2014年夏 北海道の旅 その4


斜里岳へ

7日目

724日(木)羅臼―知床ウトロ・シーカヤックー斜里町

 朝早く、目が覚めた。天気もいいので、この先にある海辺の露天風呂をめざして、6時前に単車で走り出した。知床半島の羅臼側は、海岸線沿いに道路が通っている。こんぶなどの漁をする船をみながら、朝のツーリングを楽しむ。20分くらい走ると「相柏」の露天風呂に着いた。キャンピングカーが停まっていて、ちょうど風呂を上がってきたばかりというおっさんがいたので、「湯加減はどうですか」と聞くと、「ちょうどいいよ」と答えてくれた。そこで、護岸に単車を止め、タオル1枚を持って、小さい浜辺に降りた。石でごつごつしていたが、すぐにブルーシートで囲われた小屋を周り込み、海側から風呂に入ることができた。湯加減はちょうどいい、木枠の浴槽の下から湯が沸いている。正面にはテトラポットがじゃまだが、その間から海がみえる、朝から漁をする姿もすぐ近くに見える。こんな野趣のある海辺の露天風呂ははじめてだった。ここは、男女別にしきられている、隣からは湯を流す音がしている。こんな朝からどんな女性が入っているのか想像してしまう。若いのか、おばちゃんなのか、漁師の奥さんか、海側を通ればみれるが、そこは我慢して、海をながめることにした。

 朝風呂を出て、行き止まりまで走ってみた。そこは漁港になっていた。砂浜には、昆布が一面に広げられていた、小船を引き揚げる簡単なエンジンもおいてあった。番小屋などの風景を写真に収め、ライダーハウスに戻ることにした。帰りに、満潮になると海に沈んでします有名な露天風呂にもよった。まだ、入浴時間にはなっていなかったので、みるだけにした。帰り道に、小さな商店で、トマトとどんべいを買い、朝食にすることにした。

 ライダーハウスに午前8時過ぎに戻ると、もうみんな出発して、誰もいなかった。そこで、海のみえるテラスで、湯を沸かし、国後島をみながら、朝食を楽しんだ。ゆったりとした時間を楽しみ、昼からのカヌーに間に合うようにしたくして、ちょっとトイレに行って、出てくると、なんとタンクバックの上に、カラスが、しかもマジックベルトを器用にはがし、財布の入ったビニールの小袋をつついている。「こらー」と追いかけると、財布の入ったビニール袋をくわえて飛び去ったのだ、道路に出て、おいかけるとすぐ近くの木に止まり、袋を落とし、「カア、カア」と鳴き飛び去っていった。「よかった」と思い、袋を拾い上げると、「小銭入れしかなく、札入れがない、どうしよう!!!免許証から健康保険証、カードに、現金、旅も終りか」とまたも絶望感に、財布を食べるわけはないので、どこで落としたはずとライダーハウスからその木までの百メートルくらいの間の草むらなどを一生けん命捜した。ハウスの奥さんが心配して、旦那さんを呼んできて、一緒に捜してもらった。30分くらいさがしてもない、「もうあきらめます」と奥さんと旦那さんに言って、もし出てきたら送って下さいとお願いし、気を取り直し、出発の用意を続けた。ただ、もうシーカヌーどころでない、一応警察に届けようか?「カラスに財布を盗まれました」は恥ずかしい、取り合えず、カヌーにキャンセルの電話をしたが、通じなかった。

 もう一回だけ捜してみようと、カラスの飛んだ下を注意深く捜すと、テラスのすぐ横の自動販売機の裏に財布があった、一度捜したが見落したようだった。「よかった、旅は続けられる」と明るい気持ちになり、支度を整えた。おかみさんに報告すると「よかったね、でも、あのカラスを懲らしめないと気がすまない」とハウスのすぐ裏にあるカラスの巣に向けて、ロケット花火を打ちこむ、カラスはびっくりして飛び立つがすぐに戻ってきたので、おかみさんは、さらに、爆竹をとってきて、カラスを威かし、これにはカラスも一斉に大きく飛び立ち、おかみさんはしてみたり顔をしていた。いいおかみさんだ。御礼とお別れを行って、知床ウトロに向かって走りだした。

