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GS美神 リターン?

 Report File.0030 「横島の学校生活 その4 〜 みんなでお勉強」
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 そこは何時もの放課後の教室とは思えない程、熱気に溢れていた。

「いいかいおキヌちゃん、良く聞くんだよ?ついでに横島もな」

 横島と同級生・・仮に友人Aとしようがキヌに向かってにこやかに言った。

”はいっ!”

 キヌはこれから教わる事に目を輝かせて友人Aに返事をした。その真摯な瞳に友人Aは頬を赤らめた。

「ついでってなんだ、ついでって」

 照れてる友人Aに対して横島は不機嫌そうに言った。

「やかましい、本来これはおキヌちゃんの為だけに開いた勉強会なんだぞ!!それに便乗する形で受けてるお前が言えることか!!」

 友人Aはメガネのブリッジを押さえ興奮して叫んでいた。

 何故、勉強会をしているのかと言うとキヌが折角授業を受けているのにわからないのはもったいないと言う言葉をもらした事が発端であった。それを聞いた横島の同級生、中でも横島と同類がその言葉に過剰反応を示した。そいつ等の中でも学力の高い者が得意教科について教えようと言い出したのが始まりである。

 それはキヌが殆ど知らないことから小学校レベルから始まった。キヌは何も知らないだけで頭は良かったのかとんとん拍子に覚え、今や殆どの教科は中学レベルにまで達していた。なお、キヌは横島に括られており、今の所は長時間離れる事が出来ないため自然と横島も受ける事になった。

 横島も最初は小学校レベルだったのでバカにしていたが中学レベルにまで来ると分からない所もでてきた処でこりゃ、やばいと真剣に受けだした。すると、どうだろうか横島も基礎学力が向上することができ今までついていけないと普段の授業でもあきらめていたものが少しずつだが理解できるようになって来た。わかってくると面白さを見出すのが人間である。横島もキヌと同じく夢中になって勉強し始めた。そうなってくると教える側も負けていられないと今まで以上に理解を深めるべく勉強し始めた。

 そうなってくると周りのものにも影響が出始めた。真摯にがんばっている姿を見せ付けられると自分もやらねばと言う気が起き始め、このクラスの平均学力は向上し始めていた。担任は涙ものである。だが先生にとってもこのクラスは非常に緊張する場となり始めていた。特に適当に教えていけばいいや等と思っていた者はクラスの大半に質問攻めされ答える事が出来ず撃沈されショックで登校拒否になってしまった。学び舎としては歓迎すべき生徒達の熱意ではあるが教師にとっては災難と言ってもいいだろう。逆にそれによって若かりし日の情熱を取り戻した教師もいた。

 なお、キヌに教え始めた者たちは次第に増える勉強会参加者への指導も含めて教える事に喜びを見出し、進路を教職と志す事になった。

「わかった、わかったって。そう興奮すんなよ」

 仲裁に入ったのは友人Bで興奮する友人Aの肩をポンと叩いた。

「そういうお前もだ!!何食わぬ顔でいうな!!」

 何時の間にやら勉強会に参加している友人Bに怒鳴った。

”あのケンカしないで下さい”

 キヌはそんな友人Aの様子をオロオロしながら言った。

「何を言っているんだ。俺達ケンカなんかしてないぞ。そうだな?」

「ああ」

 キヌの困りきった声を聴いた瞬間、友人A,Bはぴたっと怒鳴りあいを止め、肩を組み合った。流石は横島との同類である。女にはからっきし弱かった。

「じゃ、始めようぜ」

 傍観していた横島がさっさとやろうと声をかけた。同じく何時の間にやら参加し始めた同級生や噂を聞いた他のクラスからの者もいた。

「じゃあ、俺の担当の数学からだ。用意したテキストを回すからそれを見てくれ」

 そう言って友人Aは自分の持っていた参考書や教科書、はては手書きのノートのコピーを参加者に配布し始めた。最初はキヌと横島ぐらいだったからコピーなど無くても良かったのだが人数が多くなるにつれ、コピーする必要が出てきた。とはいえ学生としてはコピー代とて毎日で結構な人数分用意するとなればバカにならない。それについてはコピー代をバイトでかなり融通の利く横島が出す事を申し出た。その頃には横島も本格的に受けるようになっており、教える側も結構大変であると知っていたので彼等への報酬というかお礼としてキヌに彼等の分の弁当も作ってもらえるように頼み込んだ。キヌもまた彼等への御礼が出来るとあって直ぐに了承した。弁当の材料費は横島持ちなのであるが令子にしては破格な待遇でバイト代をもらえているので余裕はあった。

