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GS美神 リターン?

 Report File.0053 「海から来た者 その6」
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「ん? 何だ、あの人集りは?」

 横島は令子と相談するために洞窟を出てホテルへと戻る途中、黒山の人を見つけた。興味を引かれて少し覗いてみるかと近づいていくと人々の口々に言葉のぼっていたのが聞こえてきた。

「おお、すげー」「始めてみたわ」「本格的だ」「何? あの奇妙な生物は」「こんなのどうやって作ったってんだ。えらいリアルだ。」「あの子、どっかで見たことがあるような…」「可愛い娘だけど、幽霊か…おしい」「おージャパニーズ・ファンタジーでースっ!!」

(何か、わからんが注目を集めている人物が誰かわかったような気がするな…)

 この原因となった者に心当たりがあったが怖いものみたさで横島は人集りに割って入った。

(やっぱり…)

 横島が見た光景は、とても砂浜の砂で作ったとは思えない程、細かく精緻な城であった。

”できましたっ!!”「みみみ〜〜っ!」

 最後の外堀が完成し、額を拭ったキヌが満面の笑みを浮かべて宣言した。その途端、オオーッ!!と歓声とパチパチと拍手が飛び交った。

”えっ!?”「みみ!?」

 夢中になって回りに人が集まっていた事に気が付かなかったキヌは驚いた。そして、真っ赤になって一人と一匹は慌てて逃げ出したのであった。


「しかし、すごかったな。あの城」

 逃げ出したキヌたちを追って合流した横島がさっきの砂の城の感想を言った。今はキヌに令子の所へ案内してもらっている。自分の部屋と打ち合わせ時間しか聞いていなかったからだ。

「み〜〜〜っ!!」

”へへ、グリンちゃんにも手伝ってもらったんですよ。夢中で作っていたらあんなことになっちゃいました”

 横島の言葉にキヌは照れた。

「人だかりができていたんで何だと思ってみたらおキヌちゃん達だったんだもんな。びっくりしたよ。でも、よくあれだけリアルに作れたよな。女の子だからそう言うの興味ないと思っていたし」

”こっちに出てきてから、色々と調べましたから”

 街で生活するのにというか、街に来てから文明開化についていけずにいたので、これではいけないと一念発起して勉強したのである。そのお陰である程度の常識とかは身に付けつつあった。横島の友人とかの手も借りていたりするので、少し偏っている所もあるみたいではあったけれども。

「そうなんだ。仕事がうまくいけば明日フリーで遊べるから俺も挑戦してみようかな」

 横島もあれだけのものを見せられると自分も作ってみたいと意欲を刺激された。

”その時は私も手伝いますね”

「みぃ〜〜っ!」

 今やグリンにとって殆ど定位置となった横島の頭の上で自分もと主張した。

「わかった。グリンも手伝ってくれ」

 横島はそんなグリンを微笑ましく思った。

”あっ、話が長引いちゃいましたね。ここです”

 話をしているうちに目的の場所である令子の部屋の前に着いた。

「さすが美神さん…俺の部屋と違ってスイートか…」

”美神さん、今日知り合ったお友達と話すって、さっさと部屋へ引き上げましたけど居るのかな?”

「何!? その友達って美人だったか!?」

 横島は令子の友達と聞いて女と決め付けていた。男とは思わないのはやはり男の影が普段から見えないからだろう。

”…美人でしたけど…”

 キヌはそんな横島の反応に少しむくれながら言った。

「何!? 是非とも紹介してもらわなければっ!!」

 横島は力の限り叫んだ。令子をGS見習いとして師と仰ぎ始めてからこっち、美人、美少女との出会い率は赤丸急上昇だったので今回も期待したのであった。

”……様子見てきます”

 プイっと横島から顔を背けてキヌは令子の部屋の扉を通り抜けて行った。

「…なあ、グリン。俺、おキヌちゃんに悪い事したっけ?」

 キヌが不機嫌になったのを見て横島は頭に載ったままのグリンに答えが返ってくるわけもないのに聞いた。本来ならそれ程鈍いわけでは無いのだが、素直な好意を余り受けたことが無かったり、自分なんかにといった思いが原因で好意を認識できないのであった。