 時間があったので、羅臼のビジターセンターに寄って知床半島について学ぶ、そこからは峠道となり、カーブの連続である、峠に近づくと羅臼岳の姿が見えてきた。雲の流れは早く、頂上をすぐに隠してしまった。晴天率の悪い山らしい。峠を越えて、ウトロ側に出て、フレべの滝、通称「乙女の涙」を見に20分ほど散策道を歩く、途中、エゾシカをみることもできた。滝は断崖の途中からオホーツク海に落ちている。入江は、見事ブルーである、シーカヌーはこのへんまで来れるのだろうかと思いながら写真を撮り、単車に戻った。昼ごはんと思い、観光市場に入ってみたが、3,500円の海鮮どんぶりには、もうひとつ手がでず、結局、ウトロの町まで行って、セブンイレブンで300円のざるそばを買って店の前で食べて昼めしとした。

 シーカヌーの集合場所には、12時過ぎに到着した。すでにガイドさんが用意をしていた。知床ユースをやりながら、昼はシーカヌーのツアーもガイドしているようだ。きょうのお客は、自分と中学生くらいの娘とお母さんの3人だった。母娘はカヌーがはじめてらしく、ガイドは、「マチョのカヌー経験のあるお客さんがいるから、分かれて乗って下さい。漕ぎ手がいるからラッキーですよ」と、こちらは、「これは大変だ」と思ったが、「女性と一緒というのも楽しい」と思った。やはり、漕ぐのはへた、「疲れるから、休憩していていいですよ」と声をかけたが、休まず一生けん命漕ごうとしていたのには関心した。しかし、ほとんど役に立っていない。すこしだけ操作方法を練習すると岬方に、漕ぎだしていく、夏のオホーツクの海は静かだ、ベタ凪でほとんど波がない、むしろ、観光船が通ると大きな波が起き、そのときだけは船首を波に向け、大きく漕ぐとジェットコースターのように大きく上り下りしたくらいだった。

 水鳥も、真近くにみることができる。海鵜が漁をしていたり、水足が赤い特徴のあるケイマブリ(絶滅危惧種U類)が飛び立つところをみたり、オジロワシが、断崖にあるかもめの巣にとまり、かもめのひなを食べているところもみることができた。NHKのスペシャル番組の映像のような大自然をみることができる。しかも、その視点が、断崖の下の入江から「乙女の涙」の滝を見上げるのであった。海からしかみえない「男の涙」の滝では、カヌーを滝下によせ、ひしゃくで水を受け、その冷たい水を飲むこともできた。カヌー経験があるということで、通常のツアーではいかないガイドの秘密の穴場にも案内してもらった、洞窟のように波でえぐられた穴に、カヌーの舳先をつっこむと向こう側からの光が入るのか、一瞬だが青い海をみることができた。わずか2時間半のツアーではあるが、知床半島を海から眺めるという最高のツアーだった。母娘には、感謝してもらえてうれしかった。

 着替えをせずに、そのままウトロの高台にある「夕陽の台の湯」に入り、オホーツクの海をながめながらの温泉にひたった。そこから、ひと走り、斜里町へと向かった。同じ行政内であるが、一時間近く走り、斜里駅のそばのスーパーにより、今晩の食材を求めた。北海道にきたので、生しゃけとホタテとモヤシを買い、チャンチャン焼きに挑戦することにした。あとは納豆、トマト、きゅうりなど朝食の食材も買って、キャンプ場をめざした。

 みどり公社の斜里キャンプ場は、広々とした敷地に、芝生がひきつめられ、遠くに羅臼岳や斜里岳も見渡せるロケーションのいいキャンプ場だった。キャンピングカーも何台か、泊まっている。キャンプは外国人がひとりしているだけだった。チャンチャン焼きを小さなフライパンにあふれるほどつくり、スーパーでみつけたどぶろくを楽しんだ。


