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GS美神 リターン?

 Report File.0078 「お嬢様危険注意報!! その7」
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「一次審査を突破できれば次はいよいよ二次審査、でも二次までしかないんだから、予選、本選でも良いと思うんだけど〜」

「三次審査ってないんすか? てっきり、面接みたいなのがあるのかと思ったんすけど」

「ん〜、最初のGS試験時にそういうのをしようって話も合ったんだけど、色々、派閥間の問題とかあって無くなったの〜」

「なるほど、その名残っすか」

 面接なんか実施した日には派閥でも力のある所が無い所のものを不合格にしたり、無所属を圧力を掛けたりして派閥に加えようとしたりといったことが起こり不公平になると考えられたからであろうと横島は推測したが事実は少々違っていた。

「そうねぇ〜、もともとはGS免許制度もGS協会も政府が霊能者を管理しましょうって事で始めようとしたのだけど〜、結局、失敗したのよね〜。あわよくば軍事利用しようとかもくろんでいたみたいで、それに反発して潰したんだって、聞いたわ〜」

 冥子がさらっといっているが実際の所、そんな事は表立って知る事の出来ない情報であった。そんなことを知るはずのない横島はへぇと感心するばかりであった。

 もともとGS協会が設立されたのは戦後、直後であり、まだまだわずかながら帝国軍の力が残っており、不安定な時期であった。そんな情勢の中、霊能者たちの能力を見た過激思想のものが霊能者の力を使えば大逆転する可能性があると謀ったのだ。

 だがその頃の霊能者たちの大半は陰陽寮出身の家系であり、政府によって振り回されるのはごめんだと反発したのだ。彼らの先祖は政府によって突然、陰陽寮という組織を解体され、突然、路頭に放り出され、食うや食わずやの生活に困窮しつつ、必死に食いつなぐ事を強いられたのだ。

 そういった中で生き残るためにあえて軍部に近づくもの、政治家と直接結びつくものなど様々な行動を取っていった。

 まあ、中には六道のように力も金も持っていた者もいたが、そう言ったものも先のことを考えると不安があり、事業を起こし安定するまでには色々と苦労はあったのだ。そういった中でも六道は困窮していた霊能者達を支援することで今は六道グループとして力を持つに至っていた。

 管理しようとしたのは軍や政治家に近い者たちであり、それを潰したのは六道を代表する自力で自立した者達であった。

「二次試験にいけるのは128名ね〜。ボーダラインに居る人たちはラプラスのダイスによる運試しで決められているわ〜。確か私が受けた時は〜、1018名ぐらいだったから〜、倍率は役9倍くらいね〜」

「きゅ、九倍ですとっ!?」

「そうよ〜」

「だ」

「だ?」

 横島の言葉に冥子は首をかしげた。普段の横島であれば飛び掛っていたぐらい愛らしいがGS試験の困難さに衝撃を受け、頭は真っ白だった。

「駄目だーーーっ! そんなんに受かるなんて全然、想像できんっ!」

「大丈夫よ〜。受かる見込みがなかったら、令子ちゃんも受けるように何て言わないわ〜」

「うっ! 確かに、美神さんは無駄なことはしない主義…」

 令子の気性に納得しかけたが、己自身への信用が皆無に等しい横島にはそれでも不安が残った。

「私も大丈夫だと思うわ〜。令子ちゃんや私が信じられない〜?」

 少し潤んだ瞳で見つめられた瞬間、ある言葉が浮かんだ。

…忠夫、いいか女は泣かすもんじゃないぞ、鳴かすも、ぐわばっ!? な、何を、す、する…んですか、ゆ、百合子さん!?

…子供になんてことを言うんだい? あん? こっちが鳴かしたろうか? この宿六!

ぎゃーーーすっ!!

って違う違うそうじゃない、こっちだ。

いい? 忠夫君。女の期待に応えるっていい男の第一条件よ。がんばってね?

 そう、これだーー! 千恵さんの言葉。これができねばモテモテ街道を突っ走る事などできんのだーーっ!!

「冥子さん、自信はないですが、あなたや美神さんの期待に応えて見せます!!」

 がしっと冥子の手を握り、きりりとシリアスに横島は言ってのけた。

「あっ、いけないわ〜。ここが現場で除霊中なのに〜」

「はっ?」

「みんな気が立っているから…」

「な、なんでじゃ〜〜っ!!!」

 冥子の影から躍り出た者達が津波のようになって横島に覆いかぶさっていった。

「危ないのに〜」

「ぐあばっ!? ばっ!? ばっ!? ばっ!?」

 黒い影に飲まれた横島は奇声を発し、ぴくぴくと痙攣していた。そんな中でも冥子の言葉が聞こえ、そんな事言う前に何とかしてくれと思ったのだがそんな余裕はなかった。


     *

「むっ? 結界に圧力が掛かった? まさか!? いいえ、あの娘が暴走したんならいくら私が張っているとはいえ即席のもの。間違いなく吹っ飛ぶわね。何がおきているのかしら…って、何か、私が主役にしてヒロインのはずなのにおざなりになってない!?」

”ん〜、でも美神さんの場合はヒロインというよりもむしろヒーロー(それもダーク)ですね”

 キヌは令子のメタな発言をスルーした。

「どういうことかしら?」

”かっこいいじゃないですか? それに美神さんは守ってもらうだけの立場に甘んずる事なんて出来ませんよね?”