「みぃ〜?」

 グリンは横島の質問に首を傾げた。その仕種は問いかけの意味が分かっているかのようなものだったが意思の疎通ができるわけではないので本当のところは分からない。

”横島さん、美神さんは居ました。居ましたけどちょっと大変です…”

 ちょっと顔を顰めたキヌが上半身だけを扉から出して言った。

「大変な状況?」

”はい、どうも酒盛りしていたみたいで”

「昼間っからか!? 夜に仕事があるっていってたのに…大丈夫なのか? とにかく開けてくれ。一応、仕事に関係する大事な話なんだ」

 横島はキヌの言葉に大丈夫なのかと不安になった。まだ付き合いが浅いだけに令子が酒を飲んでいるところなど余り想像できなかったのだ。

”ちょっと待ってください”

ガチャ

 何秒もしないうちに鍵が開く音が聞こえた。

(こういう時、何時も思うんだが、幽霊にはっていうか、おキヌちゃんにはセキュリティなんて関係ないんだよな…)

 もっともこんな事ができるのはキヌの様な特別な霊だけである。悪霊もやろうと思えばできない事は無いだろうが、基本的に妄執に囚われているのでそこまでの知能が働かず、開けようとすると力任せになるのだ。

 横島は鍵が開くと扉を開けた。

むわ〜〜〜っ

「な、何だ!? この匂いは!? …って、これ酒の匂いかっ!?」

 過去に横島の父親である大樹が酔っ払って帰ってきた時にかいだ事のある匂いが扉を開けた途端に漂ってきていた。こんなにも匂いが漂ってくるなどただ事ではない。横島はどんな事になっているのか想像がつかなかった。

(み、美神さんがゲロぶちまけて倒れてたりなんかしたら嫌だぞ!)

 内心ではそう思うのだが、キヌがそういった事を告げてないのでそういう最悪の事態にはなってなさそうであった。

ごく

 自然と生唾を飲み込んだ横島は部屋に足を踏み入れた。始めの一歩はかなり緊張したものの、その後は勢いで進む事ができた。

「な、なんじゃこりゃーーっ!!」

 横島が令子の居る部屋に入ると驚くべき光景が広がっていた。おそらく飲んでいたのであろう二人の周りには瓶が何十本と転がっていた。瓶には色んな国の言葉が印刷されたラベルが貼られていたし、酒の事をよく知らない横島でも一目で高級なものと分かるものもあった。

「こ、これだけの酒を数時間で飲んだだ? 一体どういう胃袋しているんだ!?」

 普通なら急性アルコール中毒になっていてもおかしくないというか、そんな事を突き抜けて自殺志願ですか? と聞いてしまいたくなるぐらいのアルコール量だ。酒好きが見れば酒の精が泣いていると涙するような惨状だ。

”凄いですよね。でも、流石にこんなに飲んだら身体に悪いような気がするんですけど?”

「身体に悪いどころじゃないわい。さっきの匂いはこれが原因なわけか。おキヌちゃんとにかく窓を開けて空気を入れ替えよう。多少暑かろうがこのままで居るよりは随分マシだ」

 エアコン等の文明の利器でも流石にこれは浄化が追いつかないだろうとキヌと横島は手分けして窓を開け始めた。部屋がスイートなだけあって無駄に部屋は広かったのだ。

「美神さん! 大丈夫ですか?」

「ん〜? なに?」

 令子は酒により眠気を誘われているのか目が少しトロンとしていた。そして濡れた唇が一瞬、横島の目にクローズアップされ、誘っているのかと感じられた。思わず本能で令子に飛びかかろうとしたが、足が瓶にあたり、カツンと音を立てた事で理性を取り戻し、はっとした。

(や、やばい。これじゃ、いつものパターンどおりに叩きのめされる。相手は素面じゃないから加減をしてくれんかもしれん、そうなれば…死あるのみ)

 横島は理性で何とか本能を押さえつける事に成功した。ちらりと令子のほうを見ると隙がありそうに見えたが目の輝きが違っていた。トロンとはしていても死んではいなかった。

───当方に迎撃の用意あり!

