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GS美神 リターン?
Report File.0044 「人形帝国の逆襲 その2」
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「人形か…俺の場合はどっちかっていうと超合金だよな」
超合金でも人形の一種には違いない。
「超合金?」”ちょーぼきんって何ですか?”
聴きなれない言葉にアヤは首を傾げ、キヌはボケた。
「違うって、超合金だよ、チョ・ウ・ゴ・ウ・キ・ン! まあ要するにだ、硬い金属でできたロボットの人形の事だ」
”ああ、そうなんですか!”「あー、近所のキンヤちゃんがもっているやつの事なんだ〜!」
横島の言葉に二人は納得した。
「み〜〜っ!」
グリンもご機嫌なようで声をあげた。いつもはキヌの腕に抱かれているか、横島の頭に乗っているかだが、今回はアヤに抱きかかえられていた。
「ああ、タダ働き…胃がキリキリと痛い。ただでさえ損を取り戻さなくちゃいけないのに…」
そんな賑やかな一行と一線を引いて、ブツブツと呟き、お腹を時折押さえ令子は歩いていた。一行もそんな令子を見て見ぬ振りをする事にした。下手に関わるとこちらにストレスをぶつけられそうだからだ。
特に横島は
(美神さんが機嫌が悪いのはまさかあの日だからか?)
と思ってもいたからだ。口に出していたなら、ただではすまなかっただろう。そんな一行が向かっているのは現場…アヤの家である。
「あそこだよ!」
「おう、意外に近かったな」
まあ、大人であればそれ程感じはしないが、小さい子供の行動範囲から考えればアヤの行動は大冒険と言っていい距離であった。それだけモガちゃん人形は大事な友達なのだろう。
(アヤちゃん、良く迷わなかったな…意外に頭いいのかもな。小さいといっても侮れんな。これ程までに取り戻したいって思っているんだから、ちゃんと取り返してやらなくちゃな…)
横島は内心で決意した。今回の事件はやばいと自分の感が言っているが、それでもアヤの期待に答えてやりたかった。
「アヤちゃん、朝からどこ行っていたの? 出かける時はママに…」
扉が開く音がすると、朝から姿を見せなかったアヤを心配していた母親がすぐさま玄関に出て問いかけたが、それは途中で止まった。アヤばかりではなくその後ろに見知らぬ男女が幽霊を引き連れてきたのだ。戸惑ってしまうのも無理は無かった。
「「おじゃまします!」」”おじゃまです”「み〜〜っ!」
唖然とする母親の態度も何のその。気にせず美神令子除霊事務所ご一行様はアヤについてズカズカとあがりこんでいった。
「!? ど…どなた!?」
「ご心配なく! 家を見た瞬間にお金が無いのはわかっていますわ!」
はっとして何者か問いかけるが、自分ではとても恥ずかしくて着れないような派手な服を来た女から返ってきた言葉は、まったくもって失礼なものであった。
「…アヤちゃん!! この失礼でデーハーな女は誰なのっ!?」
母親の声が空しく響いたがそれに答えるものはいなかった。そんな母親にお気の毒にと横島は思ったが下手に口を滑らすと痛い目にあうので黙ってアヤについていった。
「ここがアヤちゃんの部屋ね?」
「うん!」
アヤの返事と共にびしっと令子は霊視ゴーグルを目に当て調査行動に移った。このオカルトアイテムは霊視能力を増幅強化してくれる優れものである。要は普通ならば見えないものを見ることが誰にでもできるというものだ。それは霊能力の無い一般人でも見ることができるのだ。
そのアイテムを使って令子は話にあった窓を見た。そこには窓に張り付くように直径30cmぐらいの不気味な穴が見えた。霊視ゴーグルを外せばそこには何も無い。
「窓に異界へ通じる穴があるわ! 2、3日前に開いたのね。まだ完全にふさがっていない」
異空間の穴は通常、そう直ぐには消えない。徐々に小さくなっていく。開く時も同じで徐々に大きくなる。今回の穴も通常に漏れないものだった。
「へえ…すごいっスね。俺には見えませんよ」
横島は目を凝らしても見えないので辺りをきょろきょろと見渡した。これが年頃の女の子の部屋だったら落ち着かず、挙動不審になっていただろう。
「当たり前でしょ。こんなの直接見る事ができる人間なんて霊視に滅茶苦茶優れているか、魔眼のような特殊な能力を持っているかよ。まあ、もし見れたとしても、見え過ぎて正常な精神で居られるかは分からないけど」
「そうなんですか?」
「当たり前でしょう。横島クンだって最初の頃は雑霊が見えてびくびくしていたじゃない。ああいう類の酷いのが四六時中見えるのよ」
わかるでしょと人差し指を立てて横島に念を押すように言った。
「あ、あれより酷いんスか?」
「そうよ、見えるって事は見られる側も影響、もしくは干渉ができるって事。例えば今回のような穴が地面にあった場合、見える人には現実に穴があるのと変わらないの。それに雑霊が見えていた時は横島クンしょっちゅう、雑霊とぶつかっていたじゃない」
