛びかかった時には遅かった。 アキラはなんの躊躇もなくそれを塔の天辺からおとしたのだ。 緋色の碁盤は大地の緑に吸い寄せられるように落ちていった。 そして地面に落ちた途端 その緋は砕けていた。 アキラはそれだけを確認するとまるでもうここには用はないとばかりに 足し去ろうとした。それは和谷の逆鱗に触れた。 「まてこの野郎 いくら国主でもゆるさねえ・・大事な 大事な宝碁盤を・・・」 だが、アキラの胸倉を掴んだ和谷にはまだどこか遠慮があった。 アキラは静かに言い放った。 「どうしても 知りたいことがあった。和谷離してくれ。 行かなきゃならない。」 「なんだと。確かめたいって・・何を」 「今にわかる。」 「まさか また宝碁盤が勝手に元の状態に戻るっていうんじゃ。」 「その可能性がある。」 「そんなデタラメを・・・お前ともいうやつが・・」 遠くアキラは碁森海の風の音が変わるのを聞いた。 いそがないと・・・今なら森の主の声が確かに聞こえる。 「こうしてる場合じゃない。森へ行ってくる。」 「待てよ・・・」 和谷と城の者のたちがしきりに何か叫んでいたがアキラには もう届かない。 アキラに聞こえるのはもはや森の声だけなのだ。 自分が求める場所はきっと森にある。 アキラは夢中で行(アキラの愛馬)を進めた。 お 願いだ ヒカルへの道を教えてほしい。 いつしか・・・目の前に広がる 青龍城にアキラは体が震えていた。 知らず知らずに行の足を即す。 城の袂でヒカルの姿を見つけるとアキラの心臓は飛び上がるほどに はねた。 ・・・僕を待っていてくれたのだろうか。 アキラは行から飛び降りヒカルの元へと走り出していた。 「な 何でお前がここにいる?」 そういいながらもアキラはヒカルが自分を待っていてくれたのだと どこかで確信していた。 「君に会いに来たんだ。」 「俺に・・・?」 どこか消え入りそうにおぼろげなヒカル。それは頼りなく まるで彼がここに存在しないのではないかとアキラは不安にする。 「ァ アキラ・・・?」 アキラは腕を伸ばしヒカルを抱き寄せていた。 薄い麻の服を通り越して暖かな体温をかんじアキラはもっと力を 入れてヒカルをたぐりよせた。 大丈夫だ。ヒカルはここに存在する。お互いの早い心臓の 音を感じてヒカルも同じ人間なんだとようやくアキラは思えた。 「もう会えないんじゃないかと思った。」 アキラはようやくヒカルに会えた想いに胸がいっぱいになる。 ヒカルは困ったようにアキラの腕から抜け出しまじまじとアキラの 顔を見た。 「ひょっとしてお前が 碁盤を割ったのか?」 「ああ。朱雀の宝碁盤を割った。 君に会える方法はそれしか思いつかなかった 。」 「バカ、あれを元に戻すのがどれだけ大変か・・・」 「やはり あの碁盤がここの城の鍵だったわけだ。」 しまったという表情をみせたヒカルとは逆にアキラは少し 誇らしげに笑った。 「国主の癖に 宝碁盤を大事にしねえなんて。」 「僕を国主だと知ってるんだな。君は不思議だよ。 いったい僕の何をしってる。」 この間初めて会った時は確かにヒカルは僕の事を何も知らなかった。 桑原本因坊が言っていた魔法の鏡?が彼に教えたのか。それとも もっと別の何かなのか。 ヒカルは頬を真っ赤に染めていた。たぶん何もかもお見通しなのだろう。 僕がここに来た理由さえも。 「それより もう夕刻になる。お前帰った方がいいぞ。」 「いいんだ。国も城も任せてきた。今日はここに泊めて欲しい。」 もとより帰るつもりなどなかった ヒカルを説得するまでは・・・ 「だめだ。帰れ!」 「また宝碁盤を割る事になってもいいのか?」 脅しとも取れる僕の言葉にヒカルが絶句する 「お前・・・・」 「君が扉を閉じなければ もう碁盤は割らない。だから 僕に心を閉ざさないで欲しい。」 アキラは自分の熱い想いが伝わるように強くヒカルを抱きしめた。 いつか8へ ![]() 一息 思い立ったら一直線のアキラくんです。 ようやく後半部分に入りました。あと4話?次回は皆様お待ちかね(ん?) のシーンの登場かな。 ただしその後はつらいかな。ゴールが見えてきたので一気に書きたいところです。 緋色
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