「…そう、かもね(でもね、おキヌちゃん、私にも一応、乙女心って言うものがあってね。少なからずそういう立場になって見たいって事もあるのよ…)」

 言外にキヌにか弱いヒロイン役はキャラ的に会わないのだと断定された事に心の中で涙した。

”横島さん、大丈夫でしょうか?”

「普通にやってりゃ、大丈夫だと思うわよ。でも、横島クンだからきっと余計な事でもやって冥子の式神にでもしばかれているんじゃない?」

”ええ!? また、アレをですかっ!?”

「まっ、大丈夫でしょ。除霊中なんだから、そんな余計な事している暇なんてあるわけないでしょ」

 だが、現実は令子の想像を上回っていた。令子の頑張りにより、予想以上に結界が効果を挙げていたのと、令子が把握しているよりも冥子の能力が高かった事が相乗して、かなり余裕が出来ていたことを令子は知らなかった。

”そうですよね…”

「大丈夫よ。いくら二人きりだからって、おキヌちゃんが考えているような親密な関係にはならないわよ」

”ええっ!? あ、あたしはそんな事考えてません!!”

「冥子の場合はその辺は幼稚園レベルだから好き嫌いがせいぜいね」

”でも、吊り橋効果っていうのがあるじゃないですか”

「それはないわね。冥子のほうは何時だって式神たちがついているっていう安心感があるし、横島クンにした所で女好きだとしても、進んで地雷を踏むようなタイプじゃないから大丈夫よ。初対面で冥子がどういう娘か身をもって知ったはずだし」

 どこでそんな言葉を覚えたのかと感心しつつ令子はキヌを安心させようと言った。

”だといいんですけど”

 少し引っかかる思いがあるがキヌは納得する事にした。だが、二人は忘れている。こと女に関しては横島という男、学習能力というか、懲りるということがないという事を。

「って、ちょっとぉ!? これで終わり!?」


     *


「駄目よ〜。さっきも言ったでしょ〜。お仕事の最中に余計な事しちゃあ〜」

 さっきまで雑談しつつ仕事をやってきたというのにそんな事を冥子はのたまった。まあ、冥子にしてみれば普段の除霊では不安を紛らわす為に式神たちと話をするので冥子の基準では余計な事ではないのだ。

「ははは、そうっすね…」

 実地での肉体的教育指導を受けた横島は苦笑いした。心なしか先の二回に比べて回復が早いような気がするのは気のせいか。今度はショウトラの世話にもなっていないので気のせいではないようだった。恐るべき回復力というか、環境適応能力というべきか。

「横島君て丈夫ね〜。普通なら病院送りになっているはずだもの」

 冥子はニコニコしながら言った。実際の所、ここまでされたら今までは病院送りになり、二度と冥子に近づく事はなかったのだ。それなのに横島は多少、態度が硬くなっているものの冥子を恐れている風でもない事に好感度をぐーんとあげていたりする。

「はっ、はっ、はっ、これぐらいで引いてちゃGSなんてできませんよ(ほんと…こんな事でへこたれては美神さんのそばには居れん!)」

 そう、よくよく考えれば令子にセクハラしてしまった時の制裁と何ら変わらんじゃないかと悟っていた。それどころかガードは高く制裁は並の令子とガードは甘く制裁(式神による)は高い冥子とどちらがおいしいか計算する始末であった。

 ちなみに計算結果は今のところとんとんである。長期的に見れば式神への対処を考えていけば冥子のほうが得であるということであった。ただし、あくまでも令子に比べて(なんせ基準が令子であるからだ。まあ普通の女であったならそれ以前の問題である)であって元を取れるかというか、利益が出るかといわれるとどちらも不良債権であった。

「やっと4階まで来たわ〜」

「というと半分クリアできたわけか」

 厳密には4階にたどり着いただけなので残り5階分ではある。

「順調ね〜。結界張ってくれている令子ちゃんのお陰だわ〜」

「そうっすね…! やっぱり、そうなのか…?」

「どうかしたの〜?」

「いや、多分ですけど、階をあがるごとに霊の数が1,2割多くなっているんすよ」

「そうなの〜?」

 冥子の問いに答えるようにサンチラがキシャーと声を上げた。

「本当みたい」

「わかるんすか?」

「お友達だもの〜」

 冥子は横島にそう告げつつ乗っているインダラの背を愛しげになでた。

「今のペースで霊が増え続けたとしていけますか?」

「大丈夫だと思うわ〜。まだ、他の子達が元気ですもの〜」

 不安そうな横島を安心させようとしているのか、何も考えていない素なのかは分からないが何時もどおりのおっとりとした言葉で笑って言った。その笑みには式神たちへの絶大な信頼を寄せている事を感じ、横島をほっと安心させるものがあった。

 令子がこの場に居ればいつもの冥子ではないと目を剥いた事だろう。

「じゃあ、ちょっくら気合を入れて行きますか」

「まだまだ先は長いから〜、ペースの配分を間違えちゃ駄目よ〜」

「そうですね。気をつけます」

「そうよ〜、GS試験でもペースの配分を意識しないと大変よ〜。私もそれで失敗しちゃったから〜」

 大変な事になっちゃったのよね〜と当時の事を思い出し、冥子にしては珍しい、苦笑いをした。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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