8日目
725日(金) 斜里岳登山

 前日のチャンチャン焼きの残りとサトウのごはんで朝ごはんをがっちりと取った。5時前に起きたときは快晴だったが、早くもすこし雲が出始めていた。キャンプ場の管理人に「早く出ないと曇るよ」言われ、少しあせって出発した。気持ちよく朝の斜里のまちをバイクで走り出したものの前日にキャンプ場でもらった地図をたよりに登山口に向かう林道の入り口に着いたものの「立ち入り禁止(地主)」と書かれた看板、鎖がかかっていた。「さて、どうしたものかと思う」と、草刈りをしている人がいたので、尋ねることに、でも地主の方ならとこわごわ声をかけたが「無視」、やはり地主の方!?としばらく困っていると、向こうから「どうかしましたか」と声をかけてくれた。チェーンそうの音で聞こえなかったのか今度は親切に教えてくれた。そこは斜里町からの登山口で、自分のめざしている清里町からの一般的登山道は、いったん清里町を抜けてからだと親切に教えてもらった。そこから気を取り直し、少しきた道を戻り、また、バイクで車が一台も走っていない朝の道を清里町へと向かった。北海道の隣町は、なかなか走りがいがある。ツーリング気分である、清里町に入ると「斜里岳登山口」の案内板もあり、迷わずに林道に入った。しかし、そこからは8キロも続くダート(未舗装)である。街乗りバイクのST250には酷である。しかも、大阪に住んでいたらここ10年ダートを走ったこともない、10年前の北海道以来である。幸い砂利は浅く、緩い登りだったので慎重にパワーをかけながら登っていった。それでも長く感じた。小屋手前300mくらいの急な登りだけ舗装されていて、舗装道路の快適さに感動した。

 清岳荘には、午前6時半過ぎに着いた。鉄筋コンクリートの2階建てか?立派な建物だった。駐車場には、バス1台を含め、20台位はあった。さすが百名山である。さっそくバイクから日帰り用の荷物の入ったザックをおろし、スタート、林の小道はやや下り?すぐに林道に出て、小屋ができるまでの登山口はまだ先だったのだろう。林道をしばらく進むと終点となり、沢伝いに道がすすむ。登山道はしっかりついており、何ヵ所か、渡るところも、沢の水量も少なく、飛び石伝いに渡ることができた。せっかく沢シューズを持ってきたので、きょうは、沢ルートをできたら水流沿いを追求し、沢登りを楽しんでやろうと思っていた。

 新道との分岐がよくわかないまま沢に入っていった。沢シューズをはき、水流伝いに登るが、やぶに入ってしまったり、小滝に阻まれたりと思うほど沢登りにならない。最初の名前のつけられた「水連?」の滝だったか、下部は滑で、その上が屈曲していてみえなかったが、滑滝はバランスクラミングでクリアしたもの、その上は短いがかなり悪そうな滝がみえたので、結局、引き返し、登山道から高巻きをした。次の幅の広い滝は、左横の乾いた部分から6mくらい登る、滝口へは2mくらいの滝の直登だったが、下が6mくらい傾斜はゆるいものの滝があり、リスクを避けて、左のブッシュに突入し、登山道へ藪濃きして回避、下部では沢シューズを履き、ヘルメットをかぶったもののほとんど旧道と言われる登山道を歩くことになった。途中から道自体が沢沿いになり、徒渉を繰り返す、結構、悪い、これが一般登山道なのかと思う。先行していた高齢者のパーティーは難儀していた。ここは登山靴では部分的に滑って、怖いルートになる。ルートも不明確なところもあった。それでも後半は、傾斜の緩い滑滝の連続となり、沢シューズの力で水流沿いにぐいぐい登る、沢登り気分を味わうことができた。コルに向けては、天上にぬけるような源流域の滑滝となり最高な気分に、しかも、眼下には斜里の平野やオホーツクまで見渡しながら、素晴らしいルートだった。

 水流が減り、小川程度になると新道と合流した。さらに涸れ沢を登り、やがて急な斜面を登りはじめると稜線のコルが見えてきた。そこにはたくさんの人が休憩していた。もう少しだった。ひとつピークを乗り越し、どっしりと大きな頭が見えていた。急な登りだったが、先が見えていたので一気に頂上に向かった。3時間のつもりだったが、沢で遊んだ分、少しだけ時間がかかり、午前10時過ぎに山頂に立った。オホーツクが見え、知床、国後島までみえた。海のみえる山は、ふだんと違うなにかいい感じである。コーヒーを楽しんでいると、コルで追い抜いたバスのパーティーが上がってきた。にぎやかな人たちだった。ガイドツアーで旧道を上がってきたらしい、大したものである。百名山、人気はすごいが、あの沢ルートを難儀していた高齢のパーティーが気になったが、すれ違うことはなかった。