 そう言っているように横島には感じられた。

「え〜と、仕事について大事な話があるんですけど…」

 恐ろしく卑屈な態度でごまをするように令子に用件を述べた。

「あ〜ん? な〜に、横島クン? 詰まんない事だったら張っ倒すわよ?」

 さっきの横島の挙動に不審を感じていたのか何気に剣呑な返事であった。

「いや、えーとですね…」

 まるで蛇に睨まれた蛙のようにダラダラと脂汗を流して、どう話を持っていくか考えた。その時、

「うーん、令子さんどうかしたの?」

 と瓶を左手に抱えて右手に持ったグラスの中身をぐびぐびあおりながら、令子に声を掛けた女性がいた。

(あっ! そういえばもう一人居たんだよな…美人だなって、あれ? どこかで見たような…)

 横島は多少、場のせいで混乱し忘れていたが、令子の連れが居た事を思い出した。

「おわーーっ! あんた、ナミコさん!?」

 思わず後ろ向きのまま、飛んでナミコを指差していた。(よい子は人を指差しちゃいけません)その指先は動揺してか震えていた。

”知り合いですか?”

 そんな横島の態度にキヌは不思議そうにたずねた。

「知り合いかといわれれば違うんだが、ある事情で知ったっていうか…」

 今回の事件の真相と解決する方法について話に来たのにその原因がいきなり目の前に居た事で横島はどうしたものかと混乱していた。

「はっ!? あなた、夫の刺客ですね!!」

 ナミコは自分が会った事もないのにこの横島という男が自分を知っている理由を思いついた。かなりアルコールを摂っていたはずなのに、それを察するとさっと身を引き警戒を露わにした。

「「刺客っ!?」」”刺客ってたしか、暗殺したりする人のことですよね?”「みぃ?」

 令子も横島もその言葉に驚いたが、キヌとグリンは少し違う反応を見せていた。

「刺客って、どういう事かしら? 場合によっちゃ、横島クンでもただじゃすませないわよ?」

「うぉあ! ち、違いますよ! 俺は刺客になった覚えなんてありません!!」

 横島は剣呑な目つきで自分を見る令子に否定するようにぶるんぶるんと左右に首を振った。

「うそよっ! 煩わしくなったから消す事にしたんだわ! そうよ、あの人ならやる時はやるもの!!」

 しかし、そんな横島の弁解をナミコは否定した。顔の色など余り赤くなっておらず、表立って酔って無さそうに見えたが、言動を見る限り、正常な判断をしているようには見えなかった。

(…あれはどう見たって酔っているな…)

 横島はナミコを見てそう考えた。その瞬間、

ゾクッ!

 何とも言えぬ嫌な予感がよぎり反射的に動いた。

シュッ! ガッ!

 さっきまで横島が居た場所に神通棍が振り下ろされ、床を叩いていた。

「うぉわぁ!! な、何をするんスか!!」

「…決っているじゃない…刺客にまで身を堕としてしまった横島クンに引導を渡すためよ。それが師匠としての義務っ!」

 令子は神通棍を横島のほうに向けて構えた。何だか凄く気合が入っており、横島を見る目つきは獲物を狩ろうとする野獣のものであった。令子はぺろりと唇を舌で舐めあげるといつでも飛び掛れる体勢を整えた。そんな様子を見た横島は色んな意味でぞくぞくと悪寒を背中に感じた。

