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GS美神 リターン?

 Report File.0051 「海から来た者 その4」
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 あれから千恵達と別れた横島は海水浴場をうろついて、令子に言われた気配が無いか慎重に探った。取り残せば翔子達のように悪霊に殺されかけるかもしれないからだ。黙々と何か考え込むように波打ち際を歩いていく横島を何人かは奇異な目で見た。

 翔子達のようなケースは滅多には無いが絶対無いとは言えない。翔子達が襲われたのは横島の推測だが一時的に霊への感覚が鋭くなっているからではないかと考えていた。何故そうなっているかというと横島が関わったチカン霊が原因だと思われる。

 霊能力は誰もが持っているものだ。霊能者との違いはそれが顕在化しているか、していないか、強いか弱いかの違いである。そう言ったわけで一般の人にも素質の有無はあれ霊能力は眠っている。で、強い霊波を浴びた時、それが一時的に増幅する事があるらしいが、普通は直ぐに影響がなくなる。

「うーん、あれから結構経っているから影響は消えているはずなんだけどな…」

 原因を考えたものの結局、自分の中途半端な知識ではわからなかった。結論が出ないのであれば考えても仕方がないと悪霊捜索に精を出し、隅から隅まで往復して気配を感じない事から、もう他には居なさそうだと思えた。

 令子の話ではこの辺にあの手の悪霊が入ってくるとしたら、力の増す夜になるから気配を感じなくなったら、もう居ないと考えていいと言っていたのを思い出す。

「…ってことはもう、自由? 夜まで自由にして良いって事か!?」

 横島は今日の課題をクリアし、自由になった事に気が付いた。しかし、海に一人では普通であればやる事が無い。精々、日光浴をする事ぐらいだろうか。

(むむ・・・翔子ちゃん達が事故に遭っていなかったら、今ごろは…)


 海を歩いていると横島の足元に転がってくるビーチ・ボール。それを拾い上げると驚いた女の子の声が聞こえる。

「あれ、あなた…横島君!?」

「って、翔子さん!?」

「もう! 私たちも居るわよ」

「朝美さんに鏡子さん!!」

「偶然ね! 横島君も遊びに来たの?」

「いや、仕事なんだけどそれは夜からって事で暇を持て余しちゃって…」

「なら、私たちと遊ぶ? 鏡子達も良いわよね?」

「ええ、OKよ」「私も…」


(…んでもって、ビーチ・ボールで遊び始めて、3人の健康的な美を目前で拝めたはずなのに!! それとも千恵さん達と…」

 ブツブツといい始め最後には大声で叫んでいる横島に奇異な視線が集まった。

「ねえ、お母さん、あのお兄ちゃん、どうしたの?」

「しっ! 見ちゃいけません」

 と言ったやり取りが横島の周りの其処彼処であった。自分が叫んでいた事に気が付いた横島は流石に恥ずかしくなって、そこから猛ダッシュで離れた。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、まさか大声で叫んでいるとは…結構、注目集めてしまったから意識してしまって、ナンパとかできんな…」

 勢いで海水浴場から離れ、岩場のある所まで来てしまった。ここまで来ると人の気配はしなかった。

(…エロ漫画とかなら、エッチとかやってそうな場所やな…)

 そうは思うものの流石にここでやっている奴らはいなかった。居たら覗きに走っていただろうけど。

(まだ結構時間あるしな…)

 横島は先ほどの海中での事について考え始めてしまった。やはり、自分の力不足故に命の危機に陥ったからだろう。だがそれだけでもないように思える。最後の方は人に助けてもらったが、何の取得もないと思っていた自分が命を救う事ができたのだと今更ながら初めて実感できた。

 突然、霊能力を身につけた事に戸惑いを覚え、そのまま流されてGS見習いをし始めた。最初はきついとも思っていたが、やり遂げる達成感を少しずつ感じ始め、最近は自信もついてきた。その矢先に死にかけた。

 今までもかなり危ない目に遭って来たが、今回は極め付け危険だったように思う。例え弱い悪霊が相手でも油断があれば死んでしまうと言う事が骨身に染みた。令子にもこれまで注意するように言われていたが余り現実感が無かったが今ならわかる。

 はっきり言ってGSを続けていくのが怖くなった。自分は基本的に臆病な人間だ。事故の前にあった筋肉男とのトラブルの時は、身体が固まって動けなかった。だが悲鳴が聞こえた時は自然に動けたのだ。

(しかし、やっぱりあれって女の悲鳴だったからか? そうだとすると俺の煩悩って…筋金入りつうことやな)

 何となく例えどんな危険があったとしてもそこに煩悩を満たすものがあれば飛び込まずには居られないような気がした。

(深刻に考えてもしゃあないよな。何とかなる…多分。それにGS見習いを始めてから何か、おいしい目に会う様になったしな)