 下りは、新道を下った。整備された道だった。熊見峠へは若干の登り返しがあった。展望もきき、こちらもいいルートである。沢への急下降は凄まじく、下りでも苦労したが、これを登るのもまた時間も体力もいりそうだった。コースタイムだけでは、はかれない山の厳しさも感じた。下部の分岐点は、コンクリート台座の少し上にあった(沢に入ってしまい通過しなかった)。ここからは2ノ沢という頂上に突き上げる沢の入り口で、地元の山岳会では楽しまれていることを途中で登山者から聞いた。機会があれば挑戦したいが、ザイルのいる厳しいルートでもあるらしい。時間は、予定通りに午後1時過ぎに下山したが、とても釧路まで移動する気にはなれず、温泉に入って、一杯やりたい気分になった。

 しかし、その前に恐怖のダートの下りが待っていた。登りと違い、バランスをとるためにアクセルオンするのが怖い、出だしの急な下りで、思いっきり前輪が砂利にとられ、危うく転倒しそうになったがなんとか立って止った。8キロのダートを無事、下りきれた時のほっとした感は、下山したときよりも大きかった。

 行きにみつけた清里町の市街地にある清里温泉緑清荘でゆっくりと身体を癒して、斜里町のスーパーに寄って、ウニ柵750円、なんと毛ガニの見切り品500円で1ぱい半、刺身用カニ身を買って、きょうは自家製海鮮丼で豪華にひとり宴会を楽しむことにした。毛ガニは剥くのかが邪魔くさかったものの独特の甘さは最高、ウニとのコラボにうってつけのパートナーである。少し飲み過ぎの夜となった。

726日(土)斜里キャンプ場−釧路湿原カヌー−ホテルラッソ

 前日の斜里岳登山で疲れてしまい、移動ができなかったので、早朝、出発し、塘路湖でのカヌーの集合時間をめざした。日の出とともに起き、朝食は納豆にご飯、テントを撤収し、荷づくり、午前6時に出発した。釧路湿原の真ん中の塘路湖まで約100キロ、2時間強で走れる予定だ。早朝のオートバイの走行は、寒い、1時間、平原を走っていたら身体が芯まで冷えてくる、冬用のジャンバーの下に、長袖を着ることにした。弟子屈で休憩のためにコンビニを求め、市内に、セブンイレブンがあったので、100円ホットコーヒーに、チョコレートを買い、店前に座って休憩、意外と次から次と買い物に来る人が絶えなかった。
少し温まったので、釧路湿原をめざして走り出す、国道に戻るつもりだった。「釧路」のボードに案内されて、町はずれから牧草地を走り出したが、国道ではない、道道53号線だった。「あれ、釧路方面ならいいか」としばらく走るものの不安になり、地図で確認、なんと湿原を通らず、かなりちがう方向に向かっていた。あわてて、引返し、工事現場の人に国道への道を聞き、なんとか、もとの国道391号線に戻ることができた。ここからは、結構、交通量がある。流れに乗りながら釧路湿原をめざした。

 集合時間よりかなり早く釧路湿原に到着できたので、まず、シラルト湖でオートバイと記念写真を、「サルルン展望台」の案内があったので寄ってみる。高いところが好きで、つい登ってみたくなる。木製の手摺りが腐っていたが、なんとか遊歩道から、湿原を見渡せるだろう「その台地」に上がった。しかし、樹木がしげる林で展望がなかなかない、尾根ぞいに次のピークに登っていく、すると湿原が見渡せる展望台に出た。トンボがたくさん飛んでいる。釧路湿原はめずらしいトンボの宝庫だそうだが、トンボはトンボにしかみえない。少し遠くにめざす塘路湖もみえる。しばらく休憩してから、また、オートバイにまたがり、塘路湖キャンプ場をめざした。

