ランスの冒険 第一話 〜光を求めて〜

第1章 捜索1日目 〜女忍者からの警告〜


 ランスは街に向かう途中で武器や装備を失うアクシデントに遭ってしまっていた。

「くそう、俺様としたことが。まあいい。目的地までもうすぐだ。そこにはシィルもいるし、何とかなるだろう」

ぶつぶつ文句を言いつつ、目的地までやってきた。情報収集は酒場からが基本だとばかりに、着いてそうそう酒場に向かっていた。

あまり大きくない酒場[ぱとらっしゅ]の前まで来た。営業中らしく時折、中より笑い声などが聞こえてくる。

ランスは躊躇することなく酒場の扉を開けた。

ギィギー

鈍い音を立てて酒場の扉は開く。

店の中の連中は一瞬話すのをやめてランスの方を見たが、また、もとの話題に戻っていった。

まわりを見るとランスと同じ冒険者がたむろっていた。店内はあまり広くは無い。それにその手の店ではないのでかわいいホステスさんはいない。ランスは(ち、しけた店だぜ)期待が外れたと思いながらカウンターに向かうと、そこにはむさくるしいこの店のマスターと思われる親父がいた。

(頑固者と顔に書いていそうな男だ。なかなかいい体格をしている。キースの禿げ親父とはえらい違いだぜ。だが俺様のほうがいい体格だが)
ランスは感想をもった。

「おい、兄さん、何を注文するんだい」

近づいてきたランスに親父が気がつき声をかけた。ランスは親父の後ろに並べてあるいろいろな酒を眺めると好みである[ゴロッチ]があった。

(俺様は酒は弱いがこの[ゴロッチ]だけはそれなりに飲めるんだよな)

「じゃ、[ゴロッチ]の水割りを一つ」

とランスは注文し、カウンターの席に座る。

「はいよ、特性の水割りだ。うめえぞ最高の味だぜ」

親父は、手馴れた調子で水割りを作り、ランスの前に置く。

「・・・・・(よくしゃべる親父だ)」

ランスはだされた酒を飲み、

「親父、えらい珍しい酒も置いてるんだな」

と質問すると

「客に飲ませるのは一般酒だ。珍しいのは俺専用だ」

と親父は胸をはっていった。

「兄さん初顔だな。じゃんじゃん飲んでくれ。おっと、兄さん もう、コップが空の様だな。よし、今度は・・・ウォッカだ」

勝手に話を進めランスの持っていたグラスを取り上げウォッカを入れる親父。

「おい、そのコップにさっきは水割りを入れていたんだぞ。上からウォッカを入れるなよ」

それを見てちょっとあきれるランス。

「気にするな、死にやしないよ」

との親父の返事にランスは親父をまじまじと見る。

「兄さん、俺の顔に何かついているかい」

ちょっとした仕返しだとばかりに

「その顔、象にでもふまれたのか?」

と失礼なことをランスは面と向かっていうが

「がははは、おもしろいことを言う」

と親父に軽く受け流された。続けて

「だが、俺はこれでも若い頃は美男子で有名だったんだ」

のセリフに

「それで、牛に顔を踏まれてそうになったのか・・」

と妙に納得するランス。なんだかズレているような会話である。

「今日は、無料サービスだ。じゃんじゃん飲んでいってくれ」

「気前がいいじゃないか、どうしたんだ? まあ、いいか。一番高い酒をくれ」

遠慮なしに注文するランス。そして、ここにやってきた目的を遂げるために問いかけた。

「ところで、おやじ、最近で面白い話はないか?」

「面白い話ね。あんまりねえな」

「そうか」

その返事を聞いてランスは

(ちっ、ちょっとぐらい情報をつかめるかと思っていたが甘かったか)