認識するという事はその人にとって現実となるという事だ。
「じゃあ、見える人がそれに気づかなかったら…」
当たって欲しくないけど、話の流れからして無理だろうと横島は思いつつ口にした。
「普通の人は大丈夫でしょうけど、見える人は落ちるでしょうね」
”じゃあ、神隠しとかって…”
「そう結構、霊視能力が低くても環境や状況によって見えない事も無いから、そういうケースでそういった穴に落ちたとかって言うのが原因になっているらしいわ。全部じゃないけどね。」
”そうなんですか”
それをキヌは聞いて納得した。
「こ、怖いっスね。そんなの聞いたらまともに歩けませんよ…霊能力があるのも良し悪しだー!」
何で俺は霊能力に目覚めちまったんだーっ!と横島は頭を抱えた。
「そんなの事故みたいなものよ。横島クンが宝くじで一等を当てるよりも確立は低いわ」
多分ねと内心で令子は付け加えた。なんだかこの男はそういったことに関しては妙な確立で出会う可能性があると感じていたからである。もっともそれを口にして不安がらせるのは得策ではないと口をつぐんだ。
”美神さん、異界って何ですか?”
「異次元、霊界、亜空間…とにかくどこか別の世界のことよ。今回は妖怪の巣と言ったところかしら」
アヤから話を聞いている限りでは亜空間だろう。妖怪は自分の妖力でそういった空間を造り、巣として利用する事が多い。隠れるにも非常に便利だからだ。そういった存在を相手する場合はGSは注意しなければいけない。なぜなら、空間を作るという事はそれだけ恐るべき能力を持った存在だからだ。
「アヤちゃん! どういう事。何? あの人達は? 特にあの失礼な女は誰!?」
少々、アヤの母親は興奮しているのか詰問になっていた。
「ゴーストスイーパーよ、ママ」
そんな母親の調子にアヤは落ち着いて言った。答えた後、直ぐに令子の方を見た。その目は自分の友達を取り返してくれるという期待を抱き輝いていた。だから、令子の態度などはアヤにとっては瑣末な事なのだろう。
「ゴーストスイーパー!? それじゃ、アヤの言っていた事は本当だったんですの!?」
だが、母親の方はそうではない。ただでさえ令子の礼儀知らずな態度にはらわたが煮え返っているというのに、加えてGSなどというある種、訳の分からないモノを扱う人間なのだという。警戒しない方がおかしい。また、GSといえば高額な報酬を要求する事が一般には知られており、そんな事に思いが及ぶと途端に料金が払えるのか? と主婦根性が沸き起こり、心配になった。
「そうなんですよ、奥さん」
そんな不安そうな母親を安心させようというのか青年が手をとって握った。そんな行動に母親も少し安心する。
「でも、もー大丈夫。若いボクがきっと貴女を満足させ…」
が、突然口調を変えて口説き始めた。
「え!? あの!?」
突然の変化に母親はついて行けず混乱した。
ばきっ!
しかし、それは阻まれた。無常な一撃が横島の脳天に突き刺さり、床にあえなく沈んだ。そんな横島をキヌがどこから出したのか救急箱を抱きかかえており、すばやく手当てを開始する。ただし、キヌの表情は少し引きつっており、手当ても手荒かった。
「無理矢理話を邪まな方向に持っていくな!!」
GSの品位が問われると令子は横島に制裁したのだが、自分の態度もまたその点ではどうかという事に気づいていなかった。
「え〜と、あの大丈夫なんですか?」
チラッと床に沈みキヌに手当てされている横島を見てアヤの母親は言った。
「大丈夫です。いつもの事ですから」
その言葉に母親も少しだけ令子を見直したと同時に倒れている青年が自分を口説こうとした事で私ってまだまだいけるじゃない等と思ったのである。余談だが今日のこれがきっかけでアヤに妹か弟が生まれる事になった。
「…さて気を取り直して行きますか。アヤちゃん! モガちゃんはおねーちゃんが連れて帰ってあげるからね!」
「お兄ちゃんもがんばるからな!」
「うん!」
にこっ
アヤの純粋な笑みは令子たちを信じている思いを感じさせた。
「行くわよ! 用意はいい!?」
”いいです”
「よっしゃ! やったるでーっ!」
令子の呼びかけにキヌは今回初めて実戦で使う神弓を、横島は神木刀を構えた。その様子に令子も満足そうにうなずくと自分も獲物である神通棍を手に気合を入れた。
「あまたの異界へ通じる扉よ……!! 道を開き我らを迎え入れよ!!」
令子の澄んだ声が浪々と部屋に響いた。アヤとその母親は固唾をのんで見守った。
ボヒュン
空気が抜けたような音がし、さっきまでなかったはずの穴が部屋の窓のある一面いっぱいに出現した。穴は闇に包まれ中がどうなっているのか分からなかった。
「おおっ!」”へえ〜”「こ、こんなのが家に!?」「モガちゃん…」
出現した穴に皆は驚きの声を上げた。
「さあ、行くわよ!!」
”はい!!”
