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GS美神 リターン?
Report File.0061 「海から来た者 その14」
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『親分、まだ動かないんですかい? このままだとカクの奴が勝ちますぜ?』
『ふん、まだだ。奴には勝利目前という時に絶望の淵に沈めるのだ』
ズワンは潰された右目がうずくのか右はさみで抑えた。
『分かりやした』
『いつでも飛び出れるように準備しておけ。もうじきだ』
『へい』
*
<…またもや、サービス権がカク・横島組に移りました! 依然、一進一退が続いております! 得点は15対16のまま動いておりません!!>
結局、横島は完全に回復できたわけでは無い為、力をうまく扱えず令子達と均衡を保つ状態になってしまい、ずるずると長期戦へとずれ込んでいった。それでもここまでの経過はカク・横島組がやや有利に展開していた。
<緊迫感のある状態が続きますぅ>
観客たちもこの攻防に息を呑んで見守っていた。
<まあ、どちらも限界が近づいてきているあるね。先ほどの令子ちゃんの状態から見て、厳しいある。もっともボウズ達の方もかなり消耗しているし、あの状態なら今回の攻撃を凌げば令子ちゃん達が勝てると思うあるよ!!>
厄珍の解説にあるとおり、令子は霊力の消費増大に伴い霊的防御力が低下し始めていた。先ほどのレシーブにしてもかなり危うく、手首辺りは薄っすらと赤みでて軽い打ち身になっていた。
(悔しいけど厄珍の言う通り。でもこれを凌げば、あの横島やカクの消耗ぶりから勝てる!)
令子は相手側の状態を観察し、そう分析した。こちらはナミコはサポートに徹していたのでそれほど消耗していない。自分自身は限界に近いが、相手側は二人ともが自分と似たり寄ったりだ。
(あの人、大丈夫かしら…いえ、何をいうの。あんな浮気者なんて知らないんだから!)
令子が現状分析を行っていた頃、ナミコは自分を必死に取り戻そうとしているカクの姿に内心、心揺れていた。
「ナミコ、相手はもう一押しで行動不能になるわよ! それに比べてナミコはまだ大丈夫。ここからはあなたがこの勝負の鍵よ」
「わかりました、美神さん。ここからは私ががんばって勝利をもぎ取って見せます!」
ナミコは令子に話し掛けられ、はっとし、自分はもう我慢できなかったから、この場に居るのだと先ほどの心の迷いを振り払い、気合を入れた。
『横島どん、これで決めないとまずいだ』
カクは己の限界がき始めている事を自覚していた。
「ああ、そうだな。それより大丈夫か?」
色々とダメージを食らっていた横島はともかくカクが消耗しているのは、照りつける日光と令子の作戦阻止に使用した方法が原因であった。
カクは半魚人である為、乾燥には弱い。令子の遠隔操作を妨害するには霊力を大量に消費する等、令子はそれを見越して長期戦へともつれ込むように作戦をやりつづけ、カクに体力、霊力の消耗を強いたのである。
『だども、あっちには殆ど疲れていないナミコがいるだ。美神どんも霊力はともかく体力は残っているだ』
横島には異形であるが故にカクの表情からどういう状態なのか読み取れないが、態度とその肌の表面等から随分弱っている事に気が付いた。
「それに比べてこっちは二人とも体力も、霊力の方が尽きかけているからな。さすが美神さんだよな」
横島もまた、霊力の制御というか、力の配分という点では令子に数段劣る事もあり、霊力がつきかけていた。ここまでやってこれたのも、翔子や千恵達の応援のお陰だ。
それにまだ何か手を打たれているかもしれない、と横島は思った。なぜなら、令子は勝てると思わせて叩き落すのが好きなのだ。が、口にすると不安が増しそうで口をつぐんだ。
『これで決まらないと、正直オラ達が勝てる確率は格段におちると思うだ』
向こうの方ではナミコが気合を入れているのが二人の目に入った。
「そうとなれば、できるだけナミコさんより、美神さんにボールがいくようにしなくちゃな」
『んだ。オラの家庭がかかっているだ。慎重に行くべ』
カク自身も横島と同じく何か霊感に引っかかるものがあるのか、慎重な態度で臨んだ。
「いくぞっ!」
横島は気力を振り絞り、鬼が出るか、蛇が出るかの心境でサービスを行った。狙いは敢えて弱っているはずの令子にである。
「くっ! (やっぱりこっちに着たわね)」
令子は弱っている自分に来るのは当然だろうと思っていたので、時間を掛けて霊的防御を高め準備していた。
時間を掛ければ霊力の消費を抑える事ができるのだ。それにより令子は危なげなくサービスをレシーブして打ち上げた。
「ナミコ!」
「分かったわ! 令子さん!」
令子の意を汲みナミコはクイックでスパイクを打ち込む。
「こなくそっ!」
てっきり、令子がスパイクを打ち込んでくるものと思い込んでいた横島は対応が遅れた。しかし、持ち前の身体能力のお陰で何とか飛び込みレシーブしてボールをあげる事はできた。
しかし、位置的なことと消耗から、あげても横島がスパイクを打つには間に合わないと判断したカクはそのままスパイクすることを選んだ。
『だーっ!』
バシュ!