と思っていると

「それよりこの壁の絵を見てくれよ」

と親父が壁にかかっている絵を見せる。

「風景画か、なかなかうまいじゃないか」

ランスにしては珍しく素直にほめる。

「俺が描いた」

「・・・・・・」

「うまいだろう」

「あんまり、顔に似合わない事をするんじゃない」

思わず本音をポツリと漏らすランス。

「なんか言ったか?」

「いや、べつに」

こんな益もない話を続けるのはごめんだとそこで会話を打ち切る。それよりも情報を引き出そうと親父に質問するランス。

「ヒカリという名の娘の噂を聞いたことはないか?」

「ヒカリ・・、ヒカリ、ヒカリねぇ?わかんねぇな」

「じゃ、この街にある城は何なんだ?」

「ああ街の中央にそびえたっている城か?たしかキャメロット城だっけ?いや、コロラド城だっけ?もしかしたら、ラーンクス城か・・」

「わかった、わかった。ようは、知らないんだろ」

(この親父、本当にこの街の住民か?普通知っているだろ)

とあきれるランス。

「そのとおり」

(む、胸まではりやがったよ。この親父)

にわかにランスは精神的ダメージを受けた。

「この街にいる限り城で意味が通じるからな」

「・・このへんにモンスターはよくでるのか?」

「俺も、昔は大量の怪物を血祭りにあげたもんだ」

と返事がかえって来たときには

(この親父にまともな情報を期待しちゃダメだな)

と見切りをつけるランス。

「じゃ、ごちそうさん」

「おう、また来てくれ」

(収穫なしかよ。無駄足だった)

と思いながら出て行く。余談であるが酒場の親父に対するランスの対応は極めて珍しくまともだった。

(とりあえず、シィルのところに行くか)

とランスは考え、パリス学園の方へ向かった。

「ここがパリス学園か」

ランスの目の前に格調高いお嬢様学校がそびえ立っている。しっかりと金をかけて建てているので敷居が高そうに見える。ここは男子禁制の学校だ。

(ここは名高いお嬢様学校だからな。正門にはしっかりとガードマンがいやがるな)

不振人物として問いただされる等、面倒そうな事態になるのは嫌なのでランスは裏口にまわった。

(とりあえずシィルを呼び出さんことには始まらんか)

「シィル」

ランスはほとんど横にいる人にも聞こえないような小さな声でシィルを呼んだ。

     *

2,3分たつと、裏口からシィルが白い学生服を着て現れた。

(むう、こう見るとシィルもどこかのお嬢さんみたいだ。なかなか、白い制服も似合っていてかわいいかもしれない)

ランスがシィルを見つめて何も言わないでいると

「はい、なんでしょうか?」

不思議そうにランスを見つめるシィル。

(はっ、思わず見入ってしまった)

「何か、かわったことは起きなかったか?」

それをごまかすようにランスは質問すると

「はい、みなさん大変、私にやさしくしてくれます」

「そんな事を聞いてるんじゃない」

いきなりボケたことをいうシィルにげんこつをかますランス。

「ひーん。痛いです。ランス様」

「いきなり、ボケをかますからだ。それよりヒカリって娘の情報はどうだ?」

「はい、確かにヒカリさんは、この学校に在学していました」

「で、何かわかった事は?」

「ヒカリさんは大変優秀な生徒だったらしく学園長のミンミン先生に特別生徒に任命されていたみたいです。かくいう私もミンミン先生が特別生徒にしてくれました」

「誰もおまえのことは聞いとらん」

とランスはまたもやげんこつをくれる。

「ひーん」

「で、特別生徒とは?」

話を即すランス。

「はい、きっと大変優秀な方だったのですね」

(結局、答えになっとらんぞまったく)