「アヤちゃん! グリンの面倒を見ていてくれよな!」
「はい!」「み〜っ!」
アヤ達は穴に入っていく令子たちを見送った。
穴の中に入ると闇に覆われているものの霊感覚で辺り一面が広がっている空間である事がわかった。入った入り口から奥の方から強力な霊波が漂ってきていた。
「美神さん!」
「分かったわね、横島クン。かなり強力な相手のようよ。油断していたら死ぬわよ。慎重にね」
「はい!」
感じた霊波の強さに一同は気合を入れなおした。
”美神さん、何か変です。この霊波、時折複数あるように感じるんですけど?”
「俺もです」
「本当? …おキヌちゃんの言うとおりだわ。横島クンも良く分かったわね。確かに複数居るような感じね(霊体としてのおキヌちゃんは自然と霊波なんかには敏感なのは分かるとして、横島クンも感じてたのか…)」
私は感じてなかった…と横島の方が霊感覚が優れている事に令子は少なからずショックを覚えた。
「はい、美神さんが注意するように言ってくれたから気づいたんスよ」
令子に珍しく褒められて横島は照れた。横島の言葉に自分と横島との能力差はそれ程無いと感じた事で気も紛れた。集中した自分が気づかなかったなら、かなりショックであっただろうが気づいたからだ。
「同じ波長の霊波が複数居る感じがする…」
「美神さん…今回の相手って何なんでしょう?」
「さあ? 手強い奴だっていう事は分かっているんだけど、情報が少なすぎるわ」
一同は油断無く得物を構え霊波の感じる方向へと向かった。
「そうっスか…」
「でも、単純に考えれば悪魔の一種かなとも思えるけど、だったら人形だけを連れて行くはずが無いし…」
”人形がひとりでに動くとかっていうだけでしたら怪談なんかでも定番ですしね…”
「そうね、それだけだったら人形が付喪神(ツクモガミ)になったんだと言えるんでしょうけど」
「付喪神って前に教えてもらった人の想いから生まれるっていう奴ですよね」
「そうよ。案外、黒幕はともかくアヤちゃんの人形があたかも意志が宿ったように、動いたってのは付喪神として目覚めたからかもしれないわね」
「でも、もしそうだったら、黒幕はそういった付喪神を集めている事になるんじゃ…」
「! しっ!」
横島の言葉を遮り、令子は耳を澄ました。
ヒソヒソ
「み、美神さん…」
”何でしょう? 話し声のような気がしますが”
「声が小さいから良く聞こえないわ。でも、これは普通の声じゃない…」
その声から霊波を感じたからだ。
”来タ…””コッチヘ来タ…””人間ガ来タ…”
そうっと令子達が話し声のする方向へ来たとき、ようやくはっきりとした声が聞こえてきた。
”あら…”
そう声が聞こえると一体のモガちゃん人形が闇の中から浮かび上がった。
「「!」」”!”