 毎日、手作り弁当が食え、それによる昼食代が浮く事で彼等の苦労も報われる事となった。

「じゃあ、今日は・・・」

 教室に数学の問いの解き方を説明する声が聞こえる。そこを通り過ぎたこの学校の校長は足を止め少し覗き込んだ後、満足そうに頷きにこやかに離れていった。

     *

「ふう、こんなもんか。こうやってまとめてみると最近特殊なケースが多いわね。まあその分、儲けているんだけど」

 通常のケースに当てはまらない仕事は大抵が難易度が高めのものになる。高くなると言う事は報酬もまた高額になるのである。解決できるなら引き受けてもいいが大半のGSは避ける。なぜなら大概が赤字になってしまう恐れがあるからである。そういうわけでこういったケースは回りまわって、うまく処理できる一流のGSに回ってくる。

 腕が一流である者は、一部を除き自分の技量とどれくらいの装備で解決できるかを大体見込めるので、そこから採算が取れる報酬を要求する。それが自然と高額を要求する事になる。報酬の殆どは除霊道具の代金で消えていくのだ。

 令子が高額報酬となるのは令子自身の利潤を多めに取ると言うのもあるが、道具使用での除霊が主である事が一番の原因でもある。師である唐巣神父が得てして報酬を貰わずに除霊する事があり、何とかやっていけているのは、除霊道具に頼らず自分自身と神の御心による力を主としているのでコストはそれ程かかっていないのだ。これは弟子であるピートにも当てはまる。

 主流がどうしても道具を頼った除霊方法になるのでGSへの報酬は最低でも百万単位になる。それ以下で請け負う事は先ずないといっていい。あるとすればよっぽど食い詰めたGSか、唐巣神父のようなお人よし、または除霊道具を必要としない霊能を持つ者ぐらいだろう。

 令子が唐巣神父の弟子として過ごしていた時に、唐巣神父と同じ除霊術を学んではいたが必要とするものが徹底的に足りず行使する事はできなかった。足りなかったのは心のありようであった。唐巣神父の除霊術は私欲を捨て心を清らかにしなければならないが令子はその逆の欲に目が眩みお金に執着するという心根を持つ者であったからだ。

 令子的には経済的な除霊方法を身に着けることが出来なかったのは非常に痛い事であったがそれを除けばGS稼業を始めてからは順風満帆である。

 事務所の経営における儲けの推移を見て令子は満足そうにしていた。横島を弟子としてとった時から少しずつだが伸びてきていた。何だかんだ言っても横島およびキヌはそれなりに役に立っているのだった。特にキヌにより牽制、横島により悪霊を弱らせ、止めを令子というのが最近のパターンとなっていた。それがコスト的なものを抑える事に繋がり自分一人がやっていた時よりも人件費が多少増えても、それよりも経費が少なくなり自然と利益が前より取れるようになってきている。

 きているというのも横島とキヌの腕がどんどん向上してきているので効率が良くなっているからだ。

(横島クンはここ最近は、放っておいても成長していきそうな勢いね・・)

 そうは思うのだが何だか面白くない。霊的な知識はてんで何も知らないが霊能等の力に関する扱いは令子が教えていなくとも勝手に成長し始めている。出会った当初は禄に霊能を発する事も出来なかったのに今では問題なく発生させている。それ所か自分が何のアドバイスもしていないのに発展さえしているのだ。

 面白くないと思うのは横島の霊的才能に対する嫉妬かもしれないと思い至った令子は愕然とした。

 霊的才能は霊能、霊感、霊圧、霊力、霊制御に基本的には大きく分かれる。霊能とはいろいろな形で発現される能力の事だ。式神を使役する事や神通棍等の道具に霊力を通す事などがこれに当たる。霊感とは霊を視たり、未来や過去を何らかの形で読み取ったりする事などである。そして霊圧は霊能などをどれだけ強力に使えるかを表す。霊力は霊能をどれだけ持続させる事が出来るかである。霊制御は他の能力をコントロールして扱えるかである。

(私が嫉妬ですって・・この美神令子が・・)

 思い当たる所はある。『栄光の手』を横島が発現させたのを見た時だ。

 令子は霊的才能の中でも霊感、霊圧、霊制御が特に優れている。一流と言われている令子ではあるが意外にも霊能に関してはスタンダードなものでしかない。霊力に関しても一般的なGSに比べれば優れているが特にと言うわけではない。霊制御により無駄な使い方をしていないので特に問題ないのだ。