ため息をつき、

「他にはないのか?」

「その他は、なにも」

「まあいい、引き続き情報を集めるんだぞ」

「わかりました。ランス様ってどこへ連れて行くんですか」

ランスはシィルの肘を取って近くにある茂みへと引っ張っていく。

「がはは、久しぶりに会ったのでやるぞ!」

「へ、え、ええー、や、やめてくださいよランス様」

「えーい、うるさい」

なんだかんだといいつつも、おとなしくシィルはランスについて茂みの中に入っていった。そして、茂みに入るや否やランスはやさしくシィルの全身を愛撫し始めた。

「あっ、だ、だめ」

「本当に嫌なのか、うりうり」

「あ・ああん、ランス様のいじわる・・」

          *
          *

事が終わった瞬間、ランスは体に力が宿ったのを感じた。

(そういえば、こいつを買ったときにあの悪徳商人のボブが言っていったけ。あいつが確か一定の手順でイタせば魔法を使えない俺様でも何種類かの魔法を使えるようになるとか言ってたような気がするな)
と唐突に思い出す。

(じゃ、いまのがそうだとするとどうすれば使えるんだ?)

考えに沈みこんでいると

「ランス様、痛かったです」

と涙目にシィルが恨めしそうにランスを見る。

「がはは、俺様のはほとんど凶器だからな」

「なんで、ランス様は、いつも私をいじめるの?」

「いじめてなんかいない!むしろ、かわいがってるぞ。思いっきり」

「でも、痛いもん」

「まだ、慣れてないからだろ。何回もしていたら気持ちよくなるんだよ」

「本当?」

「今度は、お前を快楽で狂わしてやるぜ」

「あーん。狂いたくなんかないもん」

しかし、ふとランスは悩むのであった。

(シィルをいかせてやれないなんて・・俺様って下手糞なんだろうか?・・いや。同じ処女だったチャコちゃんなんかは今ではしっかりといきまくってたから下手糞な訳が無い。いや、シィルが不感症なんだろうきっと)

無理やり自分を納得させるランスなのであった。

「ところで、俺様に魔法が宿ったみたいなんだが判るか?」

「え、えーと、多分[ヒーリング]じゃないかと。直したい部分に手をあてながら[ヒーリング]といえばそれで使えると思います」

先ほどの行為を思い出して顔を赤らめながらいうシィルをみて

(ムム、か、かわいいじゃないか、また、ムラムラっとしてきた。う、いかんいかん。やることが山積みだ)

とりあえず一時の欲望を振り切ることにするランス。この男にしては珍しい。

「あの、ランス様。もう、戻りますね。あまり長いと不信がられますから」

「ああ、しっかり、調べておくんだぞ」

「はい、わかりました。ランス様も気をつけて」

ランスが学園を離れるのをみはらかってシィルもパリス学園にいそいそと戻っていった。

(とりあえず、地理を把握しておいたほうがいいな。今日一日は街の様子を見て終わるだけで済まそう)
と方針を決め、とりあえず、一番目立つ城から行ってみることにした。

城はパリス学園から見て、中央公園を間に挟んだ向こう側にある。ランスは中央公園を突っ切って城の門の前まできた。城門はかなり大きくその横には詰め所があるようだ。

(見学できんだろうか)

そう思って門に近づくと番兵がランスの前に立ちはだかり、

「おい、通行手形は持ってきているのだろうな」

「持ってねえぜ、いけないのか?」

「ふざけるな、通行手形がない奴は入れるわけには行かないんだよ」

「ちっ、だめか」

ランスはおとなしく引き下がることにした。この男にしては弱気な態度だろう。それもそのはず、番兵は男ではなく妙齢の女性だったのだ。

男なら容赦ないが女だと対応も甘くなるのである。つくづくこの男は・・・

ランスは城門を立ち去るとその近くにアイテム屋を見つけた。

(アイテム屋か・・、顔を出しておくか)

ランスは見つけたアイテム屋に入ると、

「きゃーーーお客さんだわ。ねえねえ、何か、何か買ってって!」

ランスを出迎えたのは丁度、棚を整理していたのかこちらに背中を向けていた女の子だった。その娘は黒いビキニ服を着ていて健康的なおしりが魅力的だった。

女の子はランスの視線をみて

「もう、どこを見ているのよ」

といってあわてておしりを手で隠す。

「けつだ。わからんのか?」

「えーーーっち」

といってべーとする女の子。

「接客態度がなってないぞ」

「じゃ、気分を取り直して。いらっしゃいませ」

「うむ。俺様はランス。君の名前は?」

「名前はパティです。ここでアルバイトしています。覚えてくれるとうれしいです」

にっこりと笑顔を見せるパティ。

「がはは、かわいいこの名前は忘れんから大丈夫だ。ところできて何だがヒカリって娘を知らないか?」
「ヒカリさんですか?あいにくうちでは、取り扱っていませんね」

(おいおい、取り扱っていたらどうなるんだ?)