 塘路湖周辺は、賑やかな感じだった。キャンプしている人はいなかった。カヌーの出艇場所としていいのか、駐車場には次々とカヌーツアーのためにカヌーを車から降ろし、湖に向かう人が絶えない。いくつかのパーティーを見送っていると「ナヌーク」カヌーの方も大きなワゴン車でやってきた。緑のオープンカヌー2艇、黄色いポリのカヤック1艇を積んでいた。カヤックは、自分のために持ってきてくれたものだ。「経験あり」と言ったら、「一人乗りもありますよ」と言われたので、お願いしたのだった。
 「1日釧路湿原カヌーツアー」には、自分と同じ年のお父さんと息子、ガイドの橋田さんも同じ年だった。「ナヌーク」のカヌーツーリングは、「ガイドが同乗せずに、自分の手でパドルを握り、カヌーを操作し、川を下るガイドツアー」と紹介されていた。塘路湖に出て、まず、カヌー操作練習、まったくはじめての親子は苦労していた。自分もカヤックは久しぶりで、湖は岸まで遠いので、最初は横揺れが怖かったが、徐々に感じを思い出していった。岸辺沿いに漕いで、水草の「菱の実」(ぺカンペ)を痛めないようにさけながら、釧路川へ向かっていった。「菱」は漁師が収穫しているとの話を橋田さんから聞いた。JR釧路線の鉄橋を潜ると、緩やかなほとんど流れを感じない川に出た。まだ、塘路湖から流れでた支流のアレキナイ川である。岸辺が近く、その向こうは湿原のようだ。かなり慣れてきた自分は、親子の艇を待ちながら、上流にエディ(艇先)を向けたり、川を遡ってみたりと水と遊んでみた。しばらく行くと釧路川本流に出合う。さすがに、ゆるやかだが確かな流れがある。カーブでは内側を通るようにアドバイスを受ける。
 2股で、ランチタイムのために上陸する。船着き場がある。そこで艇を結んでおき、陸に上がると、先ほどのワゴン車があり、ガイドの奥さんがサンドイッチをつくっている最中だった。二股を眺められるところに、テーブル、いすを運び、ランチタイムだ。奥さんのお手製の料理、野菜いっぱい入ったあたたかいスープ、サンドイッチ、さらに、その場でご主人が焼いてホットサンドにしてくれた。そして、コーヒーである。釧路川、釧路湿原を眺めながらのランチだ。しかも、JR釧路線がすぐ横を通る、ディーゼル機関車がけん引するノロツコ号やちっちゃな箱型の列車などが目の前を通り、これまた電車好きにはたまらないロケショーンであった。
 午後からは、釧路川を下る、岸辺からエゾシカがこちらをみていたり、高い樹木の上にオジロワシの凛とした姿もみることができた。カヌーツアーは、繁盛しているようで、次々とカヌーが下ってくる。どれもガイドさんが、お客とともに一生懸命に漕いで速い、来る前に読んだネイチャーブックでは、「釧路川のカヌーのコツはできるだけ漕がないこと」とあった、橋田さんのガイドはあまりしゃべらないし、あまり漕がない。ゆっくりと流れにカヌーを流しながら、自然を楽しむ感じですごくよかった。
 午後から雨の天気予報だったが、なんとかカヌーの終了点、細岡カヌーポートまで持ってくれた。奥さんがワゴン車で迎えに来てくれていて、塘路湖キャンプ場まで送ってくれた。そこで、ナヌークの方々と別れて、ひとり塘路湖キャンプ場にテント張る予定だったが、今にも雨が降りそうだし、誰一人いないキャンプ場は寂しい気もして、釧路の街をめざすことにした。
 いつ雨が降ってきても大丈夫のように、雨具を着て、ザックカバーもかけて単車を走らせる。天気予報通りに、4時前には雨になった。あと少しで釧路の街だった。釧路市内に入ると雨足が強くなり、ドシャ降りに、あてにしたライダーハウスがみつからない、病院の駐車場の軒下に単車を入れ、電話するも「現在使われていません」、もう一軒に電話すると「ライダーハウスは廃業しました」とのこと、これは困った、仕方なく、じゃらんでホテルを検索するも1万円以上の観光ホテルしかあいていない。今度は、電話帳で直接、聞いてみることに、1軒、2軒と満室と断られ、やっと3軒目で、「禁煙でツインなら」と、しかも値段も少し高いと思ったが、背に腹はかえらないので、「お願いします」と、午後5時前だったが、ドシャ降リの中で、釧路市内に戻り、末広・川栄町・川上町という歓楽街の中に、ホテルラッソ釧路をみつけ、滑り込んだ。
