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GS美神 リターン?
Report File.0058 「海から来た者 その11」
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「なんの!」
「これで決まりよっ!」
「こなくそっ!」
「はいっ!」
『これでどうだべっ!!』
「いくわよっ!」
2セット目は1セット目と異なり、一方的な展開は無く、攻防は一進一退を繰り返した。それにより、元々令子達の方にハンデがあった為にナミコ・令子組に有利に展開し8対5としていた。
「はっ!」
調子をあげてきた令子によって横島と同じ5メートルぐらいの高さからのスパイクが行われた。
「なんのっ!」
負けてたまるかと横島はスライディングしつつレシーブを行う。
「!?」
いや、行おうとしたが失敗し、うまく拾えなかった。
ピピィーーーッ!
<令子選手のスパイクが見事決まりました! これで9対5! セット終了です>
<これでぇ、第2セットはナミコ・令子組がぁとりましたぁ! いかがですかぁ、厄珍さん?>
<いやはや、凄いあるねー。令子ちゃんは気分屋の所があると思っていたけど、ここまで身体能力が跳ね上がるとは思わなかったある。それに令子ちゃんに目立たないあるけどナミコちゃんもしっかりとサポートしていて勝利に貢献しているあるね。それに比べて男どもの方はいまいち息が合っていないようね>
何時の間にやら厄珍は全ての女の子をちゃん付けで呼んでいた。
「?? なんだったんだ? 今のは…」
横島は先ほどレシーブしようとしたウニボールがおかしな動きをしたと感じ呆然としていた。
『ドンマイだべ、横島どん』
失敗して落ち込んでいると思い込んだカクは先ほどのスライディングした体勢のままの横島の肩を叩いた。
「なあ、カク。さっきの美神さんの決め球何かおかしくなかったか?」
そう、自分の予測した通りにはウニボールが来なかったのだ。今までは直線的な動きだったのがおちてくる時に曲がったように見えたのだ。普通のボールならそういう事もありえるかもしれないがウニボールでそんな事ができるのか横島には判断つかなかった。
『どうしたべ? 美神どんは何にもしてないように見えたべ』
横島に言われて令子の行動を思い出すが別段不審な点は見つけられなかった。
「気付いてないのか…」
『何をだべ?』
「さっきのスパイク、多分、美神さんは何かをやった」
横島だって令子が何かをやったと言う確証は無い。ただ、さっきのレシーブは拾えたはずなのに拾えなかった事が引っかかった。
『ま、まさか!? そんなんだかっ!?』
カクは少々オーバーアクションで驚きを示した。
「なあ、スパイクを曲げる事ってできるのか?」
『んーー、一応、聞いた事があるだ。だども、日射血暴流でも一番、難しい技だし、極端には曲げれないべって、まさか!?』
横島が言った事は一応、技として存在するがウニボールは普通のボールとは違うので、サービスでならともかくスパイクで曲げる事は不可能に近い。カクの言っている技にしても少しだけ起動を変えて、拾い難くするぐらいが関の山である。
「ああ、そのまさかだ。どうやってかはわからないけど、美神さんはそれを実現させている」
あのスパイクを決めた時、目にした令子の口元に浮かんだ微笑こそが横島に確信を深めていた。
(あれは絶対、何か企んでいる時のだ)
横島が弟子入りしてから、まだそれほど月日は経っていないが、何故かそう感じる事ができた。
『もしそうなら厄介だべ…』
横島の様子に美神がスパイクした時のウニボールの動きを思い出してみると確かに何かおかしい気がした。
「その通りだ。早く見極めんと、俺のねーちゃんがっ!!」
横島は最も懸念すべき事項を口にした。
”よこ…”
その言葉に気を落としてそうな横島を励まそうとしたキヌは言葉を掛けようとして止め目つきがきつくなり、プイっと横島の元を後にした。
『横島どんも好きだべ〜』
カクも横島の反応に流石に自分でもそこまでは酷くないと思ったが、キヌの反応に自分とナミコの姿が重なり冷や汗をたらした。
「ふふ、予想以上にうまくいったわ」
令子は自分の思っていた以上の成果を見てご機嫌になった。多用すれば何をやったかばれやすくなるので、ここぞと言う時でなければ使えないのが難点ではある。
「令子さん、やりましたね」
ナミコも手を合わせて嬉しそうに笑った。彼女の場合はカクが2セット目を落として悔しい顔をしていた事が気持ちよくご機嫌だった。
”美神さん! その調子です、がんばって、勝っちゃってください!”