と疑問符が浮かぶランス。

(それより聞きたいことを聞いておくか)といって質問していくランス。

「あの城はなんて名前なんだ?」

「ああ、あのお城ね。私達、庶民には関係ないわ」

(この娘もかよ)

頭に最初に立ち寄った酒場の親父の姿がよぎる。

「じゃ、この辺ではモンスターはよく出現するのか?」

「ううん、それほどでもないと思いますよ。いても、警備兵が討伐しに行きますし。そうだ、ハニーって怪物、ご存知ですか?いろいろバリエーションがあるんですが、このハニーに共通するのが[ハニーフラッシュ]という攻撃でどんな防具でもよけるのがうまい人でも、かわす事が出来ないんです」

「ああ、ハニーか。よーく知ってるぞ。宿敵みたいなもんだからな。何とかならんかな」

「噂ですけど、[はにわ銅像]を持っているとダメージを受けないですむって、聞いたことがありますよ」

「はにわ銅像・・君の店では、売っていないのか?」

「・・・ありませんよ。見た事もないし」

「そうか。でも良い事を聞いた。じゃあな」

聞くこと聞いたのでもう用はないと立ち去ろうとするランス。

「え、お客さん、買っていってくれないんですか?」

「今日は顔みせだ。また来る。おお、そうだ、知り合いになったことだし、親睦を深めるためにも一発どうだ」

そういえば、これが一番大事なことだよなとばかりに言うランス。

「ええーー、今はダメよ。・・・んん。でも、そうねえ、[火炎木の葉]をくれたら抱かせてあげる」

熟考して返事をするパティ。[火炎木の葉]って貞操と引き換えなほど価値があるのだろうか?

「その言葉、本当だな、よし、必ず手に入れてやる」

ランスは多少の疑問は抱かないでもないが言葉自体には嘘はないと判断した。

「では、お待ちしていまーす」

「おう」

ランスは決意を新たにアイテム屋を立ち去るのであった。

(次はどこに行こうかな)

と思考しつつ、中央公園まで来るランスに学生風の女の子が話しかけてきた。

声がした方向に振り向くと一人の娘が買い物籠を両手で重そうに抱えている。

「何のようだ?」

「お財布を失くしてしまったの。一緒に探してもらえませんか?」

(ふむ、なかなか、かわいいじゃないか。よし、ここで、恩をきせて、見つかったあかつきにはうはうはだ)

ランスは思考をめぐらした後、

「いいぞ、捜してやろう。だが、報酬は?」

女の子は、買い物籠をぎゅっと持ち直すと黙り込んだ。

「俺様だってプロだ。報酬がないと働かん。あんたの体でもいいんだぜ」

ランスは女の子の弱みにつけこんで自分の欲望を突きつける。

「そ、そんな・・」

女の子は大弱り。

「どうなんだ」

ランスの迫力に押し流されたのか

「わかりました・」

顔を真っ赤にしながら女の子は小さな声で言った。

(へへへ・・棚から牡丹餅。これは、楽しみだぜ)

思わぬ成り行きにご満悦のランス。

「しかたがないな。どの辺りで落としたんだ」

「あの・・・この公園なんですう」

ランスは公園をぐるりと見渡した。

「財布なんてどこにも落ちてなさそうだぜ。もう誰かに取られたんじゃないか?どの変を通ってきたんだ」

そういってランスが振り向くと女の子は・・・

「そうね、でも財布は見つかったわ。ありがとう」

と一瞬にして制服から忍者装束に早変わりした。そしてその手にはランスにとって見覚えのある財布が

「そ、それは、俺様の財布・・」

「この件からは、手を引いた方が身のためよ。これは警告」

そう言うと女の子の周りに風が吹き、ランスが堪らず目をつぶった一瞬に文字通り風のように消え去った。

     *

(む・・・むかぁ。誰が手を引くか俺様を誰だと思っているんだ。あの女忍者め。この俺様を謀ったんだ。地の果てまで追い詰めてXXXしてやる)