打ちやすいようにあげられたものではなく高さも無い為、カクがスパイクしても思うほどに強烈にはならなかった。
「えいっ」
それ故に容易くナミコに拾われた。
「いいわよ、ナミコ!」
ナミコの動きに令子は満足し、ボールをあげた。
「いきます!」
ナミコはこれまでに無く思いっきりジャンプした。その高さは令子に勝るとも劣らないほどであった。
おおーーっ!
今までこの日射血暴流に参加していた中で比較的に人並みな身体能力しか見せていなかったので、観衆の驚きは大きかった。そう、回りが途方も無かったので、ナミコ自身も人間としてみれば規格外の能力を見せていても、余り目だっていなかったのだ。
「やばいっ!」
横島はこれまでにない危機感を感じた。実の所、ナミコは今までのジャンプは1メートル半ぐらいからのスパイクばかりであった。それでも、令子程強烈ではないが、それでも8割近い威力があったのだ。それが2倍以上の高さから繰り出されるとなると令子以上の威力が有ると推察できた。
どこに打ち下ろされるか分からず、無駄を生じずに反応する為にもナミコを凝視した。ナミコはスパイクに勢いをつけるべく背をエビ反りにした。それは自然に横島にとり、ナミコの胸をしたから見上げる事になる。それがいけなかった。
(ああ、ナミコさんの胸…いい形やったなぁ。大きさは美神さんには全然かなわんけど、美乳何は確かやしな…)
一瞬とはいえ横島はナミコの胸に見とれてしまった。はっと気が付いたときには眼前にウニボールがあった。
「な゛ぁっ!?」
咄嗟に横島は顔に霊的防御を施した。
バスッ!
「がはっ!」
霊的防御は何とか間に合い、額部分で受けた。
『横島どん!?』
思わぬ事態にカクは声をあげるがいかんせん今はインプレーなので、ゲームは続けねばならなかった。横島は気に掛かるが一人で対処するしかない。ウニボールは反射的に受けたとはいえ何とか上に高く上げられていた。
『これで決めるべ!!』
カクは気合を入れ飛び上がった。どちらにしろこれで決めねば、今回の攻防に次は無かった。
『チャンス! 今だ! ファイヤーーッ!』
『アイサーー!』
ボシュッ!!
海から発射音と共にスパイクをしようとしたカクに何かが向かった。
チュドーーン!!
海から飛来した塊がカクに命中し、爆発した。
「どぅわ!?」『な、なんだ!?』「な、何よ!?」「何が!?」”ほぇ”「みぃ?」
突然の出来事にその場にいたものは混乱した。
ボタッ! ガツッ!