「だーっ! やっぱ、美神さんあんた、滅茶苦茶酔ってるやんかーーーっ!」

 横島は酔っているとはいえ弟子たる自分よりも、今日知り合ったばかりの人? の方を信じている令子に涙がちょちょぎれるのであった。

「うっさいわね! 男なんて信用できないのよっ!」

 令子は吐き捨てるように言い放った。何だか凄く鬱屈していたものがあったようだった。

「そうだ、そうだ!!」

 いつの間にか令子の背後に移動して空になっている瓶を振り上げてナミコが同意した。

「パパも、あいつも、それにお兄ちゃんも、みんな、みんな、信用できない!! みんなそばに居てくれないんだもん!」

 信用できるのはお金だけなんだと令子ははっきりとしない頭で思った。

”あ、あのーでも今は私達が居るじゃないですか、それじゃダメなんですか?”「みぃ〜〜〜!」

 横島が危険な感じなので何とか事を治めようとキヌは口を挟んだ。自分も居るぞとグリンも自己主張した。

「おキヌちゃん…」

”はい? って、きゃっ!!”

 キヌは令子に呼ばれて素直に近づいた。その途端、キヌは令子に抱き寄せられた。

「そうよね。今はおキヌちゃんも、モガちゃんもいるもんね…」

 ぎゅっとキヌを抱きしめながら令子は呟くように言った。

「俺も、俺も居ますよーっ! 寂しいってなら、いつでもどこでも、ベッドまでもーーっ!」

ゴスッ!!

 自己アピールしようとする横島がいきすぎて飛び掛ったのを令子は迎撃した。

ドシャッ!

 令子の一撃は見事横島の顔面に命中し、迎撃に成功した。横島はドクドクと頭から血を流し倒れ伏した。

”………”

 明らかにこれは横島のミスなのでキヌは弁護しようが無かった。ついでに横島の言葉にちくりと胸が痛んだ。

「やっぱり、男なんて獣なのね。少しでも弱みを見せたら襲ってくるんだもの」

 ナミコは横島の様子を見て目頭からこぼれる涙をハンカチでぬぐった。

『それは違うだよーーっ!! ナミコッ!!』

 そんな失望感をあらわすナミコに否定の言葉を掛けた者が居た。

「あ、あなた!?」

 声を掛けたのはナミコの夫であるカクだった。突然現れた夫にナミコは驚愕し、咄嗟に逃げようとしたが生憎、横島の時に部屋の角付近に移動していたため、逃げ場はなかった。出入り口は2箇所あるのだが、そこに行くまでにカクに捕まってしまう事はナミコ自身が一番良く分かっているため動けなかった。

「…って、まてっ! まてまてまてっ!! ちょっとまてーーっ! 今、お前どこから現れた!? さっきまで影も形もなかっただろうがっ!!」

 横島は頭から血を流しながらも、飛び起きてツッコミを入れた。

『ナミコーーッ! 話を聞くだーーっ!』

 そんな横島に構わず必死にカクはナミコに呼びかけた。

「だから、話を聞けよ! こらっ!」

『いいか、男が…』

 横島は拳を硬く握ってカクに訴えるが柳に風のごとくかわされた。

「あくまでも無視する気か…」

 横島はわなわなと肩を震わせた。

ポンポン

 そんな横島に誰かが肩を叩いた。

『………』

「何さりげなく肩を叩いているんっスか、スケさん。 ってあんたもかーーっ!!」

『まあ、海洋の神秘ちゅう事にしとけ、あんまり考え込むと禿げるからな』

 スケの言葉に横島はちょっとした頭痛と共に自分がはげ頭になっているのが妙にリアルに思い浮かんだ。

(ま、まさか、俺って記憶失っている間に禿げ頭になった事が? ってそんなばかな!?)