キヌもナミコに続いて話し掛け、ぐっとガンバですと勢い込んで令子を応援し始めた。
「ど、どうしたの!? おきぬちゃん」
なんだかどよんどよんした雰囲気をまとうキヌに令子は少し引いた。
「ふふ、断然、面白くなってきました」
氷雅は令子が何かを仕掛けてきた事を知り、笑った
「何だか最初に比べてどんどん激しくなってきてますね」
鏡子も試合の合間と言う事もあって先ほどまでの試合内容を振り返っていた。
「多分、美神さんも横島君もこのゲームに慣れてきたんじゃない」
確かに動きがドンドン二人とも良くなってきていたと忍も同意した。
「何だか見ていると熱い、熱いわね」
そう言って、先ほど「厄珍堂」というハッピを来た売り子から買ったアイスを頬張った。もちろん彼女だけでなくその場にいた者の殆どはアイスを手にしていた。
「そういえば昔に「光る汗、輝く瞳、今青春」ってスローガンがあったわね」
ちょっとばかし、昔を懐かしむよう千恵は呟き、はっとした。自分はまだまだ若いというのに懐かしがってどうするのかと首を振った。
「ほほほ、そう見えても中身はそうじゃなさそうですけど」
千恵の言葉を引き継ぐように、氷雅は令子と横島の動機を知っているからか、鏡子達に意味深に言って笑った。ただ、言われた彼女たちにはわからなかったのでキョトンとした。
<さあ、とうとう最終セットにまで持ち込みました。果たして勝利はどちらの手に。このセットをとれば勝利者の決定となります!>
安奈が張り切って実況を始めたが彼女たちには、この勝負に何がかかっているのは知らされていなかった。
<先ほどのから見ると令子ちゃん達のほうが有利ね。ボウズ達が挽回できるのか楽しみね>
厄珍は頬杖をつきながら言った。もっとも実際は隣の安奈を間近でサングラス越しに観察し、時折ぷるんと揺れたり形が変わる胸に、うひょっと呟きつつ、目尻が下げていた。
<ではぁ最終セットのぉはじまりぃですぅ>
花音の言葉を合図にヒデは開始の笛を吹いた。
*
「はぁ、はぁ、はぁ、まずい、非常にまずいっ」
『ふしゅー、ふしゅー、んだ、横島どんの言うとおり、ふしゅー、美神どんは何らかの方法で、ウニボールを曲げているだ…ふしゅー』
荒い息をついているのはカク・横島組である。勝負は一方的というわけではないが、8対2とナミコ・令子組に後1点で勝利という所まで追い詰められていた。何とかサービス権は獲得できたものの、それとても運が良かったと言えるものだった。
「少し、休憩を入れて整理しよう。このままじゃ、負けてしまう」
『んだな。審判! タイムだべ』
横島には女を紹介してもらう、カクは離婚危機が懸かっているため、どうしても勝機を見出すためにも、時間が欲しかった。
ピピィーーッ!
<おおっとここで、タイムのようです>
<ふむ、確かにこのままではカク・横島組は負けてしまうあるね。勝機を探るためにもここでタイムを取るのはいいタイミングかもしれないあるね>
至極まっとうな解説を厄珍はして、アルバイトの売り子から売上伝票を受け取り、にひっと笑った。予想以上に売れていた。
「ふう、流石にきついわね」
横島達に比べれば身体的には疲れておらず表面には出ていないものの、霊能を行使していたので精神的にはかなり疲弊していた事もあり、令子にとってもこの休憩は渡りに船というものであった。自分から申し出ていたら、横島に何かのヒントを与えていたかもしれないと危惧していたのだ。
「大丈夫ですか? 令子さん」
さすがにこれまでの試合の流れを見てスパイクするときに令子がなにやら仕掛けている事をナミコはうすうす気がつき気遣った。
「まあ、何とかね。それよりも少し瞑想するから、試合が開始されたら言ってくれる?」
ナミコに答えながら令子はすとんと座り、胡座をかいた。
「えっ!? あっ、はい」
(先生のようにうまくできればいいんだけど)
令子はナミコの返事を待たぬうちに万全を期すため、少しでも霊力を回復する必要があると瞑想に入り、周りの気を感じ始めた。
「やっぱり、美神さんは意図的にウニボールを曲げているな。どうやっているんだ?」
『スパイクする瞬間を見ていただが別段、変な動作をしてはいなかっただ』
「それは俺も確認した」
「だが」『だども』
『「異様に霊波が出ていた」』
『なんだな』「よな」
『それにどういう意味があるだ?』
「そうだよな…でも、あの美神さんが無駄な事をするはずがない!」
令子は合理主義者でもある。いかに効率よく除礼するかという事を常に仕事では考えてきていた。その教えは横島も叩き込まれているのだ。だから、なにか理由があるはずなのだ。
『なんだべな』
「うーむ…(ウニボールを曲げるって事は…要するに遠隔操作しているって事だよなって)ああっ!…」
思考の末に令子が何をやっているか気が付き、思わず大声を上げてしまったが慌てて自分で口を押さえた。それからそっと反対側に居る令子の方を見るが、幸いにもナミコや令子はさっきの自分の声に気づいていないようでほっと一息ついた。
『ど、どうしただ? 横島どん』
「しっ! わかったんだよ。美神さんがやってたことが」
『ほ、本当だか!?』