 GS見習いをやる前…

 友人達とナンパをするがひっかからず空しい日々を過ごす…エロ雑誌をサングラスを掛け、コンビニで警戒しながら買う日々…

 とやり始めてから…

 キヌのおいしいご飯…令子の色気…その肌の感触…美少女達の下着姿…千恵達のキス…氷雅の生乳の感触…アイドルのキス…先ほどの生乳への顔埋め…

 今までの事を思い浮かべた。

(アカン、問題にならん…それにしてもよくよく考えると、危険な目に遭うほどおいしい目に会っているような気がしないでもないな…じゃあ、何か? 死闘でもやれば運命の相手に出会えるとでも言うんか!?)

 そういった思考にたどり着いた時、軽い頭痛と共におかっぱ頭に一対の触角みたいなものがあり、ゴーグルを着けた女性のシルエットが思い浮かんだ。残念ながら顔の細部は磨りガラス越しに見るように分からなかった。

(な、何だ!? 予知かなんかなのか!?)

 だが霊感が働いているようにも思えなかった。頭痛がしたことから失われた記憶に関係するのだろうかと思った。もう今では横島は記憶喪失がたかだか数日のものであるとは思っていなかった。

「………絶対何かある、俺の失ったっていう記憶には」

 取り戻すと決意したとき、耳に微かに声が聞こえてきた。何だか言い争っているように聞こえる。

「何だ?」

 聞こえる方向からそこら辺の悪霊とはちがう強い霊波を感じた。その霊波を辿ると岩場の奥に洞窟のようなものが見えた。

「こんな所に洞窟?」

 声はこの洞窟の中から聞こえてきた。横島は少し警戒しつつ、中の様子を見る事にした。

『だから言ったやろうが…あれだけ、今は止めとけって』

『すまんなんだ』

『まったくや。前はわしが頼み込んでやっと取り成したってのに…』

『すまんなんだ』

『舌の根も乾かんうちやりおってからに。わしの面子も丸つぶれや。今回だけはわし、どうもでけへんわ』

『そんなんいわんと助けてけろっ』

『アホウ! 毎回、騒動に巻き込まれるわしも、もう面倒見切れんのじゃ!!』

『スケさんに見捨てられたら、おらは…』

(何か、言い争っているというより、一方的に謝罪しているようだな…)

 どんな奴等が話しているんだ? と横島は好奇心に駆られてそうっと覗く事にした。

「!」

 横島は話している奴らを見て驚愕した。そこにはB級ホラー映画にでもでてきそうな鱗に覆われた人のような半魚人が、介党鱈(すけとうだら)という魚に人間の手足がついた、これまた半魚人の尾ひれにしがみ付いていた。

 横島は見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりにその場を立ち去ろうとした。が、お約束のように躓き音を立ててしまった。

「でっ!」

『ええい、放せっ! って、誰だっ!!』

(しまった! や、やばいっ! 見つかった!)

 打ち所が悪かったのかすぐには立てず逃げ出せなかった。

『『人間っ!?』』

(どわっ! 来よった怪奇映画出演者っ!!)

 横島が懸命に立とうとしている間に、先程から会話していた二人の半魚人が横島の所にまでやってきてしまっていた。横島はこりゃ、やばいと考えをめぐらせるがいい考えが浮かばなかった。