 隠された記憶に横島は戦慄した。いままで取り戻したいなと思っていたが少しだけ、嫌になった。

「そう言ってても、あんたはいつもいつも…」

『違うだよ。戻ってきてけろーーっ!』

「ふんだっ! あんたが浮気止めないから、私もやってやるんだから!」

 横島ががくりと頭を俯かせて少々鬱になっている間も、カクとナミコの言い争いは続いていたが変化が現れた。ナミコが涙目になりながらひょいっと横島の腕を取ったのである。

「え?」

 いきなりのやわらかい感触に横島は顔をあげ腕を見た。するとナミコが自分の腕にナミコの腕を絡めて胸が押し付けられる感じになっていた。一体何がどうなっているのか横島には分からなかった。

「さっ、行きましょっ!」

 ナミコはそう宣言するとぐいぐいと横島を入り口のほうへと連れて行こうとした。

『ナミコーーッ! 待つだーっ! 横島どん、話が違うだーーっ!』

「えっ! え!?」

 事態についていけない横島は事の成り行きが掴めず戸惑ってしまった。ただナミコの胸の感触にもうどうでもいいやと状況に流されそうになっていた。

『待つだーっ!』

 カクも必死でナミコの向かう先に回り込み、通さんと手を広げた。

「もう、邪魔しないでっ!!」

 ナミコの顔に怒気がこもる。その時、二人の間に何かが天井のほうから飛来してきた。

ガシュッ!

「しゅ、手裏剣? いや、違うっていうか大きすぎる」

 床に星型の赤い手裏剣のようなものが刺さっていた。ただし、直径1メートルは確実にある大きさだった。

『『ま、まさか!?』』「何だっ?」「何?」「うそっ」”何ですか!?”「みみみ?」

 いきなり現れたことでみな唖然とした。

ムクッ

『よいしょ、って、ぬ、抜けないーっ!』

 その突き刺さっていた手裏剣みたいなものが動き出し、刺さった部分を抜こうとしたが深く刺さったのか抜けず、うんうん言いながら引き抜こうともがいていた。それはよく見ると手裏剣みたいなものではなくヒトデであった。星型の角の一角にげじげじ眉毛に両目、口らしきものがあった。

『『お前はヤシチんとこのヒデ!!』』「ヒデちゃん」”ヒデ?”「ヒトデ?」「何だありゃ?」

『どわっ! って、ふう、やっと抜けた』

 勢い余ってヒデと呼ばれた大きなヒトデが体勢を崩して倒れそうになるが何とかこらえた。

「お前達の知り合いか?」

 変なのが現れたと横島はスケ達に話しかけた。その間もナミコの胸の感触を楽しんでいるので少し鼻の下が伸びている。

『まあな』

 スケは神妙な表情で横島に同意した。

『うわ、や、やばいだ〜。ヒデが来たって事は…』

 カクは頭を抱えた。ぶつぶつとさらば、平穏な日々とか呟いていた。

『その通り。今回の騒ぎを収拾せよとご隠居からのお達しだ!』

『やっぱりそうなんだべか〜』「ご隠居様が?」

『そうだ。今回の件は例の試合を行い勝ったほうの意見を執行せよとの事だ』

『「『あの試合を!?』」』「”「試合?」”」

 内容を知っている海洋組は驚きを知らない陸上組は疑問の声をあげた。

『そうだべ、わしら海に棲むものにはきついものだべ〜』

『試合は容易く死合いへとつながるんや』

「どんなんだよ」

『うむ、地獄のゲームと言い換えてもいい。その名は日射血暴流』

「「ビーチボール?」」”日射血暴流ってなんですか?”「み?」

『そうや。照りつける太陽の中でな、わしらにとって生きるのに必須の水分が失われていく中、命を掛けて行うんや』

 スケが戦々恐々と語った。もっとも、その事については陸上に住むものには何ら実感がわかなかった。照りつける太陽には強い耐性があるので、いまいちその恐ろしさが横島たちには想像できなかったのだ。