 ラッソ釧路は、かつては賑わっていた港町らしい歓楽街の一角にあった。まわりは飲み屋からスナック、キャバクラまで一通りはあるようだ。まず、ずぶ濡れの身体を熱めのシャワーであたため、着替えをして、いざ出発。フロントで、おいしい居酒屋を紹介してほしいと頼むと、ホテルの前の構えの小奇麗な少し高級そうな海鮮店を紹介してくれた。観光客か、お金にこだわらずのお客相手の感じがした。せっかく港町の歓楽街にきたので、少し探検しようと一角をいろいろ見ながら店を探す。高級店あり、ふつう居酒屋あり、少し狭いがかなり地元感のある店ありといろいろだ。ホテルでもらった「飲み物
1杯無料券」が使用できる居酒屋の中で、結局、ホテルのそばにある「善」という普通ぽい居酒屋に入った。つぼ鯛が安く食べられるメニューにひかれた。刺身の盛り合わせには、クジラが入っていておいしかった。トロサーモンもいける、やはり北の町である。つぼ鯛もおいしく、日本酒も純米大山があり、いいチョイスだった。お客さんも地元の方が多いようで、よくはやっていた。生一杯に、日本酒2合飲み、酔いもまわってきたので、引き上げることにした。もう一軒行きたい気持ちがあったが、ホテルに戻った。
 ベットで少し横になったが、タバコを吸いたくなり、ホテルの裏へ、禁煙ルームで、しかも館内禁煙で、指定場所が裏口のそとだった。すると、そこは赤ちょうちん横丁、2坪もないような小さい店が両側に並んでいる。入りたかったが、どこも満席、常連感が強く敷居が高かった。そのもうひとつ筋、よこにも横丁があるのをタバコ吸いながら、偶然みつけて入ってみると、すると、場末の港町らしからぬ、しゃれた看板のショットバーがあった。ちょうど飲み直すのいいと、おそるおそる扉を開くと、うす暗いがおちついたいい感じで、男性客はひとりカウンターで飲んでいた。50はいっていないだろうマスターがひとりでやっていた。あいそうのいいマスターだ、とりあえず、マティーニを注文した。するとカウンターに置かれていたコースターを取り、その上に、グラスを置くと、下から光があてられて、きれいに輝くではないか、「こんな洒落たカウンターは大阪にもないよ」とマスターに話しかけると、「15年やっています」と、少し話し相手なってくれた。するとカップル客が1組、さらに1組、続いて職場の飲み会の2次会か、6人くらい客がボックスに座り、急に店が忙しくなった。すると、マスターがどこかに電話をかけた。
 そう時間がたたずに、2人の女性が入ってきた。ひとりはカウンターの中に、マスターと同じポロシャツを着ている、マスターの背中には、「masuter」とあり、30過ぎの女性の背中には「yuka」とあった。もうひとりの30過ぎの女性がカウンターの自分のとなりの席に座った。オーダーが一巡したところで、カウンターの女性が、名刺をくれた「ベルジュ・エーワン店長・由香里」とあった。「大阪から旅をしている者で、名刺をもらっても・・」と恐縮したが、ここの近くにもう一軒あり、そこの店長で、こっちが込んできたので応援に来たことなどを話してくれた。となりの女性は、店長の友だちか、常連客のようだったので、一緒に話し始める。
 看護師をされているようである、なかなかの美人である。おとなの雰囲気を持った女性で、自分の旅のはなし、山のはなしを聞いてくれた。2杯目を注文した。この店は、生のフルーツを使ったカクテルが自慢のようだった。「ショートでも作れる?」とマスターに言うと、甘さが抑えられたショートカクテルを出してくれた。女性に名前を聞くと「あきこです。亜細亜の亜に、希望の希に、子どもの子で、亜希子です」と教えてくれた。店長も、マスターも、忙しかったので、亜希子さんが話し相手になってくれた。12時もまわっても、お客はあまり引かない、「みんなどうやって帰るだろうか?きょうは土曜日の夜だから・・・」、亜希子さんにも「どうやって帰るんですか」と尋ねると、「店長と家が近いので、一緒に帰ります」とのことだった。少し残念な気持ちがわいたのはなぜだろう。3杯目も注文した。1杯だけ、飲み直しのつもりが、亜希子さんとの楽しい会話で、長居をしてしまった。さすがに1時半をまわり、明日は移動だけとはいえ、1日バイクに乗るので、もう少し座っていたい気持ちを押さえて、帰ることにした。
 亜希子さんに、「お話しをしてもらって楽しかったです」というと、彼女は「私も旅をしたような気分になれて楽しかったです。次に、釧路に来た時も会えるといいですね」と言ってくれた。大人の女性のさわやかな返答にすごく感動した。また、いつか釧路に来たい、「Ber Aone」に来たいと思った。

 

 2014夏 北海道の旅  その5に続く