『……あんさん、わしらの会話聞いていたな…』

「あ…う、えーと…途中からだけど聞いてました…」

 ここは素直に答えたほうがよさそうだと横島は判断し素直に言った。

『まあ、ええわ。そんな大した事、話して…』

『大した事だっ! うおぉうっ! ナミコーーーッ!!』

 介党鱈型半魚人の言葉をさえぎって、ノーマル半魚人が号泣した。半魚人でも涙が出るというのか目頭にハンカチをあてている。

『身から出た錆や』

『おーい、おいおいおい。おーい、おいおいおい』

 ノーマル型半魚人は泣き止みそうに無かった。

「あのーどうなってるんすか?」

『ん? おおう、聞いてくれるか人間』

「俺は横島忠夫っス。横島とでも呼んでください」

『ふーん、横島か。俺は誇り高き介党鱈一族のスケだ。そのまま呼んでくれや』

 話した雰囲気からそうやばいことにはならないと感じた。それに異形でも意思の疎通ができることが驚きであり新鮮であった。

「分かりました。で、スケさん、どういう事なんスか?」

『どうしたも、こうしたもないんやけどな、こいつ、カクいうんやけど、奥さんに浮気がばれてしもうてな、逃げられてしもうたんや』

 どっかで聞いた名だよな…とは思うものの横島は大人しく話を聞いた。

『おーい、おいおいおい。 ナミコーーーッ、カームバーーークッ!!』

 スケの奥さんという言葉に反応したのかカクは叫びだした。

「……何か、聞いたことのある話やな…」

 何だか他人事には聞こえない理由だった。自分が当事者ではないが自分の両親がたまにやっているのと同じような気がする。ここまで酷くはなっていないが。

『一度ぐらいやったら、まだええんやけどな? これが2度3度となると非常に不味いわけよ』

「………」

 ますますもってスケの話は横島の思いを深めた。

『前にばれた時は、わしが何とか出張って治めれたんやけど、その後すぐに別の女の事がばれたみたいでナ…今回はいくらわしでもな…』

「大変っスね…で、奥さんてどんな人…でいいんか? とにかくどういう人なんです(半分魚の癖しやがって、浮気だと? 俺なんか浮気どころか恋人も居らんちゅうのに!)」

 横島はスケの話にカクをやっかみながらも、逃げたという奥さんに興味を持ったので聞いてみた。

がばっ!

『良くぞ聞いてくれただ。これがおらの自慢の女房だ〜』

 さっきまで泣いていた筈のカクが突然泣き止み、横島に写真を差し出した。そこまで思ってるんなら浮気なんかすんなよなと思いつつ写真を受け取った。

「! なっ! い、いかっ!?」

 写真にはホタルイカっぽいのがセクシーポーズと思われる姿で面と向かってウィンクしているのが写っていた。

『あっ! 違っただ。こっちだ』

 間違えた写真を渡したと慌ててカクは横島から写真を奪い取り、別の写真を取り出して渡した。

『このドアホウッ!! まだ、おったんかい!!』

『あうち! スケさん、悪かっただ。このおギンさんで最後だべ〜』

 スケはカクに呆れつつも、どこからか取り出したハリセンでべしっと突っ込みを入れていたが、横島は気にしてもしゃーないと無視して写真を確認する事にした。

「! に、人魚っ!?」

 そこには上半身人間で下半身が魚の人物が岩場に座っているのが写っていた。しかも、美人だった。ただし、そのそばでぴちぴち跳ねているお魚は見なかったことにした。

『それがおらの女房だ〜。そばのが子供だぺさ』

 カクの言葉にやっぱしなと先程思った事が正しかったかと横島は思った。子供は魚って事は皆男か? それとも途中で人魚に変わるのか? と疑問が沸く。まさか、人魚へ変わる一時期が人面魚とかなんて事は無いだろうなと人魚に対するイメージが崩れかねない事を思ってしまった。

「美人の奥さんやのに何で浮気なんか…(しかし、上半身だけとはいえ、スタイルいいな…こんな人が奥さんなんて羨ましい…でも、魚人というか人魚というかの美的感覚は解からんなぁ…)」

 しげしげと写真を眺めながら横島はこいつは自分の父親と同類やな…という感想を抱いた。

『仕方ないだよ。美人に言い寄られたらフラフラっといってしまうんが男だっぺ』

「くっ! それは…(何でこんな奴がもてるんだ!? 世の中間違っとるっ! だがっ!)…わかるっ! わかってしまうっ!」

 カクがもてる事については納得がいかなかったが、悲しき男の性か、横島もその状況になったらいってしまうと共感してしまった。

『そうだべ〜。横島どんもそう思うだべ〜』

『こいつらは……』

 がしっ! と抱き合う二人にスケは呆れた。

(しかし、話を聞いたは良いんやけど、このままだと巻き込まれてしまうな…)

 話の雰囲気と流れから横島は何となく嫌な予感がした。

『しゃあない奴らやな…そやっ! 横島、あんさん、こいつの為に一肌脱いでくれんか? 気が合っとるしな』

 嫌な予感は的中しやすいものなのかスケさんが横島が予感していた事を言った。

「(やっぱりーっ!)でも、俺は…」

 ずぃっとスケににじり寄られて横島は思わず腰を引いた。というか引こうとしたが、できなかった。

グキッ!

「ぐはっ!」

 横島はカクにベアハッグとも言えるほどの勢いですがりつかれたからだ。

『た、頼むだよ、横島どん。今や横島どんだけが、頼りだ〜。なあ、頼むだ〜』

 横島の顔が段段と青紫に変わリ始めていた。

『…カクよ。そんなにきつく絞めたらあかん…横島、泡吹いとる…』

 あまりの締め付けに横島は気絶していた。

『あっ! しまっただっ! 横島どん、おらが悪かっただ、ゆるしてけろ〜』

 辺りに慌てて横島を介抱しながら叫ぶカクの声が響いた。

 なし崩し的に仲裁を引き受ける事になってしまった横島の運命はいかに!


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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