『だが、ヒデよ。あれは本来2対2でやるんやないんか?』

『そや、だから当事者はパートナーを指名するんや』

「そんな! 私にはパートナーの当て…令子さん、お願いします」

 今までナミコは横島の腕を組んでいたが令子にパートナーを頼むためにスッと離れた。

「あっ!」

 横島は名残惜しい感触が離れていくのを残念に思ったがそれを思う所ではなくなった。

「ナミコがそうならおらも頼むだ〜。横島どん、あんたが頼りだ〜」

 がばっとカクが抱きついてきた。

「だ〜、放せーーっ! 男には抱き付かれたくないっちゅうんじゃーーーっ!!」

 無論、横島は抱き付かれまいと逃げ回った。

「ね、お願い。私には令子さんだけが頼りなの」

「え〜、でも〜」

 流石に令子は渋った。面倒くさい事に巻き込まれたくは無かったのだ。ただ、この件を解決しない限り今回の仕事も解決しないのも確かであった。これに巻き込まれさえしなければ勝手に仕事も片付いて楽ができるというのが分かっていて苦労したくなかったのだ。

「分かりました。手伝ってくれたらこれをあげます!」

 そう言って令子にナミコは直径2センチ近くの真珠を差し出した。

「こ、これは!?」

 令子はその美しいピンクの輝きに驚いた。巻き・照り・キズ・形・色すべてにおいて最高の品質である花珠であった。その価値は大きさから見てもかなりのものがあった。あの短い間に酒を酌み交わしながら話した事でナミコは令子がこういった金目のものに目が無いのを把握していた。

「どうです? 試合に勝てれば、もう一個、同じようなものを差し上げます」

 駄目押しとばかりにナミコは令子に告げた。

「やる! 私が参加するからには勝利は確定よっ!」

 目に円マークが輝き、令子は宣言した。

「令子さん、頼もしいです」

 こうして令子はゲームに参加する事になったのであった。一方、逃げ回っていた横島はというとカクに部屋の隅まで追い込まれていた。それは見事に追い込み漁のごとくである。

「くっ、しまった。逃げれん!」

『横島どん、おらに協力するだ〜。協力してくれたら若い女の子紹介するだ〜』

ピタッ

 横島の逃げようとする動きが止まった。

「カク…本当だろうな?」

 急に横島は真剣な目つきに変わった。

『んだ。男カクに二言はねえだ』

にへら

 カクのその言葉に横島は途端に表情を崩した。

「どんな姉ちゃんだ。教えろ!」

『ん〜、待つだべ。これか?』

 カクが取り出した写真を取り出し確認する。チラッと横島がその写真を見るとそこにはカメラ目線でうふんとウィンクをしてセクシーポーズかますタコが写っていた。

「………うぉーーっ! こいつらよう考えたら海産物やないかーーっ! 美人って期待できるかーーーっ!」

 横島は期待した俺がバカだったと血の涙を流さんとばかりに嘆き悲しんだ。スケはカクの出した写真を見て目つきを悪くし、どこからとも無くハリセンを出すと振り上げた。

バシッ!

『こらっ! カクッ! まだあるやないか? どういうこっちゃ!?』

 振り上げたハリセンでカクを叩くとスケは問い詰めた。

『こ、これは知らないだよ。本当だべ〜』

『その事については後でナシつけなな? 今は見逃したる』

『うう〜、これだけは誤解だべ〜』

 カクが言っている事は本当なのか半泣きになっていた。

『そんなんこっちは知らんわ。それより、早よ出したり。このままやと横島、使い物にならへんで』

 スケがカクに指し示した先にはえぐえぐと泣き崩れている横島がいた。

『分かっているだ。…あったべ。横島どん、見るだ。この娘を紹介するだ! これなら横島どんも満足できるはずだべ』

 カクは自信を持って横島に写真を出した。横島は恐る恐る写真を見た。そこには上半身だけとはいえナイス・バディな女性が写っていた。

「こ、これは!? この女性も人魚か?」

『いや、違うだ。でも、人間の男とも付き合うことのある一族だから大丈夫だべ』

「ま、まじ!?」

 横島は鼻息荒く聞いた。

『まじだべ。勝利したあかつきにはさらにその女性の従姉妹二人を紹介してやるだ。そっちも美人だべ。それに横島どんと同じ位だから丁度いいべ』

「やる、やるっスよ。ゲームに参加するッス」

 横島はカクと組む事を承諾したのであった。ここに師弟間、夫婦間対決が成立したのである。


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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