この男には逆効果だったようだ。更なる闘志を持ってこの事件の解決を行うことを決意した。

あたりは日が暮れてきたのかなんとなく暗くなってきたようだった。

(ち、とりあえず、宿を決めるか。あ、そういえば財布を盗られたんだった。どうするか・・・。そうだ、シィルがいたんだった。シィルのところへ行って当座の活動資金を調達するか)

ランスはパリス学園に向かうことにした。

再び、昼間と同じ方法でシィルを呼びだした。

「ランス様、もう夕方ですよ。私もこんな時間に外に出ていたら怪しまれます」

「それも、そうだな。なら、手早く済ませよう。実はな、ここに来るまでに装備をアクシデントで失ってしまったのだ。で、それを買いなおす財布もさっき女忍者が事件解決の妨害に現れてな盗られてしまったのだ」

「まあ、それは大変でしたね」

「という訳で、金を渡せ」

とランスは手を差し出す。傍目には金をせびりにきたヒモである。

「私のおこずかいこれだけなんですが・・・」

シィルは、自分のかわいい財布から150GOLDを取り出した。

「ちっ、たったこんだけかよ、まあ無いよりましか・・・。渡しな」

ランスはシィルの手から150GOLDをひったくった。念を押すようだが、傍目には正に金をせびりにきたヒモである。

「全部、持っていくんですか?私、月謝どうしたらいいの?払えなくなります」

「うーん、そうだな・・・・・・。よし、自分で何とかしろ。わかったな」

ニヤリと底意地の悪い笑い方をするランス。

「そんな・・・」

(ふん、本当は払う必要なんぞ無いんだがな必要経費だし。そういう風に手続きしたから。でも、黙っておこう)

「じゃ、行くぞ」

「うう、わかりました。ランス様」

ランスは昼間に目星をつけていた宿屋を目指す。

宿屋[あいすくりーむ]の前まで来ると宿屋を見上げる。2階建てのごく普通の宿屋だ。

(ふむ、俺様が泊まるには少々グレードがなんだが持ち金が心許ないからな)

宿屋に入ると黒髪の和服美人が出迎えた。

「いらっしゃいませ。宿屋[あいすくりーむ]へようこそ。お泊りですか?」

「おう、泊まりだ」

(おお、すげぇ美人。ぜひともお近づきになりたいな)

「一晩、10GOLDですが、よろしいですか?」

「おう、いいぜ」

「料金は先払いです。10GOLDいただきます」

ランスは料金を払い終えたあと、部屋に案内された。

案内された部屋はJAPAN式で布団とテーブルそしてざぶとんが4つ置いてある。また、テーブルの上には、日本茶セットが置かれている。どうみても温泉宿の雰囲気をかもし出していた。上等の部屋ではないが、きれいに掃除されている。

ランスがきょろきょろと部屋を見渡していると、一時姿を消していた和服美女が現れた。

「お客さん、これ寝巻きです」

そういって布団の上に寝巻きを置く。

「お客さん、ここ初めてですか?」

「そうだ」

「これからも、ごひいきに」

「ああ、ところで君の名は?」

「堀川奈美っていいます」

「JAPAN人か?」

(黒い髪、黒い瞳・・・うーん、きれいだ。さすが、JAPAN人)