令子達は驚き身構えた。
”美神令子ちゃんじゃない……! 久しぶりね”
その人形が令子に向かって懐かしそうに声を掛けてきた。それと共にその背後に目と思しき光が一対、また一対浮かび始めた。そしてそれは段々とはっきりと浮かび上がる。
ザワザワザワ
それと共に騒がしくなった。
「えっ! ひ…久しぶりって、まさか…!?」”ひっ……”「げっ!」
自分の名前を呼ばれて令子が驚愕している間に、目の前には様々な格好をしたモガちゃん人形が所狭しと現れた。その光景に令子は脂汗を垂らし、キヌは怯えて横島の肩にしがみついた。横島もその不気味さに神木刀を構えたもののその切っ先はブルブルと震えていた。
すっ
そんな令子達に話しかけたモガちゃん人形の一体が余裕な態度で服を脱ぎ始めた。
(くっ! これが人形じゃなければ…しかし、妙に色っぽいしぐさだ…)
横島は人形の見せる妙な色っぽさに体の震えが止まった。人形の肌は霊気を帯びている為か嫌に人間の肌に近いように見えた。そんな人形は服をずらすとすっと背中を見せた。
「おおっ!」
そこには、みかみれいこと名前が拙い字で書かれていた。
”ふふふ、よく一緒に遊んだじゃない。忘れたの?”
人形ゆえに表情は無かったが言外に寂しいわ…と言っている様だった。
「わ…私のモガちゃん人形!? なくしたものとばっかり…」
だが、それを見せられた令子は激しく動揺していた。脳裏にはわたしのにんぎょうはよいにんぎょう…と、小さい頃、大好きなママに買ってもらったモガちゃん人形で不在がちだった両親への寂しさを紛らわせる為に良く遊んでいた事を思い出した。あの頃は親の事情か一つの所に留まる事が無く、友達ができなかった事もあって、モガちゃん人形を一番の友達として大事にしていた事を思い出した。
”くすっ、令子ちゃんの霊能力が少しずつ染み込んで魂が宿ったの。多分、令子ちゃんが大事にしてくれた想いも助けになったんでしょうけど。仲間もこんなに増やしたわ”
脱いでいた服を戻しながら令子のモガちゃん人形は自分の仲間を自慢げに見せ付けた。
がんがんがん
何事と令子やキヌが見ると横島が四つん這いになって頭を床らしき所に叩きつけていた。
「違う、違うんや〜〜! 俺はそんなマニアックやない〜〜!」
横島は令子のモガちゃん人形に煩悩を刺激されたが自分にそんな危険な趣味は無いはずだと必死に否定していた。
”よ、横島さん!?”「横島クン!?」
令子、キヌの二人は状況も忘れて横島の奇行に唖然とした。
”くすくす、美しいって罪ね…”
モガちゃん人形だけが分かっていたらしく笑った。
「…あんたが私のモガちゃん人形っていうのは良く分かったわ。そんなに仲間を集めてどうしようって言うの!? 目的は何!?」
令子は黙れと横島を踏みつけにした。おお、水色…やっぱり本物が一番や…という声が下からしたが黙殺し、目的を問いただした。
”ふふ、それは人間を滅ぼして私達がこの星を支配することよ。それはもうすぐできる。それが達成できれば今度は私達が人間で遊ぶの…! 素敵でしょ…!?”
令子のモガちゃん人形は自分の目的を告げた。無表情で語りながらも持ち主と同じように自信満々である事が感じられた。
「なっ!?」”そんな事が!?”
令子、キヌはその言葉に驚くが何時の間にやら復活した横島は違った。
”に…人間が着せ替え人形にされるとゆーことは…俺は「ボーイフレンドのタダオくん」…!?”
”あなた不細工とは言わないけど、だからってボーイフレンドって柄でもないわね。せいぜい下男とか下僕がお似合いかしら!”
「せ、性格も持ち主そっくし…!!
人形の自分への評価にがーーん!と自分でも自覚しとるのに何もそこまで言わんでも…とかなりショックを受けた。
ばしっ!!
「うげ!」
しかし、そのショックを受けている横島に敵と相対している状況にもかかわらず、令子は制裁を加えた。いかなる状況でもきっちり自分の悪口に反射的に反応していた。
「あっ!」
令子は口に手をあて、今回ばかりはマズイと思ったが、後の祭り。 やっちゃったもんは仕方ないと開き直った。
「…冗談じゃないわよ!! 私の持ち物にそんな事されたら私の立場が…!! 身の破滅よっ!!」
血濡れで倒れている横島を一瞥したが頭の隅に追いやり、神通棍を握り締め令子は叫んだ。やってしまったミスを憤懣に変換した。その感情が反映しているのか神通棍はバチバチと何時もよりも出力が高いようだった。キヌは急いで横島の治療をし始めた。
「そーゆレベルの問題じゃないって…」
地に伏して意識が朦朧としながらも横島は律儀に令子の言葉に突っ込んだ。
何気に令子はピンチであった。横島は倒れ伏し、キヌはそんな横島の面倒を見るので手一杯。戦えるのは令子だけなのだ!!
(つづく)
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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。