 そして、横島は霊能、霊圧、霊力が特に優れていた。だが、他のものにしても、霊感は今の所、からきしだがそれも使い方を理解していない節がある。そう言えるのも霊感の中でも基本中の基本である霊視を直ぐに安定して使える様になった事があげられる。霊制御に関しても『栄光の手』を維持制御していた以上、それなりの高いレベルであるのだ。これも他の霊能に反映していないのも使い方を理解していないから。それを考えると横島の霊的才能は全体的に豊かに恵まれている。はっきり言って天才と言っていいだろう。

 特に霊的才能の中で霊能だけは素質がものをいう。他のも素質に左右はされるが決定的ではない。それらは研鑽を積めば強化できるが霊能だけはそうはいかない。それだけはその者固有のもので生まれ持ったもので増やす事など出来ないのだ。

 今時点では令子の方が優れていようとも横島のポテンシャルを考えると何れは追いつき追い越されると感じたのだ。現に霊力による身体能力の強化は意識的ではないにしろ、既に凌駕している。自分では体育館の屋根にひとっ跳びというマネはできない。せいぜい3mいや4m跳べればいいほうだろう。

 GSのように霊能に目覚めている者であれば霊力を使用する事により身体能力を引き上げることができるのである。それでもせいぜい肉体能力限界までであろう。そういう意味では横島のあの身体能力は異常であった。

(落ち着くのよ・・令子。何も素質があるからそいつが一番でいられる訳じゃないわ。そういう例はごろごろしているじゃない)

 令子の頭にその一例である一人の人物が思い浮かぶ。おかっぱ頭ののーてんき娘というイメージが強い知り合いの式神使いの六道冥子嬢だ。彼女は素質と言う点で令子を軽く引き離す程に優れてはいたが二流GSである。霊制御に致命的な欠陥があるからだ。彼女は強力な式神を12体同時に使役する事が出来るがそれだけで見れば霊制御は超人的といえる。が、本人がパニックを起こす事で霊制御は崩壊してしまうのだ。それが原因で除霊失敗が何度と起こっている為、強力ではあるが芽が出ないのだ。

 横島はというと今の所、欠陥らしい欠陥は見つかっていない。見つかったとしても己のプライドにかけて弟子である横島を矯正してしまうだろう。

 あると言えばセクハラ行為だろうが、これとて横島がもう少し落ち着けば言いだけの話しなのだ。落ち着ける方法は幾らでもある。

「えっ!」

 ある一つの方法が頭に過ぎった時、令子は顔を真っ赤にさせた。

「な、なんで私がそんな事を思いつくのよ!!たくっ」

 令子は頭を冷やそうとシャワーを浴びる事にした。

「何にせよ横島クンが私を越えるのはまだまだ先のこと。いいえ、そんな弱気じゃいけないわね。超えられないように私が引き離せばいいのよ!!」

 令子は握りこぶしを作って決意を固めた。安穏とはしていられない師匠として、何よりGSトップの一人として簡単に越えられぬ壁とならねばならないのだ。

     *

「もう、こんな時間か。今日はこれまでな。それからこれは宿題だ。明日は俺のはないから明後日までにやっとけよ」

 そう言って講義していた友人Cがプリントを配った。

「Cさん、ありがとうございました」

 ぺこりとキヌは友人Cに挨拶した。友人Cはキヌの笑顔を見て今日の苦労が報われたと感じた。

「なーに、おキヌちゃんの為ならってね。それに飲み込みが早いから教え外があるよ」

 そんな事をいう友人Cを何かっこつけてんだと友人達のドツキによる突込みが入った。

「でも、私何も知らなかったんですね。こうして知っていけるのは凄く面白いです」

 キヌはクラスの仲間が騒いでいるのを楽しく眺めた。まさか、死んでから約300年経ってこんなに楽しく時を過ごせるとは思わなかった。

(横島さんに私、出会わなかったら、今頃どうなっていたんだろう?多分、悪霊になっていたのかもしれない)

 キヌは横島に出会う直前のあの黒い感情にぞくっとし、それに染まらずに横島と出逢えた幸運に感謝した。

「まあ、俺もそうだな。理解できれば、結構面白く感じるよ」

 帰り支度をしながらキヌの意見に横島は同意した。何時までも収まりそうにない騒ぎを横島は仕方なく収拾しようと友人達に声をかけた。

「何時までもこんな時間を過ごせればいいな・・・」

 ある意味、幸薄い人生を送ってきたキヌは久方ぶりに自分の居場所を得たように感じた。その少女のささやかな願いが叶う事がないのは長年の幽霊経験で知っていたが、横島のそばに居る間は幸せでいられると感じた。

 もっとも、その願いはある人物が横島の前に現れた時、まやかしだと自覚させられる事になるが、それはいま少し先のこと・・


(つづく)

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注)GS美神 極楽大作戦は漫画家の椎名高志先生の作品です。






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