「ああ、言うのは簡単だが思いつくのは難しいかもしれん。俺はたまたまそういう事ができるという事を知っていたから答えに辿り着いたんだ」
横島はサイキック・ソーサーという能力がある。元々は防御力を強化する為のものだが、フライング・ソーサーのように投げて使用する事もできる。その際に遠隔コントロールする事でブーメランのように戻ってこさせたりもできる。まだ自分にはできないが自由自在に動かす事もできるのだ。
『どうやっているだ?』
「まあ、多分だけどあのウニボールを自分の霊波で包みこむ事で、遠隔コントロールを可能にしているんだと思う」
『そんな事ができるんだか?』
「ああ、…」
そういって、横島はカクに自分のサイキック・ソーサーについて説明した。
「というわけで、それを応用させればさっき言った事もできる(多分だけど)」
実際に自分では試していないのでいまいち自信が持てないが仕方ない。
『そんな器用な事ができるんだか!?』
カクとしては自分にはそう言う使い方を考えた事がなかったので、十分に驚きに値する使用法であった。
「器用って、俺でもできるんだから、誰だってできるんじゃないか?」
基本中の基本と思っていた事もあって、カクの反応に何を大げさなと横島は思った。
『そんな事ないと思うだ』
「そうかな? あっさり真似された覚えがあるんだけど? あれっ? どこっていうか誰にだっけ?」
腕組して横島は考えるが思い出せない。
「まっ、いっか。今はそんなのに悩んでいる暇はないからな。ねーちゃんがかかっとるんや」
横島は気を取り直してカクとどうするか相談し始めた。やっている事はわかってもどう対処するかは決まっていないのだ。
「大丈夫かしら横島君」
鏡子は随分動き回って疲れているように見える横島を心配した。
「がんばっているみたいだけど、美神さんに押されているものね」
すごいなー美神さん。半魚人の人相手にも一歩も引かないどころか押してるし、流石横島さんの師匠ねと朝美は令子に感心しきりであった。
「大丈夫じゃない? 横島君、もう元気そうにしているし」
カクと相談している横島を観察していた翔子が気軽そうに指差した。そこには身振り手振りで何やらカクに説明している横島が居た。
「そうですわね。何か掴んだようですわよ」
氷雅は口元に微笑を浮かべた。
「本当? 氷雅さん」
忍はその笑みを見て少し顔を引きつらせながらも聞いた。
「ええ、いまその対策を練っている所のようですわよ」
「はあ、相変わらずの地獄耳ね」
氷雅の言葉に澪は毎度ながらと感心した。
「曲がりなりにもプロですから」
氷雅としては今まで全てを投げ打ち、奉げてきた業である。活かしてこそ報われるものと考えていた。
「そうなれば、この試合、崖っぷちだし横島君を発奮させてあげなければいけないわね」
さっと髪を掻き揚げながら千恵は今から悪戯するぞといった楽しさを感じさせる笑みを浮かべた。
「横島君に発奮ですか」
何となくその意味がつかめたのか沙希は頬を赤らめた。女子高生組は彼女たち就職組が何を言っているのかわからなかった。
「まあ、確かにスケベな忠夫くんには効果的かな?」
前の時の様子を思い浮かべたのか法子は笑った。横島は根はスケベであからさまだが、こっちがちょっと好意を表せばうろたえると言う実に純情な面を見せるので可愛いとも感じていた。ああいう時は母性本能をくすぐられるものがある。
「美神さんがやっているのって、いってみればラジコンとかの霊波版だからな」
多分、今の自分でもサイキック・ソーサーをジグザグに飛ばしたりと自由自在に操る事はできないが、ブーメランのように戻ってくるようにしたりは一応できるのだ。だから、一応、令子がやっている事を横島も多分できると考えていたが、それだけでは勝つ事はできない。
『んーー、そうだべ! オラ達が深海とかで活動する時は流石に目では見えないから、霊波を横島どん達の言う所のソナーっていうやつの変わりに使うだ』
「霊波をソナー?」
ソナーって言うと超音波か何だかの反射を利用して探知する奴だよなと横島は潜水艦とかが出てくる漫画で確かそう言う装置があったなと思い出した。
『んだ。で、そう言ったところで戦う事があるだよ。その時に目くらましに周囲に発せられている霊波をかき乱す技があるだ』
「なるほど、その技を使えば妨害できるかも知れないな。でも、できんのか?」
そう言う技があるっていうだけで終わると困ると横島は確認した。
『大丈夫だ。まかしてケロ』
カクは自慢げに胸をドンと叩いた。
「よし! 何とか対策ができたな。ところでその技って難しいのか?」
『ん? 基本は簡単だべ。ただ、熟練しないと霊力を大量に使うだ。だども、横島どんには使えないだ』
「どうしてだ?」
『陸者にはえらが無いべ』
「…そういう技か」
<タイム終了ですぅ>
タイムの時間が終わった。
「ちょうど時間切れか」
『だべ』
この対策がうまくいかなければ負けると、最後のチャンスにかけるべく横島たちは気合をいれて望んだ。
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。