「ぐはっ!」
空から二つ物体が落ちてきた。一つは所々が真っ黒になり、目を回したカクだ。もう一つは…
「なにこれ?」「イカ…よね?」「イカの姿焼き?」
なんとも香ばしい匂いを漂わせた全長50センチぐらいのイカが横島の頭に落ちてきたのであった。横島はそのイカのダメージに砂に突っ伏していた。
『な、なんだ? 何が起きやがった?』
カクもまた砂に這い蹲り、少し意識も売ろうとしながらカクは言った。所々黒いのは爆発によって炭化したのかと思ったが、良く見ると違うようで、そう見えた部分はイカ墨であった。
『こ、こいつは!?』
「知っているの?」
『ああ、こいつはイカ族でも厄介な特攻一族でヤリ…』
「もういい…わかったわ」
スケの解説を聞いてる途中で何とはなしに疲れてしまった令子は説明を遮った。
頭痛いわと令子が頭を抑えた時、海より声が響き渡った。
『とぉーちゃんーー!』『かあちゃあーーん!』『HELP ME!!』『あうあう…』
声のする方向に注目するとそこにはアニメにでも出てきそうなほど表情豊かな魚達が籠びくに入れられて助けを求めていた。
『「ああっ!? こ、子供たちっ!!」』
意識せずして同じせりふをカクとナミコはシンクロして叫んだ。
「ああーーっ! やっぱり、人魚も海産物なんやーー!」
泣き叫んでいる魚がナミコの子供だと知り、横島は相当のショックを受けたのか認めたくないのか耳を両手で抑え泣き叫んだ。
「もう、何よ!」
突然の横槍に令子は不機嫌になった。なんと言っても先ほどのカクの攻撃を凌げばこっちが8割方は勝てた勝負とみていたのだ。
そういったわけもあって突然勝負に乱入してきた不届き者…籠びくを持って馬鹿笑いしながら登場した右目がつぶれた巨大なズワイガニのズワンを睨み付けた。
『ぐはははっ!! カクゥ!! おとなしく俺にやられやがれ!!』
令子の睨みも何のその。臆することなくというか、全然、気づいていないズワンは得意そうに笑い籠びくを振り回した。
『『『『『わわわ、わーーっ!!』』』』』
中に入っている子供達は堪らず悲鳴をあげた。
「『ああ゛!? オラ(私)達の子供達が!?』」
喧嘩中とはゆえ、いやにここまで息のあった夫婦はそうは居ないのではないかと思えるほどカクとナミコはシンクロしていた。
『ぬぬっ!! 卑怯なっ!! 戦士の誇りはどうした!?』
スケはズワンの変わりように言い知れぬ憤りを感じ叫んだ。
『あの噂は本当だったのか!?』
ヒデも以前のズワンを知っていただけにその変わりようを目にしてショックを受けていた。
『とっととくたばりやがれ。逝け!』
籠びくを振り回すのを止めずにズワンは指示を出した。
ズワンの合図とともに海から何十体と、先ほどカクに向けて飛んできたイカが飛び出し、ロケットのようにカク達のいた所に向かった。
この事態に当事者達だけでなく、今まで事の成り行きに呆然というか見守っていたというか観衆達にも被害が及ぶとパニックになった。
「どわっ!」「きゃーーっ!」「に、逃げろーーっ!!」
次々に飛来するイカ・ミサイルに慣習は逃げ惑った。
<た、大変な事になってきました>
<突然のイカミサイルの襲来ですぅ>
<って言っている場合じゃないあるよ!>
結構大変な状況ではあるがNHKシスターズ&厄珍達はマイクを離さなかった。さすがプロというべきか。
「うわっ!」
イカ・ミサイルが一人の少年に直撃コースで向かってきていた。残念ながら少年は人並みよりも運動神経が劣っており、どう考えても避けれない。
少年はもう駄目だと目をつぶった。その瞬間、少年はお腹に凄まじい衝撃を受けた。
「ぐはっ!?」
少年はそのまま後方へ凄まじいスピードで移動するのを感じた。目を開けると汗をダラダラと流し、少し涙目になった忍者装束を身にまとった少年と目が合った。
「よ、妖岩か…ありがと」
「………」
素直に礼を口にした妖岩が使えるべき少年せいこうの言葉に妖岩は頬を赤く染め照れた。
シュタッ!
何だか微妙な空気が流れていた所に氷雅が少女を脇に抱えてせいこう達のそばに着地した。
「若っ! ご無事で?」
氷雅は抱えていた少女香山夏子を下ろすとこちらにイカが飛んでこないかくるりと海の方を向いた。
「う、ん!?」
問い掛けられたせいこうが氷雅の方に振り向くとそこには後ろ姿がほとんど全裸で見えたことに言葉を詰まらせた。
「せいこうくん、見ちゃダメ(もう、氷雅さん大胆すぎ)」
その様子に慌てて夏子はせいこうのメガネを取った。
「うわ、香山」
いきなり視界がぼやけてしまいせいこうは慌てた。
「………」
そんな彼らを背後に姉である氷雅に倣って妖岩も警戒した。
「だーっ! いきなりなんなのよっ!?」
「どわっ!」
『みぃ〜!』
飛んでくるイカに美神除霊事務所の面々は様々な反応を見せた。令子は突然の乱入に勝負を中止せざるおえなかった事に苛立ち、横島はただ逃げ惑い、グリンは器用に避けながら何が楽しいのか歓声をあげた。
キヌに至っては飛んでくる事こそ特殊ではあっても、霊的攻撃ではなく体をすり抜けていくだけなのでよける必要すらなかった。
それ故に…
「ここは何時から戦場にーーっ!!」「見える! 私にも見えるぞ!」「母さん!?」「マリアーーッ!!」
観客の悲鳴や叫びが飛び交う中、のん気に
”みなさん大変ですね”
と呟いた。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。