「そうよ」

「お客さんと呼ばれるのはなんか、こそばゆい。ランスと呼んでくれ」

「じゃ、ランスさん、JAPAN風の浴衣の着方わかります?」

「ああ、こう見えても、JAPANの文化には詳しいのだ」

「じゃ、朝ごはんはJAPAN風の味噌汁とごはんにします」

「恐怖の味噌汁」

おもむろに寒いギャグをかますランス。

「ああ・・今日、ふの味噌汁ですね。よく知っていますね」

軽く受け流す奈美。

(できるな)

ランスは感心しつつ、所々で聞いてることをこの奈美にも聞いてみることにした。

「ああ、ところで最近、面白い話を聞いてないか?」

「面白い話ですか?・・・さあ、これといってありませんね」

「そうか」

(酒場の次に集まりそうな宿屋でも無理なのか)

「ああ、そうですわ。面白い話ではないんですが、最近、盗賊があちらこちらに出現して悪いことをしているって噂をよく聞きますね」

「ふーん、盗賊かどこにでもいるんだな」

(盗賊か、一応人攫いの定番ではあるな。まあ、ひょっとしたら、手がかりがつかめるかもしれん。ちょっと、調べてみるか)

「盗賊ってどんな悪い事をしているんだ」

「なんでも、人を殺したりかわいい娘をさらったり・・・」

(むむ・・、なおさら怪しいな。もしかしたらヒカリもそこに・・)

「なんだって、かわいい娘をさらっている・・さらってどうしようってんだ」

「私からは、言えません」

ちょっと赤くなってうつむく奈美。

「ああ、すまん」

(そうだよな。攫っていってやるっていったらアレにきまってるもんな)

「じゃ、君も気をつけないとな」

「私がですか?大丈夫ですよ、私ブスですから」

「何をいってるんだ。君は十分に美人だ。自身をもて俺様が保障する」

何気に奈美を口説くランス。

「ありがとう」

それにまんざらでもないのかちょっぴり顔を赤くさせ恥らう奈美。

「でも、あぶないですからお客さんも気を付けて下さいね」

「がはは、俺様は無敵だから大丈夫だ」

「ところで、奈美さんは、一人でこの宿屋をやっているのか?」

「ええ、父も母も弟を産んですぐに亡くなりましたので。それに・・ああ、お茶入れますね」

そういって日本茶セットを使ってランスにお茶を入れる奈美。

「そういえば、ヒカリって娘の事を知らないか?」

「さあ、知りませんが」

「じゃあ、この街にあるあの城は?」

「ああ、あのお城ですね。どうかしましたか?」

「知っている事を教えてほしい」

「でも、私お城の事はよく知りません。ああ、でもお城の中にコロシアムがあるんですぅけど、そこでは恐ろしい人達が日夜、戦い続けているって聞きます。彼らは、独特の必殺技を持っているとか・・・怖いですね」

「必殺技か、」

(くそ、俺様でもまだ持っていないっていうのに)

「あ、でも、お城に入るには通行手形が必要とかきいてますよ。一般庶民には関係ありませんね」

(こりゃ、なにがなんでも通行手形を手に入れなくちゃな)

おもむろに、入れてもらったお茶を飲むランス。

「おいしいですか?」

「まあ、まあだ」

「では、ランスさん、ごゆっくり。食事はもう少ししたら持ってきますので」

「わかった。でも、奈美さん、食事もいいが君も食べてみたいな」

さりげなく、奈美に迫るランス。

「だ、だめですよ」

「君のような美人を俺様は放ってはおけない」

そういってさらに奈美に迫り、ランスが奈美の肩に手をおいた瞬間、

「おわっ」

ランスは宙を舞っていた。そのまま、布団に落下するランス。

「お痛はいけませんよ、ランスさん。これでも柔道5段なんですから。では失礼します」

そう言って、部屋の襖を閉め出て行く奈美。投げ飛ばされたままのランスはその体制のまま

(うーむ、手ごわい。でも気に入ったぞ。奈美さん。絶対ものにして見せるぞ)

新たな闘志を燃やしていた。

その後、ランスをおとなしく食事を行い、そのまま疲れていたのか布団にくるまって眠った。


 <続く>






<Before> <戻る> <Next>